第420話 面倒ごとは丸投げしよう
一仕事終えて街の港へと戻ってくると、閑散としていたはずの港が人で賑わっていた。どうやら一番最初に人質として攫われていた船が戻ってきたらしい。
「あ、やべ」
ニルにお願いしていた船、放置したまんまだった。帰る途中ずっと海の景色だったし、気配もなかったから忘れてた。それに他にも忘れていたことがある。
『ニル、いまどこにいる?』
『わふわふ!』
念話で返事が来るも場所がわからない。
『一瞬だけ船から離れてみてくれる?』
『わふー!』
返事の後にしばらくするとニルの気配を察知する。居場所が特定できたのでさっそく向かった。
TYPEシリーズはもうダンジョンに帰していたので、伸びていた船員を縛っていく。攫われた人の中に船の操作ができる人がいなかったので、あとで人を派遣するからと待ってもらうことにする。
「じゃあ二人を迎えに行こうか」
「わふっ!」
残党をすべて片付けた俺たちは、改めて本来の目的である孤児たちを迎えに行くことにした。相変わらず気配は感じないので、匂いを頼りにニルについていく。やがて目当ての船を発見すると、甲板へと降り立った。
「迎えに来たぞー」
「あ、シュウお兄ちゃん!」
甲板にいたアルとレムがこちらに気が付いて寄ってくる。船員はロープで縛って船室に転がしているので出てこれない。魔法が使える奴がいたとしても、メタルスパイダー製のロープは簡単に切れないので安心だ。
しかし師匠もこんだけ長いロープを何のために用意してたんだろう。こいつらを引き渡したらロープだけは回収しないとだな。
「院長さんが心配してるから帰るぞー」
「う、うん。……でもいいの?」
レムが頷きながらも振り返ると、同じく捕まっていた他の大人たちがいる。
「気にしなくていいわよ。家の人も心配してるだろうし、早く帰ってあげなさい」
唯一の女性がそう言うと、船を操作する男は大きく何度も頷き、もう一人はマジかよという表情になって二人とこっちを交互に見ている。
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとう!」
レムが礼儀正しく頭を下げると、アルは元気よくお礼を言った。そして二人がニルの背中に乗るのを見ると、マジかよという顔をしていた男が顔を青ざめさせて首を左右に振っていた。
改めて港に戻ってくるとさっきよりも人が増えている。よく見れば揃いの鎧を着た集団が遠くに見える。もしかすると騎士団かもしれない。もうちょっと時間がかかると聞いていたけど早かったな。
「ニルは先に孤児院に帰っておいて」
「わぅ!」
孤児たちを先に帰すべくそう伝える。
手を振りながら去っていく二人と一匹を見送ると、騎士団かどうか確認すべく近づいていく。頼みたいこともあるし、早く来てくれたのは助かる。
「もしかして騎士団の方たちですか?」
見覚えのある紋章が入った鎧だったので、ほぼ確信をもって話しかける。とはいえ思ったよりも少人数だったので念のための確認だ。
「む? そうだが、貴殿は?」
港方面へと向かう十名ほどの集団が足を止めてこちらに向き直る。
「Sランク冒険者の柊です」
「っ!?」
自己紹介をした瞬間に騎士団の間に緊張が走る。びしりと背筋を伸ばして敬礼をせんばかりの勢いだ。
「シュウ殿でございますか! 我々に何用でございましょう?」
立派なひげを蓄えた隊長らしき人物が一歩前に出て問いかけてくる。いつかを思えばすごく丁寧な対応である。これならすんなりとお願いも聞いてくれそうだ。
「沖にある敵国の船を全部制圧したので、回収をお願いしたいなと」
「……は?」
目を丸くする隊長らしき人物が固まっているが、かまわず詳細を話していく。後ろにいる隊員たちもざわついているが、誰一人として口を挟む者はいない。
「というわけです」
「はっ! 戻って本隊に伝えます!」
「気配の消せる魔道具を二つほどもらえればいいので、それ以外はお譲りします。回収にかかる費用はそこから差っ引いておいてもらえれば」
「我々はただの先遣隊ですのでこの場では即答できかねますが、恐らく問題ないかと思われます」
なるほど。だから少人数だったのか。
「わかりました。あとはよろしくお願いしますね」
「承知いたしました!」
びしりと全員から敬礼を受けると、隊長が振り返って部下へと指示を飛ばす。まずは情報を本隊へ届けるのだろう。
騎士団と別れると、のんびりと孤児院へと向かった。
門をくぐって孤児院内へと入ると、アルとレムが院長と孤児たちに囲まれていた。フォニアも一緒になって騒いでいる。
「柊、おかえり」
「ああ、ただいま」
「はあぁぁ、二人が無事でよかった……」
莉緒と軽くハグを交わしていると、イヴァンがしゃがみこんで大きくため息をついていた。思ったより二人を心配していたらしい。
「あ、お兄ちゃん!」
「シュウ兄!」
帰ってきた俺に気づいた二人が駆け寄ってくると、俺たちも子どもたちに囲まれてしまう。
「シュウさん、本当にありがとうございました」
院長のケイティが深々と頭を下げると、周りにいた子どもたちも口々にありがとうと感謝された。
「いえいえ、怪我もなくてよかったですよ」
そう言って二人の頭を撫でると屈託のない笑顔が返ってくる。
何のために街人を無作為に攫ったのかはわからないけど、後始末は国に任せるとしよう。
さて、ひと段落付いたかなと思ったら目の前のアルとレムのお腹が鳴った。
「あ」
「はは、そういや飯食ってないよな」
恥ずかしそうにする二人に確認すると、ゆっくりと頷きが返ってきた。
「よし、じゃあ今から夜食にするか」
「「「やったぁ!」」」
そう宣言すると孤児たちから一斉に声援が上がった。




