第60話 逃亡と告発
大爆発の煙が晴れると、そこに立っている人物はいなかった。
だが王女にだけは直撃しないように制御したからか、比較的無事な王女がよろよろと立ち上がる。聞きたいことがあるし、こんなところで気絶してもらっては困るからな。
「……な、なんですって」
周囲の惨状を見回して、それ以上言葉もないようだ。
当然だがマジックバリアでも防ぎきれていない。あたりの地面はえぐれており、清水の鎧も一部壊れたりヒビが入ったりしている。長井の着ていたローブもボロボロになっており、マジックバリアの維持のために負荷がかかったのか魔法が直撃したのか、杖はぽっきりと折れていた。
「さて、これでゆっくり話が聞けるな」
「そうね。ようやく邪魔者がいなくなったわね」
莉緒と二人で王女へと近づいていく。なにやらブツブツと呟いているが、清水たちがこんなにあっさりやられたことにショックでも受けてるんだろうかね。どっちにしろもう逃げられないし、逃がすつもりもない。きっちりと責任を取ってもらおうか。
王女の数メートル手前で立ち止まると両腕を組……めないな、ガントレット邪魔。
「さて、リリィ・アークライト。なぜ俺たちを殺そうとした?」
誤魔化しつつも王女へと言葉を掛ける。
「理由を教えてもらいましょうか?」
二人そろって王女へと詰め寄ると、こちらへと顔を向ける。
視線鋭くこちらを見返してくるその表情には、まだまだ余裕がありそうだ。まだ何か隠し持ってそうだな……。念のため改良した魔力攪乱フィールドを張っておくか。
「理由によっちゃ、こっちも対応を考えないといけないからな」
「そうよね。このままだと――」
「――テレポート」
話の途中でコマンドワードを口にするリリィ・アークライト第三王女。
だがしかし、魔力の動きを検知した俺のフィールドが、発動する魔法をかき乱して無効化する。
「……えっ?」
上下左右と後ろまで振り返って、何も起こらなかったことを認識すると愕然とする。
「なんでっ!?」
余裕がなくなり焦りだす王女。最後の手段もなくなったのかな。
「おいおい……、今何をやろうとしたんだ?」
「テレポートって聞こえたわよね?」
「まさか空間転移する魔法とか言わないよな」
「どうなの? リリィ・アークライト!」
じりじりと莉緒と二人で王女へと詰め寄っていく。まさかこのタイミングで逃亡を図るとは思わなかった。話の途中だったのに何考えてやがる。
しかし、俺もまだ使えるようになっていない……、というか練習すらしてないが、まさか王女はテレポートが使えるということなんだろう。
「こ、これなら……!」
まだ悪あがきを考えているんだろう。懐から何かを取り出すと俺たちへとその先を向けると、躊躇なくその引き金を引いた。
――あれは魔道銃?
道具を認識した瞬間にマジックバリアを張るが、バスンという音と共に不発に終わる。何も魔法は飛び出してこない。どうやら魔力攪乱フィールドは魔道銃にも有効だったようだ。こんなに簡単に無効化できるとか、魔道銃も案外ショボいな。
「そ、そんな……」
何もできなかったことに、王女はへなへなとその場に座り込む。
「もう終わりか?」
声を掛けるとようやくこちらを認識したようで、諦めた表情になっている。
「……もう他に手はないわ」
「リリィはここか!?」
その時、大声を上げて男がこの広場へと入ってきた。
「賊が侵入してきたから早く避難を……、ってお前らは誰だ! リリィをどうする気だ!」
数人の騎士を引き連れて入ってきた男は、口ひげを生やしたイケメンおっさんだ。豪勢な服を着て偉そうに騎士へと指示を出しているが、誰かわからんがここまできて王女に逃げられてもたまらん。
「賊って……」
莉緒が心配してるが賊とは俺たちのことだろう。あれだけ派手に城門を突破してきたからな。どこかの執事に案内されたからといって、その事実は変わらない。
「お、お兄様……」
希望が見えたのかわからないが、王女は安堵の表情でそう呟く。兄ということは王子か? また面倒なのが来たぞ。
「ちょっと聞きたいことがあるのと、返したいものがあるだけなんだがな」
「無礼者! ジェスター殿下になんという口の利き方を!」
取り巻きの騎士が声を荒らげるが口の利き方なんぞ知ったことか。
「うるせぇな。こちとらこの王女に殺されそうになったんだ。関係ないやつは引っ込んでろ」
「な、なんだと!?」
「リリィ、それは本当か?」
騎士を制して王子が真偽を王女に問いかけると、こくりと頷くリリィ王女。
「はい、本当です」
「そうか、ではそなたらが例の、リリィが召喚したという勇者で間違いないな」
「勇者かどうかは知らんが、召喚された人間で間違いない」
「ふむ……。賊が侵入したというのも、お前たちのことか……」
気絶している清水と長井へと視線をやると、やれやれと言った風に肩をすくめる。
「いくらダンジョンを調子よく攻略しているからといっても、勇者は所詮その程度だと言ったであろう。まったく詰めの甘い連中よ」
「なっ!?」
次々と当てていく王子に騎士たちが色めき立つ。事情を知っていればすぐにわかることだ。そこらの一般人と違って王子ともなればいろいろ知ってるんだろう。
しかしこの王子はそこまでクラスメイトを有用だとは思ってないみたいだな。
「で、日本という国から召喚という手段で俺たちを誘拐し、あまつさえ奴隷にして、一部の人間は殺そうとまでした罪は償ってくれるんだろうな?」
ちょうど偉いさんが出てきてくれたんだ。王女が俺たちにやらかした中身を事細かに告げてやった。




