第411話 属ダンジョン
「なんでやねん」
おっと、思わず関西弁が出てしまった。
まさかあの有名なセリフが出てくるとは思ってなかったが、死にたいなら勝手にどうぞという感想しかない。
「な、なんだ……、妾の、ダンジョンを、奪いに来たのではないのか……?」
今も冷や汗を流しながら問いかけてくるリゼルエーデに、心の中でため息を吐く。
「奪ったところで管理が面倒だろ」
いろいろとメサリアさんに投げている自分が言うのもなんだが、面倒なものは面倒なのだ。
「……へ?」
キョトンとした表情を見せるリゼルエーデだが、別に嘘をついているわけではない。ダンジョンでできることが増えそうなのもそうだが、あんな攻略されやすそうな低難易度のダンジョンをそのまま放置というのも恐ろしい。きっと改造に時間を取られるだろう。
「そ、それだけの……、理由で?」
「そうだな」
信じられないという表情を向けてくるが、本当のことなので他に言いようがない。
「しかし、途中で気が変わるということも、あるじゃろう」
見開いていた目が細められるが、確かに言葉だけじゃ何とも言える。だからと言ってどうすればいいのか。それこそ知らんがな、である。
思わず周囲を見回してみるが、莉緒からは苦笑いが返ってきて、イヴァンは肩をすくめていた。フォニアはリゼルエーデに抱きつきながら、こちらをキラキラとした瞳で見上げている。
いい方法なんて浮かばないけど、なんだかフォニアからプレッシャーを感じるなぁ。
「……しかし、どうやって妾が、ダンジョンマスターだと気づいたのじゃ?」
「そりゃもちろん、ダンジョンに入られたからだよ」
「え?」
顔を顰めるリゼルエーデに正直に答えると、理解できなかったのか疑問の表情に変わる。
「いつ……。いつ、そなたのダンジョンに入ったのじゃ!?」
急に焦りを浮かべているが、いつというか、今もなんだよなぁ。
「今いるこのフロアがそのダンジョンなんだけどな」
「何じゃと!?」
あまりの衝撃に腰を浮かして周囲を見回すリゼルエーデ。
見た目だけなら屋敷の一室に見えるようになっている。床や壁、天井などは、廊下から入っても違和感のないようにしてあるのだ。さすがにダンジョン扉用の部屋なので余計な家具などは置いていないが、待合室としても使えるようにテーブルとイスなどは設置されている。
通常ダンジョンの外から持ち込んだものはダンジョンに吸収されてしまうが、そこは設定でなんとでもなる。
「まったくダンジョンには見えんが……。であれば、そなたには妾が脅威に見えておるじゃろう。……なぜそんなに平気な態度でいられるんじゃ」
「脅威って言われてもなぁ……」
確かに脅威度は出てるが、あんまり大したことなさそうなんだよなぁ。
「わ、妾からは、お主の脅威度は、284と出ていたのじゃぞ……!?」
ぷるぷると震えながら絞り出すように言葉にしたその数字は、確かに圧倒的な脅威度らしかった。
そりゃ2と比べたらすげー脅威度なはずだ。
「そりゃすげぇ。こっちには脅威度2と出てるな」
「……は?」
戦闘力が5と告げられたゴミおじさんのごとく目を点にすると、ゆっくりと視線を地面へと向けて項垂れる。
と同時に頭の中にリゼルエーデが全面降伏をしたようなメッセージが流れ込んできた。
『ダンジョンマスター:リゼルエーデ からウォズニックダンジョンをマシーナレイズダンジョンの属ダンジョンとする申請がきました。許可しますか? はい/いいえ』
え、なにこれ。属ダンジョン? ……属国みたいなやつ?
「なんじゃこりゃ」
思わず声を上げるが、リゼルエーデには聞こえていなかったようで、地面を見つめながらブツブツ言っているだけだ。
「……許可したらどうなるんだ?」
さっぱりわからないので、とりあえず起こったことを説明して皆に相談してみる。
「デメリットってあるのかしら?」
「わからん」
「他に説明がないなら、やってみるしかないんじゃねぇの?」
確かにイヴァンの言うとおりだ。少なくともいいえを選べば今と同じ状況が続くだけだろう。それにまったく他の情報がないので判断のしようがないという結論にしかならなかった。
「それじゃぽちっとな」
さすがに属となってうちに組み込まれたとしても、管理は丸投げできるだろう。軽い気持ちで『はい』を選んだところ、リゼルエーデがゆっくりと顔を上げてこちらを見ていた。
なんだか重い荷物でも降ろした後のような、肩の力が抜けてホッとした様子と、なぜそうなったのかわからない困惑が同居した表情になっている。
「脅威度が……、消えた……?」
ポツリと呟いた言葉を聞き流しながら、何か変わったかなとダンジョンメニューを頭の中に思い浮かべる。
「お、何か設定メニューが増えてる」
「メニューって、ダンジョンの?」
莉緒の言葉に頷きを返すと、莉緒も異空間ボックスからダンジョンタブレットを取り出す。
「ほんとだ。設定っていうのが増えてるわね」
設定メニューは莉緒に任せておくことにして、俺は他のメニューに変わりがないか見ていく。マップを開けばダンジョンを選べるようになっているし、魔物一覧にもウォズニックダンジョンに出てくるやつらが増えている。もちろんクリエイトもできるようだ。
「へー、柊のダンジョンに出る魔物をあっちでも作れるようになりそうね」
詳しく話を聞けば、TYPEシリーズたちをウォズニックダンジョンにも配置できるように許可ができ、作成に必要なDPに手数料の上乗せができるらしい。属ダンジョンの物は自由にタダで使えるけど、逆は許可制でDPも搾り取れると。
「なん……じゃと? というか、その黒い板はなんなんじゃ!?」
ダンジョンでできることをわいわいと確認する中、一人だけ付いていけずに取り残されたようなリゼルエーデの叫び声が上がった。




