第65話 商業国家アレスグーテ
第二部開始。
「なぁあんた、王都で何があったか知ってるか?」
「えっ?」
ここは王都の南にある宿場街だ。王都をこっそりと抜け出して、南へと一日ほどかけて空を飛んできたところにある。あれから調子がいいのとそろそろ慣れてきたこともあって、初めて魔の森を出た当初の数倍のスピードが出るようにはなった。
だけど風圧がすごくてあんまりスピード出せなかったんだよなぁ。どうにかする方法はないもんか。風魔法でなんとかなるかもしれないが……。それよりもだ。
声をかけられたのは、中に入るために街門への列に並んだときだ。前に並んでいた商人の馬車らしき護衛の冒険者から尋ねられた。
思わず莉緒と顔を見合わせるが、心当たりがありすぎて何と答えていいか詰まってしまう。
「昨日の早朝王都を出発してここまで来たんだがよ、王都方面がすげー光に包まれて眩しくなってよ、何が起こったのかと思ってな」
「あー、そうなんですね」
そういうことか……。情報が早いと思ったけど、サンダーボルトがぎりぎり視界に入ったか。にしてもそこまで遠くから見えるもんなんだな。ちょっと派手すぎたかもしれない。
「あんたらを追い抜いた記憶はないんだが、俺らより後に王都からこっちに来たんだろ?」
「あはは……」
莉緒が苦笑いになってるが、俺もこの冒険者の言葉に一瞬ドキリとした。確かに草原の中の一本道だったけど、道草食ったりしてるとか考えないのかな。
「そんなことがあったんですか? 俺ら草原に寄り道してたんで知らないんですけど、そんなに光ったんですか?」
「なんだ、そうなのか? まぁそりゃすごかったぞ。たぶん雷だと思うんだが、あんなに強烈なやつは初めて見たぜ」
しばらく興奮した様子でしゃべったあと、「じゃあな」と言って前の商人と街の中に入っていく。俺たちも門番に身分証を見せて街の中へと入ることができた。特に止められることはなく拍子抜けしたけど、トラブルに遭いたいわけでもない。
「小さい街だけどそれなりに賑わってるわね」
「中間地点にある街だから、寄らない人がいないんだろうな」
宿場街というだけあって高級宿も多い。それほど格式ばっていない風呂付の宿を選んで、この日は終わりを迎えた。
「やっぱりベッドの寝心地は高級宿に限るな」
「それはまぁ、当たり前の話だと思うけど……」
「野営の時でもふかふかベッドで眠りたい」
「ええええ」
何をわがまま言ってんのと言いたげな表情を向けられてしまうが、莉緒だっていつも快適に寝られるほうがいいはずだ。
「そりゃまぁそうだけど」
「デカい魔物も異空間ボックスに入るんだ。ベッドも持ち歩こう!」
「売ってたらね」
ひとまずの目標を掲げた瞬間ではあるが、莉緒の言葉にちょっと冷静になる。そういや買わないとだめだが、この街じゃ売ってなさそうだよな。モノはそこらじゅうの宿にあるのに。
「あー、まぁ行き先は商業国家だし、いいモノが売ってるかもしれないな」
「そうね。着いたらいろいろ買い物もしましょうか」
「じゃあそのためにもお金を稼がないとな」
「あはは」
売るものなら異空間ボックスに大量にある。街を通りかかるたびにちょっとずつ売っていくとしますかね。
いくつもの大きめの街を経由して街道の上空をすっ飛ばすこと二週間。ようやく国境が見えてくる場所までやってきた。
「そろそろ歩いていこうか」
「うん」
風の結界を張ってさらに高速飛翔も可能になり、お互いに会話もできるようになった。途中の街で適度に獲物を売りさばいた結果、お金もそれなりに溜まってきていると思う。ある程度を超えた時点でもう数えるのをやめたけど。
「商業国家ってやっぱり商売が盛んなんだろうなぁ」
「だとは思うけど、具体的にどう盛んなのかよくわからないけどね」
「まぁ、日本みたいに大型ショッピングモールでもあればわかりやすいだろうけど」
「そういうのはなさそうよね」
街道から目立たない外れへと降り立ち、二人で国境の向こう側を想像しながら街道へと合流する。さすがに国境近くだけあって行きかう人は多い。草原の中を街道が続いていたが、向かう先は荒れた大地になっている。
アークライト王国と商業国家アレスグーテを隔てているのは巨大な大地の裂け目らしい。平均的な幅は五百メートルほど。この街道が敷かれている部分は幅の狭い個所となっていて、五十メートルにわたって巨大な橋が架けられているとのこと。
「うわ、すごいね……」
全容が見えてくると、莉緒が感嘆の声を上げた。国境に沿って地平線の向こう側まで大地の裂け目が続いている。
橋の両端にはそれぞれの国の関所があり、すぐ側には裂け目を見学できるようになっている場所がある。他の人たちに混じって底を覗き込むが、どれだけ深いのかよくわからない。
向こう岸にも同じような観覧場所があるが、向こうの方が豪華だ。さすが商業国家というところなのか。
「どうせなら向こう側で見学しようか」
「そうね。さっさと王国から出ましょう」
見学場所から引き揚げて関所へと向かう。幅の広い関所はさほど並ぶことなく通過することができたが、出国税を取られた。
それにしてもさすが異世界クオリティな橋だ。
「手すりとかついてないのね……」
馬車などが踏み外さないように段差は設けられているが、人が落ちないようにといった柵のようなものはついていなかった。
「がははは! ここ通るのは初めてか? 落ちねぇように気をつけろよ! 誰も助けちゃくれねぇからな!」
たまたま隣を歩いていた冒険者から忠告が飛んでくる。
「そりゃもちろん気を付けますよ。死にたくないですからね」
落ちたところで空を飛べるから問題ないけど、いちいちそこまで言う必要もない。
「そうじゃねぇんだ。ここは自殺の名所でもあるからな。間違えて落ちそうになっても手を差し伸べてくれる連中が少ないんだよ」
「ナニソレ……」
「じゃあな!」
呆然としている間に冒険者は先へと進んでいく。
「自殺の名所って……」
橋を見渡してみるが、幸いにして大地の裂け目を覗き込んでいるような人物はいない。
「今日は大丈夫そうね」
「ああ」
「さっさと渡りましょうか」
二人で頷き合うと早足に向こう側へと進んでいく。
「ようこそ商業国家アレスグーテへ。こっち側は入国税はないから、自由に通っていいぞ」
こうして俺たちは隣国へと足を踏み入れた。




