第410話 過剰な警告?
イヴァンたちにも事情を説明すると、さっそく実行へと移すことにした。
次元魔法で迎賓館へと空間をつなげて向こうの様子を見られるようにすると、莉緒とリゼルエーデが見える位置へ視野を移動させる。
『じゃあ今からダンジョンに入るぞ』
『OK』
そして莉緒へと合図を送ると、みんなで順番にダンジョンへと入っていく。
魔法でつなげた視界が、ダンジョンに入る瞬間に一瞬だけブレたがすぐに視界は戻る。次元を超えると接続が切れるようだが、再接続は簡単だった。
視界の先にいるリゼルエーデがピクリと反応するが、そのまま固まったようで動きはない。そして動きがないまま、額からだらだらと汗を流し始めた。
「どうしました?」
「う、あ……」
莉緒がリゼルエーデに問いかけるも、返事をする余裕もなさそうだ。
俺の時はぜんぜんそんなことはなかったが、もしかして脅威度によって感じ方が違うのだろうか。
「もしかして、誰かがダンジョンに侵入でもしましたか?」
「――っ!?」
何気なく問いかけた莉緒の言葉に、勢い良く莉緒を振り返って目を見開くリゼルエーデ。顔色を蒼白にして、言葉が出ないのか口をパクパクとさせている。
「今にも倒れそうな感じだけど、大丈夫か?」
リゼルエーデの様子を見たイヴァンがそう呟くが、俺としても予想外の反応にびっくりだ。フォニアからも心配そうな表情を向けられると、罪悪感が湧いてくる。
「あー、とりあえずダンジョンから出ようか。俺が入ったことによる影響みたいだから」
リゼルエーデの症状を和らげるべく、入ったばっかりのダンジョンから出ると、呼吸が止まっていたのかと思える彼女が動きを取り戻し、荒い呼吸を再開させる。
「お、ちょっとマシになったっぽいな。……でも話を聞いた限りじゃ、シュウがダンジョンに入るたびにああなるっぽいよな?」
イヴァンが彼女を指しながら尋ねてくるが、確かにその通りだ。
ダンジョンを奪えばそんなこともなくなるんだろうが、別にいらないし。今あるダンジョンですら持て余し気味なのに、これ以上できることが増えても困る。
「うーん……」
この先ずっと、このダンジョンに入らないなんてことはありえない。リゼルエーデ本人にダンジョンを奪う気はないと伝えたら、今後警告が出ない……なんてことは起こらないよなぁ。
しかし、警告が出るにしてもいつ襲われるかビクビクして過ごすことになるよりはマシか?
「とりあえず事情を説明しに向こうに行くか……」
「……それが一番手っ取り早いかもな」
「うん!」
「わふっ!」
なぜかフォニアが嬉しそうだ。自分が心配になったリゼルエーデを、俺が助けに行くように見えたのかもしれない。彼女の心労を減らしに行こうと思ったので、間違ってはいないのかもしれないけど。
次元の穴を開けるとみんなで迎賓館へと向かう。場所は莉緒とリゼルエーデがいるすぐ近くだが、どうやら迎賓館側のダンジョン扉から出てきてすぐの部屋のようだ。ここは玄関ホールを奥に進んだ地下にある。
「ッ!?」
いきなり警戒対象が目の前に現れたからか、リゼルエーデが顔を引きつらせて尻もちをついた。
「あれ、結局こっちに来たんだ」
「まぁ、ちょっと、可哀そうに見えてきて……」
莉緒と話しながらもちらりとリゼルエーデへと視線をやるが、顔面蒼白になっている。そんな彼女へとフォニアが駆けよって、安心させるように笑顔を見せる。
「もう大丈夫だよ! お兄ちゃんが来てくれたから!」
「わふわふっ!」
「ひいいぃぃぃっ!?」
しかしまったくもって逆効果だったようだ。
悲鳴を上げると白目をむいて後ろに倒れてしまった。
ダンジョン扉がある部屋は、ダンジョン領域内になっている。だから俺の頭の中ではまだ侵入者ありと警告が出続けているんだが、そのせいか目の前にいるリゼルエーデに意識がいくようになっている。ARのように視界に何か出るわけではないが、ダンジョンへの侵入者だとわかるのだ。
とはいえリゼルエーデのように顔面蒼白になって気絶するほどではない。というかちょっと気になる程度だ。
俺自身はダンジョンから出てきたけど、リゼルエーデからはどう見えているんだろうか。一度自分の領域に侵入した他所のダンジョンマスターを目の前にして、リゼルエーデも警告を受け取っているのかもしれない。
そう考えると、フォニアが笑顔で近寄ってくる何かの先兵と錯覚しても仕方がない……、のかもしれない。
「ええっ? だいじょうぶ?」
びっくりしたフォニアが声を掛けながら、泣きそうな顔でこっちをちらちらと振り返る。
「マジかよ……」
イヴァンが若干引いているが、俺もちょっとだけ、来ないほうがよかったかもと思ってしまった。
とはいえ来てしまったものはしょうがない。
リゼルエーデへと歩み寄ると、フォニアが「大丈夫?」と声をかけながら側にしゃがみこんでいた。
「……うっ」
どうやらすぐに意識が戻ったようである。うっすらと目が開いたのを見て、フォニアが「よかったー」と言いながらリゼルエーデの頭を撫でていた。
そのままゆっくりと上半身を起き上がらせると、何かを考えるように視線を宙に彷徨わせた後、諦めたように大きくため息を吐く。そして睨みつけるようにこちらに視線を向けると。
「くっ……、殺せ」
などと言い放った。




