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貴女に永遠の愛を 《 改訂版 》  作者: aki
閑話(一)
17/20

宰相様のひとりごと

 神聖ファーノ帝国。


 初代皇帝のエヴァンジェリスタ・グイド・ファーノ陛下は二十歳で皇帝の位に就き、つい先だって二十八歳となられた見目麗しき美丈夫であらせられる。


 保有される魔力量はかつて世界を混沌に陥れたフリオ・アラーニャのはるか上をいき、人格も申し分なく、民草の暮らしがよりよくなるように常に配慮を怠らない名君であるが、側近としてお仕えする我らの悩みの種となっていたのが、いつまで経ってもお后をお選びになられないということだった。


 陛下の魔力量から判断すると、寿命はわれらよりはるかに長く千年以上の年月を過ごされるだろうことは予測できる。

 その事実からすればご結婚を急ぐ必要などないのだろうが、やはり皇帝陛下がいつまでも独身というのは好ましくない。


 やはり陛下のお隣に立つ華は必要だ。

 たとえその華の寿命が陛下よりはるかに短いものだとしても。


 だから二十八歳を迎えられるにあたり、陛下が皇妃を迎える決意をされたとご自身から聞かされたときは心の中で踊りだすほど歓喜したものだ。


 しかしまさか、花嫁を異世界から召喚されるとは誰が考えただろう?


 ファーノ王国時代から陛下にお仕えしている大臣方は陛下のお相手をご存知のようだったが、帝国建国後にお仕えすることとなった臣には陛下のお考えがまったく理解できなかった。


 普段自らのお力を誇示されることのない方だが、皇妃召喚については意見を述べることは一切許されず不満を持つ臣下ともどもやきもきしながら迎えた運命の日。

 陛下ご自身のお力によって異世界から召喚されたのは、まるで娼婦と見まごうようなあられもない服装をした、だが目を奪われずにはいられない美しい少女だった。


 正直どんなに美しくともこの女はダメだ、と思った。

 陛下の隣に立つ華にはふさわしくない。


 召喚の間にいた古参の臣以外は、全員がそう思っただろう。


 だが陛下は我らの心の内など無視して少女の腰を抱き寄せられ、これまで誰も聞いたことがない甘い声音で語り掛けられ、人目もはばからず少女に唇を重ねられ、まさかの反撃を受けられたのだ。


 不意打ちとはいえ、世界中の誰より強い魔力を持つ陛下に一撃を浴びせた少女に私は心の臓が止るほど驚いたが、それ以上に陛下が少女に求婚し“ヤエ”とその名を呼ばれたことに心の臓を握りつぶされてしまいそうなほどの衝撃を受けた。


 この世界に“ヤエ”などという名前を持つ者は存在しない。

 その名を持つのはただ一人 ――― かつてフリオ・アラーニャを倒すために異世界から召喚された勇者“ヤエ・トゥノ”様だけだ。


 この世界ではありえない名であるため名前から性別を判断することは難しく、私を含め多くの者は勇者を男性だと思っていたのだが、まさか女性だったとは!


 しかし十八年前に魔王を倒された方にしては年齢が若すぎる。見た目だけなら陛下よりも年下に見えるではないか、と思ったところでハタと気づいた。


 この方はすでに成長が止まってしまわれているのではないか、と。


 そしてその予想が事実だとしたら、彼女はとんでもない魔力を秘めた方ということになる。

 千年以上の寿命を持つ陛下と、常に並んで立つことができる世界にただ一人の女性ということだ。


 どちらが先に寿命を終えられるかはわからないが、それでも千年という年月を共に歩める伴侶など世界中を探してもこのお二人しか存在し得ないだろう。


 数百年も先に置いて逝かれる恐怖を味わう必要のない、互いにとって唯一無二のお相手だ。


 それに気づいた瞬間、先ほどまでの思考が私の中で大きく反転した。


 考えてみれば“ヤエ”様は異世界の方。

 我々とは生活習慣も身につける衣服も、異なっていて当たり前だろう。


 陛下に対する横柄な態度も、彼女が勇者だとすれば非難するに当たらない。


 単一国家として世界が纏まっているわけではないが、陛下は他国の王すら膝を折る現世の現人神にも近い御方。

 そして勇者は世界中の人間がまさに現人神として崇拝する御方だ。


 そのお二人が婚姻される。

 これほどの吉事が他にあろうか。


 私は気づいた真実に小躍りしたいほどだった。


 が、ここでまさかの事態に見舞われる。


 現人神たる勇者様が…ヤエ様が…陛下の求婚をキッパリと断られたのだ!


 この世のありとあらゆる力をお持ちになられた陛下を袖にする女性がいるなんて、ありえないだろう!?


 もう私の頭の中はキャパシティーオーバーで真っ白だ。


 そう思ったとき現実世界(しょうかんのま)も真っ白に染まり、これまで感じたことのない巨大な魔力が室内を覆った。


 恐らく陛下が異空間を開かれて、勇者様と共にそちらに入られたのだろう。


 絶えず室内で渦巻く凄まじい魔力の圧力に、さほど魔力を持たない者たちは次々と意識を失っていく。


 かくいう私も立っているのが精一杯という状態に追い込まれた。倒れなかったのは、宰相位に就いている者としての意地があったからに他ならない。


 しかし、なんという力だ。


 お二人の力が相反することがあれば、世界は一瞬にして滅びてしまうのではなかろうか?


 だが反対にお二人の力が合わされば、世界はかつてない安寧を享受することになるだろう。


 これは何があっても陛下に勇者様を皇妃として迎えていただかねばなるまい。世界の平和のために。


 一筋縄ではいかないだろうが、幸いにも勇者様は再びこちらの世界に再召喚され、陛下の庇護下に置かれることになるだろう。

 勇者様に対する陛下の御執着ぶりからして、一度求婚を断られたくらいで諦めてしまわれるはずがない。


 ここは臣として、陛下のお幸せな未来のために尽くしていくしかないだろうと、私は決意を新たにした。


 しかしまさか異空間からお戻りになられた陛下から、勇者様が再召喚されたことを隠すよう命じられることになろうとは思わなかった。

 しかも勇者様のために城内でできる仕事を斡旋するよう命じられることになろうとは、夢にも思っていなかった。


 だがそれを叶えないと、勇者様は城を出て行かれるのだという。


 勇者様が陛下のそばを離れるなど、あってはならない。


 私は頭痛を覚えながら勇者様を城から出て行かせないよう、走り回ることになる。




 まさかこの先、宰相位を退く日まで波乱万丈な毎日が続くことになるなどと、この時の私は想像すらしていなかった。






2012.10.28 ムーン様に投稿。

2014.2.1 なろう様に再投稿。

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