第412話 侵攻開始
ウォズニックダンジョンに出てくる魔物は獣系だ。メカメカしいうちのダンジョンと違って可愛げがありそうである。四十二階層まであるようで、なかなか深い階層を持つダンジョンのようだ。
「どれにしようかな」
試しに一体魔物をクリエイトしてみようと、魔物一覧を眺めてみる。リゼルエーデが何かと煩かったが、今はイヴァンが相手をしてくれていて静かになっている。
「よし、キミに決めた」
どうせならと初期性能の高い魔物にDPをさらに百万ほどつぎ込んで、一体の魔物をクリエイトしてみる。頭の中でポチっとすると、目の前には漆黒の毛並みを持つネコ科の魔物が現れた。
「な、なに!? アビスパンサーじゃと!?」
「いきなりだな!」
「おお、カッコいい!」
「なかなか強そうね」
初期性能が高いせいか、初期値でのクリエイトに十万DPが必要だった。隠密性能と素早さに特化しており、暗殺者向きなタイプだろうか。それをさらに強化した形になる。蜘蛛TYPEと似ているところはあるが、あれはそこまで素早くない。
「お、お主、どれだけDPを蓄えておるんじゃ……」
リゼルエーデが恐ろしいものを見たような目を向けてくるが、ため込んだのは俺じゃない。というか追加でつぎ込んだDPまで見えるわけでもないだろうに。つまり十万で高額と感じるほどの懐具合なのか。
うちのダンジョンと違ってあからさまな入口だったから、近くの魔物も警戒して入ってこないのかもしれない。
「しかも、妾のダンジョンの守護者より……」
独り言のように呟かれた最後の言葉は聞こえなかったが、守護者というやつがいるらしい。最下層を守ってたりするのかもしれない。うちのダンジョンには特に守護者は付けていないけど、何か対策はしておいたほうがいいだろうか。
そんなことを考えていると、フォニアがアビスパンサーへと恐る恐る近づいていく。尻尾をピンと立ててゆらゆらしていたアビスパンサーは微動だにせず佇んでいる。体高はちょうどフォニアと同じくらいだろうか。フォニアに首を撫でられても動かずにこちらをじっと見つめているだけだ。
「よし、お前にはここを守ってもらおうかな。俺たちや鍵を持っていない奴が通ったら捕まえて知らせてくれ」
指示を待っていそうな雰囲気だったのでそう告げると、軽く頷いてからお座りをして、フォニアの首もふもふに対して喉を鳴らし始めた。
「おお、態度もカッコいい」
「ニルとは大違いね」
「真面目そうなヤツだな」
「わふぅ?」
莉緒から名前が出たからかニルが首を傾げるが、あんまりよくわかってなさそうだ。ある程度空気は読めるけど、飯には見境なく飛びつくからなぁ。
「ねえお兄ちゃん、この子の名前はなんていうの?」
しばらく首を撫でていたフォニアが振り返って尋ねてくる。
「ええ? 名前は……ないなぁ」
「生まれたばっかりだもんね」
「なんならフォニアが名前を考えてみるか?」
「え? ボク?」
「お、いいんじゃねぇか」
ふとした思い付きを口にするとイヴァンも乗ってきた。
「え? え? この子の名前を……、ボクが……?」
「ああ、そうだ」
おろおろするフォニアにゆっくりと頷いてやると、フォニアも真剣な表情で頷き返してきた。
「わかった。ボクがんばるよ!」
アビスパンサーの顔をやさしく両手で掴むと、真剣に目と目を合わせて考え込んでいる。知性を感じさせるダークレッドの瞳は、すべてを吸い込んでいきそうだ。
「……じゃあキミの名前は、アビーちゃんだね!」
しばらく見つめ合ったのちにフォニアがそう宣言すると、顔色も変えずにアビーと名付けられたアビスパンサーがぺろりと顔をひと舐めする。
「あはは! くすぐったいよ」
「わふわふっ!」
おかえしだとばかりにフォニアがもふもふし返していると、ニルが自分も混ぜてと言わんばかりに突撃していった。
「あははは!」
しっかりと躱したアビーだが、ニルと嬉しそうに戯れるフォニアを大人の目線で見守っている。
「お主ら……、いったい何なんじゃ。妾のダンジョン最強種を、ダンジョンマスターでもない人間があっさり手懐けおって……!」
手懐けるというよりは見守られてる感じな気がするけど、特に指摘はしないでおこう。というか作成者である俺が、俺以外の身内の言うことも聞くようにと思ってるんだから当たり前だろうに。
「ん?」
ニルとフォニアが戯れているのを眺めていると、各地の拠点へと繋がるほうの扉からメサリアさんが姿を現した。
「皆様、こんなところにお揃いでしたか」
「どうしたんですか?」
何かあったのか声を掛けると、メサリアさんに続いて数人の職員が扉から出てくる。なんだか嫌な予感がするぞ。
「シュウ様のクラスメイトたちが、港街アイソレージュ入りしたことを確認したので、迎賓館へ応援の職員を連れて参りました」
「お、おう……、マジか……」
「もう来たの……?」
メサリアさんの言葉に一気に全身の力が抜ける。
「あと……」
「え、まだ何かあんの?」
さらに言葉を続けようとするメサリアさんに、まだ元気のあるイヴァンが反応する。
「あ、はい。TYPEシリーズによって監視していた沖合の大型船団ですが、こちらに向かって移動を開始したようです」
「おうふ……。いやいやいや、同時に来るとかなんだよ」
「えぇー」
「さっきから何なのじゃ! 妾にもわかるように説明を求むのじゃ!」
めちゃくちゃ嫌そうに言葉を吐き出していると、やっぱりただ一人だけ状況がわかっていないリゼルエーデがキレ散らかすのであった。




