第407話 ダンジョンで遊びたい
こちらに残ることになったダークエルフは、レヴァンティスカとシェルファリーナというらしい。どちらも百歳を超えた女性らしいが、見た目は二十歳くらいに見える。レヴァンティスカはショートボブにしたライトグリーンの髪色を持っており、その表情からは勝気な性格が伺える。一方シェルファリーナは腰まであるストレートなダークレッドの髪を持つ、大人しめの雰囲気のあるダークエルフだ。
「「よろしくお願いします」」
「うん。よろしく」
斥候系のダークエルフたちではあったが、ステータスだけを見れば全体的にイヴァンよりも上だ。恐らく真正面からやりあってもイヴァンは勝てないだろう。クラスメイトがどこまで強くなってるかはわからないが、この斥候系ダークエルフたちなら仕留めてくれる気がする。
「全力で追い返します」
「仕留めてもいいんだよね?」
「侵入してきたらね」
この二人は緊急で応援に来てくれた二人のエルフメイドのたちと共に、迎賓館に送り出した。
数日掛けて温泉の整備を終わらせて家に帰ってくると、外から見えるテラスでリゼルエーデがくつろいでいるのが見えた。
「なんでまだいるんだよ」
「そりゃあここの快適さを知ったら帰りづらいでしょ」
思わずぼやきが漏れるが莉緒はそうでもないらしい。ダークエルフの第一印象が悪かったのは、俺とエルくらいだからだろうか。わからせられたあとは大人しいので、莉緒からの印象はそれほど悪くない。
「シュウ殿!」
こっちに気が付いたリゼルエーデが立ち上がり、一階のテラスから出てくる。お供の二人は先に帰ったというのに図々しい奴だ。
「よく飽きないもんだな」
「もちろんじゃ。それに帰ったところで日常が待っているだけじゃろう」
「それはそうか」
「妾もきちんと対価を払っているのじゃぞ?」
ほんのりと込めた「はよ帰れ」にリゼルエーデが眉を寄せて不満を漏らす。
確かに対価はもらっている。といってもダークエルフの集落で通貨が流通しているわけもなく、依頼した仕事をしてもらっているが。
「今まで食べたことのない美味に広い風呂、それにこの屋敷の不思議な設備に好奇心が抑えられん」
「皆で作ったここを気に入ってもらえるのは嬉しいわね」
げんなりする俺とは対照的に莉緒は嬉しそうだ。下手するとずっと居座りそうな嫌な予感がする。これは温泉のことは黙っておいたほうがよさそうだ。
「新しくできあがる温泉にも今度連れてってあげるわね」
と思ったけどさっそく暴露されてしまった。
「オンセン?」
聞き慣れない言葉だったのか、首を傾げるリゼルエーデ。
「ええ、自然に湧いているお湯に浸かるのよ。露天になってるし、見晴らしもいいしとても開放的なところね」
「ほほぅ……、それはぜひ行ってみたいものじゃのぅ」
施設は完成しているが、人員の配置などがまだなので稼働はしていない。全部自分でやれば温泉だけは堪能できるだろうが、サービスも含めてのおもてなしだ。
バレてしまったが、連れて行くのは今度ということなのでまぁよしとしよう。
さすがにできたばかりの温泉施設に、俺たちもまだ満足に堪能していない時期から連れて行く気も莉緒にはなかったようだ。そのまま永遠に待っているがよい。
……いや待て。それはそれで連れて行くまでここに長居するのではないだろうか?
やっぱり追い返す理由を作らないとダメかもしれんな。
「お、帰ってきたのか」
ちょうど玄関から出てきたイヴァンとばったり出くわす。
エルフ語しかわからないリゼルエーデは、暇を告げて屋敷の中へと戻っていく。言葉がわからないというのも不便なものだ。
とはいえ日本人からすれば異世界言語は全部わからないので、撮らせてもらった動画は思った通りにバズった。本人はこれが対価になるのか不思議そうにしていたが、詳細まで教えるつもりはない。
ちなみにあっちでは何やらエルフ祭りで盛り上がっているらしい。知らんけど。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえり!」
ひょっこりと玄関から顔を出したフォニアも嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ただいま」
そのまま勢いよくジャンプすると、莉緒の胸の中へとダイブする。しっかりと抱きとめると嬉しそうに尻尾が揺れていた。
「わふーーーーん!」
一緒に玄関から顔を出したニルも、一声上げると猛ダッシュしてくる。今日のニルは小型犬サイズなので問題なく受け止められるだろう。俺に向かってくるニルへ向けて構えると急にスピードを上げた。
キャッチすると同時に体を半歩ずらし、一回転しながらニルの勢いを殺す。
「よしよし」
抱っこして頭を撫で繰り回すと、フォニアと同じように尻尾がぶんぶんと振られていた。
「お姉ちゃん、あのね……」
莉緒に抱っこされているフォニアが、耳をせわしなく動かしながらもじもじしている。
「どうしたんだ?」
ニルを抱っこしながらフォニアの傍まで来ると、優しく頭を撫でる。
「ボクね……、えっと、明日、お姉ちゃんと、お兄ちゃんと遊びに出かけたい」
フォニアの可愛いお願いに莉緒と顔を見合わせると、ふふっとちょっとだけ笑ってしまった。ここ数日は莉緒と二人で温泉施設作りで、あんまりフォニアと顔を合わせてなかった気がする。
「そうかそうか。じゃあ明日はどこか遊びに行こうか」
「どこか行きたいところある?」
二人してフォニアを覗き込むと、俯き加減だった顔が表情を輝かせてこちらに向く。
「うん! またみんなでダンジョン行きたい! 新しいところ、見つかったんだよね?」
日本にある遊園地とか水族館みたいな娯楽施設を思い浮かべてたけど全然違った。ダンジョンに行きたいとかマジか。
「ぶっははは! 孤児院でダンジョンに潜る冒険者ごっこしてたからな!」
しかし大爆笑するイヴァンの言葉に納得だ。最近はそんなごっこ遊びが流行ってるのか。
「お兄ちゃんたちが新しいダンジョン見つけたって話をしたら、そうなったの」
違った。俺たちのせいだった。




