第55話 クラスメイトとの激突
「ヒトシ殿。犯罪者の言葉に耳を傾けないようにお願いします。現に足止めをしていた騎士たちが現れません。きっと殺してここまで来たに違いない」
俺たちの会話を遮るように入ってきたのは、ゴツイ剣を持った団長と思われるヘニングという奴だ。
「ぐっ……、なんだって……? 騎士たちを……殺した?」
とたんに顔色が変わる真中だが、それは俺も否定はしない。わざわざ死なないように手加減はしていないし、もしかすると運悪く死んだ奴もいるかもしれない。
だがしかし、ここは殺し殺される世界なのだ。実際に俺も死にかけた。莉緒も死にかけた。
他のクラスメイトも何やら青い顔になっているが、そこまで殺人というものに耐性がないってことなのか。まぁ元々はただの高校生だったわけだし、そういうもんかもしれない。
大剣を構えるヘニングに、盾を構えるワルデマール。そして詠唱を始めるダフィット。
「奴らは金属鎧を地面に縫い付ける奇妙な魔法を使うと聞きます。気を付けて」
ヘニングが注意事項を発すると、他の騎士や魔法使いたちが俺たちを包囲しようと動き出す。もうちょっと真中と話をしたかったがもう無理なのか。包囲されるのをただ待つのもバカらしいし。
というかクラスメイト以外がそれを許してくれそうにない。
「柊! 来るよ!」
莉緒の言葉と共に魔法師団から魔力が膨れ上がる。同時に莉緒も重力フィールドを展開したようで、俺も自分にかかる重力に反発するだけの重力が自動で掛かる。
魔力攪乱フィールドを展開しようかとも思ったが、ここから魔法師団たちまでの距離がちょっと遠い。
「「アイスジャベリン!」」
「「アースブラスト!」」
飛んできたのは氷と石の質量を伴った物質が飛んでくる魔法だ。これなら莉緒の重力フィールドに引っ張られて狙いが逸れるな。
念のため飛んできてもいいように身構えてはおく。運悪く来たら叩き落としてやる。
……が、莉緒がそんなへまをするわけもなく、すべての氷と石は地面へと墜落する。
「なっ! 落ちた!?」
動揺している間に一足飛びで重騎士へと接敵する。重鈍そうだが一番防御力のあるコイツをどうにかできれば、あとは楽になるだろ。
今度は左手に魔力を集中させる。爆発力をイメージして魔力を練り込んでいると、紅竜のガントレットに魔力が吸われていくのがわかる。火と土属性なので爆裂系の魔法をイメージすると――
「おああああぁぁぁぁ!!」
どっしりと構える重騎士の大盾へと左拳を叩きつける。と同時にガントレットに溜め込んだ魔力を解放する。
激しい破裂音と閃光に目と耳がおかしくなりそうになる。が、それも一瞬だったようだ。爆炎が収まったところで目に入ったのは、超重量を持つ重騎士が五メートルほど後方に吹き飛ばされて背中から着地する光景だった。
血まみれで横たわる重騎士ワルデマール。すぐ横には中央に穴が空き、ありえない形にひしゃげた大盾が転がっている。
「……は?」
その姿を見たヘニングから、呆然とした声が自然と漏れていた。
「くっ、奴に攻撃を撃たせるな! 攻めろ!」
しかしさすが団長と言ったところか。すぐに我に返ると次の指示を出す。
「うおおおぉぉ!」
ヘニングの声に従う様に、勇者たちも青い顔をしながら俺たちへと突っ込んできた。戦意を失っているように見えるが、そこはさすがに騎士たちに揉まれでもしたんだろうかね。ご立派なこって。
接近職である狂戦士の織田が、召喚されたときよりは多少スリムになった腹を揺らしながら莉緒へと迫る。――が、あえなく重力フィールドに捕らわれてダウンする。火野はそれを見て急ブレーキをかけるも間に合わず、同じ末路を辿る。
「デュフ……」
お前は笑い声以外の言葉が喋れなくなったのか。
「な、なんなのよコレ!」
ヘニングは俺へと向かい、振りかぶった大剣を袈裟懸けに振り下ろす。そこそこ早いけど、そこそこじゃ俺は捕らえられない。体を左斜めにずらして躱すと、一歩踏み込んで左拳を相手の脇腹へと振り抜く。――が、相手もさる者ながら躱されてしまった。
「フレイムジャベリン!」
そこにタイミングを合わせて真中から魔法が飛んでくる。体勢を整えたヘニングも時間差で詰め寄ってくるが、俺は魔法に背を向ける位置を取るとそのままヘニングを迎撃する。
「――なっ!」
「ディスペル!」
背中の盾でフレイムジャベリンを無効化したところで、長い詠唱をしていた大鳥が魔法効果を解除する魔法を発動する。
「動ける!」
バフやデバフ効果を解除する魔法であるが、重力フィールドにも効果があったらしい。織田と火野が動き出すのが見えた。このままだと莉緒も狙われるが、莉緒から魔力が膨らんでいるのを感じて手を出すのを止める。
にしてもそんな魔法でも解除できるのか。ちょっとした発見だな。などと並列思考で考察してみるが、こちらも戦闘は続いている。
「くっ」
刺突を放ってきたヘニングの大剣の腹を右拳で殴りつけると、後方へ空高くジャンプする。
「行くよ!」
そこに莉緒の魔法が発動し、腰元から水平方向へと放射状に衝撃波が放たれた。
「ぐはっ!」
一番莉緒に接近していた織田と火野が激しく吹き飛び、次いでヘニングも衝撃を受けて後方へ転がっている。
莉緒の近くへと着地した俺は、改めて周囲を見回す。
後方で俺たちを包囲していた騎士たちにも衝撃が届いたらしく、転倒する者が続出している。さすがに魔法使いたちは耐性があったのか、平気な顔をしている者が多い。
「とりあえず一人脱落だな」
仕切り直しになったと感じた俺は、倒れ伏す重騎士を一瞥するとヘニングへとそう告げた。




