第426話 金策
紆余曲折を経て、ようやく冒険者証を発行してもらえた。
イヴァンが鉄級、俺たち二人が銀級の冒険者になる。
どうやらGからA、そして最上級のSという指標ではなく、こちらでは木、鉄、銅、銀、金、ミスリルといった等級で表されるらしい。しかも木には雑な作りの初心者と、立派な意匠が施された初級者の二種類あるとか。Sランクならミスリル級相当らしいが、何の実績もないこちらのギルドでは銀級までが上限みたいだ。
「疲れた……」
「お疲れ様」
ギルドの食事処でぐったりしていると、莉緒が飲み物を持ってきてくれた。
「サンキュー。……なんで俺ばっかり」
「あはは」
ちょっとだけ愚痴っていると莉緒からは苦笑いが返ってくる。
あのあと他の冒険者どもから模擬戦を申し込まれたのだ。襲い掛かってくる獣人どもをバッタバッタとなぎ倒し、最後は面倒になって全員まとめてぶっ飛ばしたんだが、なぜか莉緒に模擬戦を申し込む奴らは一人もいなかった。
イヴァンも数人とやり合っていたというのに、解せぬ。
「ふぅ、とりあえずフォニアの用事が終わったら金策するか」
カップの中身を一気に飲み干すと、大きく息をついてカウンターへと視線を向けた。こちらのギルドだと獣人は子どもでも冒険者登録ができるみたいで、フォニアが嬉しそうに申請しているのだ。
元居た大陸のギルドでは従魔として先に登録してしまったので、フォニアも冒険者として登録するという選択肢がそもそも抜け落ちていた。手合わせした冒険者から「なんで登録しないの?」と聞かれたときはそういえばと思ったが、フォニアが乗り気になったのだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 見てみて!」
手続きが終わったのか、雑な作りの冒険者証を掲げてフォニアが嬉しそうに走り寄ってきた。
「おー、これでフォニアも立派な駆け出し冒険者だな」
木級(下)と言えばあっちのGやFランクと同じだが、フォニア自身はSランクの従魔でもある。すぐにランクは上がるんじゃないだろうか。
「よかったわねぇ」
「うん!」
尻尾をぶんぶんと振り回すフォニアを俺と莉緒でわしゃわしゃと撫でまわす。
「わふぅ!」
一緒にニルも尻尾を振って近づいてきたのでまとめて撫でまわしてやった。
満足するまでもふもふしたあとは素材の売却だ。全員でもう一度カウンターへと向かうと職員へと声を掛ける。
「素材の買取お願いします」
「あ、ハイ!」
職員が長い耳をピンと立てて直立不動の姿勢で対応してくれる。
そこまで緊張しなくてもいいと思うが、それも無理からぬことかもしれない。なにせギルドの食事処やホールには、俺たちが模擬戦でぶっ飛ばした冒険者たちの半数が転がっているのだ。もう半分は元気に騒いでいるが、負傷して土ぼこりにまみれた冒険者たちと、一切汚れていない俺たちを見れば結果はわかるだろう。
「えーと、それで何を提供いただけるので……?」
手ぶらな俺たちを見て疑問に思ったのか首を傾げる職員だったが、こっちも何を出せばいいだろうとちょっと考えていたところだ。
「何にするんだ?」
イヴァンに尋ねられたけどパッと思いつくものがない。
常時依頼の魔物や採集物を聞いてみてもよかったが、この大陸に来てから何も素材を収集していない。それに常時依頼の素材などそんなに高く売れるものでもないだろう。
「広い場所あります?」
そういえば大陸中央の山には神竜様が棲んでいるという話を思い出したので、竜種を出そうと思いついたが、ここは狭かった。
「ハイ! こちらです!」
小気味いい返事と共に地下にある解体場らしき場所に案内されるが、またもや見物人がぞろぞろとついてくる。ざわつく野次馬から「あのアニキが仕留めた獲物が……」と聞こえてくるが、こっちに絡んでこないなら無視するしかない。
「よし、なんでも解体するんで出してくれ」
案内された場所には誰もいなかったが、俺たちの後ろから付いてきた集団の中から満身創痍の犬人族が前に出てきた。
「ちょっ、キントレ―さん、どこ行ってたんですか!」
ここまで案内してくれたうさ耳職員さんが、犬人族に詰め寄るとぷりぷりと怒り出している。
「まーまー、ちゃんと仕事はやるからよ。――それにしてもアンタ超強ぇな! 模擬戦じゃ何もさせてもらえなかったが、解体は俺に任せてくれよな!」
まったく記憶にないが、訓練場でぶっ飛ばした連中の中にギルドの解体担当職員がいたらしい。
こっちを振り返ってにこやかスマイルで親指を立ててくるが、ちゃんと仕事をしてくれるなら問題はない。……仕事してくれるよね?
「じゃあ、これを頼む」
魔の森でお世話になったグレイトドラゴンを取り出す。最近は死蔵していて活躍の機会がなかったが、ここでならインパクトもあるだろう。
「ひぇ」
「どこから出したんだ?」
「ドラゴンかよ」
「さすがアニキだぜ!」
ドン引きするうさ耳職員だが、野次馬には評判がいいようだ。次々に上がる周囲の声を拾えば、どうやら大陸中央の山の麓の一部にもこのグレイトドラゴンが生息しているらしい。
「丸ごと売りたいんだけど、最低保証金額がわかれば査定前にいくらか先にもらえないかな」
「はぁ、それはいいけど、なんでまた」
「こっちの大陸のお金持ってないの。だから早めによろしくね?」
怪訝な表情を浮かべる犬獣人だったが、莉緒のお願いに劇的に態度が変わる。
「ハイ! 喜んで!」
これからは俺も容赦なくいったほうがいいんだろうか。




