閑話1 エルヴィリノスとリゼルエーデ
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「何をやっておるのじゃ?」
ご主人さまが作った温泉施設の紹介動画をカメラで撮影していると、たまたま来ていたダークエルフのリゼルエーデが映像内に映りこんできた。思わず舌打ちをしそうになったが、これはこれでありかもしれないと思いなおす。
温泉から上がってきたばかりなのか上気した頬はほんのり赤みをさしており、着崩した浴衣からは胸が零れ落ちそうになっていて、はしたない恰好になっている。動画サイトのフォニアの人気はすさまじいものがあるが、最近のフォロワー数の増加率は緩やかなのだ。それを思えばここで一石を投じるのも悪くない。
「ここの温泉を紹介する動画を撮ってるところだね」
「どうが?」
カメラをリゼルエーデに向けると、レンズを興味深そうに覗き込んでくる。
「簡単に説明するなら、動く絵のことだな。もちろん音声も記録されるし、あとからいつでも見ることができる」
「は?」
カメラから顔を上げてこちらに疑問の表情を向けてくるリゼルエーデだったが、おかげでカメラには彼女の胸が映し出されている。多少ズームして胸だけを映るようにすれば、リスナー受けする動画のできあがりだ。
「せっかくご主人さまが作った温泉なんだ。世界中の人間に知ってもらいたいだろう?」
知ったからと言って来れるものでもないが、少なくとも動画の再生数は稼げるだろう。
「動く絵とはなんなのじゃ?」
よくわかっていないリゼルエーデからさらに疑問が飛んできたので、撮影を途中で止めて実践してやることにする。とはいえ今撮ったやつを見せるとお宝映像がバレるので、撮影しなおすところから説明だ。
少し後ろに下がってもらってから撮影し、その映像を見せるとリゼルエーデも大興奮だ。こっちの世界にそんな技術はないので気持ちはよくわかる。
「グランドマスターはすごいのぅ! こんなものまで作り出せるとは! 妾のダンジョンでも生み出せればよいのじゃが……」
何か勘違いをしている気もしないでもないが、わざわざ訂正するものでもない。
「いやしかし、紹介と言ったかの? いったい誰に紹介するのじゃ? ……その、ここの温泉は自慢したいが、あまり人が増えて欲しくはないからのぅ」
「くっくっく」
急にもじもじして苦悩を見せるリゼルエーデに思わず笑いが漏れる。
「な、なんじゃ」
「大勢に知られたところでここまでたどり着ける者などおらんだろう。来たとしてもご主人さまの知り合いくらいだろう」
「……ああ、それもそうじゃな」
目をぱちくりと瞬きさせた後、リゼルエーデは納得したのか胸をなでおろす。それに紹介するのはあちらの世界なので、こっちの世界では情報ギルドの人間を除いて見ることはできない。
「ふむ……、それにしても、自慢したいと言うのであれば自分で紹介してみるか?」
「は? 妾が、ここを、紹介?」
「さっきの映像を見ただろう? とある場所で公開すれば二千万人に見てもらえるぞ」
「二千万!?」
ご主人さまたちが動画サイトで公開したもので一番再生回数が多いものが、すでに二千万回の再生回数を越えている。もちろん同じ人間が何回も再生しているだろうが、一回の再生で複数人数が見ていることもあるだろう。
「そ、そんなにこの世界には人間が存在するのか……?」
恐ろしいものを見たかのような表情で問いかけてくるリゼルエーデが面白い。というかあたしもこの世界の人口が何人いるかなんて知らない。戸籍の管理ができていない国が大半だし、そもそも未発見の大陸だってきっとある気がする。
「人口までは知らないけど、何回再生されたかはわかるようになってるからね」
「恐ろしい数じゃが、確かにここは秘境じゃし……。グランドマスターのゲートがなければたどり着けんな。というか妾もここがどこなのか知らぬしな」
何やら自分の中で結論が出たのか、青ざめていた顔色も元に戻り余裕を取り戻したようだ。
「ふふふ、そういうことであればこの温泉を知り尽くしている妾が存分に紹介してやろうぞ」
「そうこなくてはな」
自信満々に告げるリゼルエーデを改めて眺めてみる。褐色肌のダークエルフに浴衣という組み合わせだが悪くない。
「では相応しい衣装も用意しよう。どうせならフォニアにも出てもらおうか」
「む、フォニアといえばあの狐っ娘か。まぁよいじゃろう」
自分が主役とでも思ってそうなリゼルエーデだが、残念ながらフォニアの人気を舐めてもらっては困る。
唯一難があるとすればこの二人の間で言葉が通じないことだろうか。あたしが通訳をすればそれで済むが、まぁそのときに考えてみればいい。
しかし……、温泉旅館の宣伝をする衣装となれば、着物しかあるまい。フォニアのトレードマークである尻尾も見えるように特注せねばなるまいか?
三つ指ついて深くお辞儀をすると見えるようになった尻尾がふりふり揺れるシーンがふと脳裏に浮かぶ。
思わず口元が緩んでしまうが、これはリスナー受けしそうだ。バズること間違いなしだろう。これは早急に着物を手配しなければ。
「用意ができたらまた声を掛けよう」
「うむ。わかったのじゃ」
そして後日。フォニアとリゼルエーデのコラボ動画が公開されたその日、とある界隈に激震が走ったとか走らなかったとか。




