第405話 わからせるメイド
面会希望だからして切羽詰まった状況ではなさそうだ。ダークエルフの数人くらいなら暴れてもエルがいれば抑えられるだろうし、敷地内にはTYPEシリーズもそこそこの数が巡回している。
客間もあるし、今日一日くらいは放置でいいだろう。
「客待たせていいのかよ」
イヴァンが呆れ顔をしているが特に問題はない。
「予定外だしなぁ」
何よりもあのダークエルフたちはあんまり好きじゃない。一日や二日くらい待たせておけばいいのだ。俺たちを待てずに帰ったら帰ったでそれでいい。
「とりあえず今日は一日温泉の整備だな」
「さいですか……。んじゃ俺は周辺の探索でもしてくるかな」
帰る気のない俺に何やらイヴァンが考え込んでいたが、ふと顔を上げると周囲に視線を巡らせる。そこまで脅威ではないが、ぽつぽつと何か魔物の気配がするので見てきてくれるようだ。
「ボクも行くー」
「わふわふっ!」
どうやらフォニアとニルも付いていくようである。
これから俺たちが魔法で行う土木工事を手伝えるわけでもなく、見てるだけなのも暇なのだろう。
「了解」
こうして温泉地でイヴァンたちと別行動となりつつも、施設の建設が始まった。
「「おかえりなさいませ」」
一日の労働を終えて夕方に我が家へと帰ってくると、執事のセバスチャンとエルに出迎えられる。
「ただいま」
「エルも一緒なんて珍しいわね」
いつも日本の文化や技術を貪欲に頭に叩き込んでいるエルは、この家で俺たちの世話をすることはほとんどない。せっかく雇った使用人の仕事を取ることはしないのだ。
「早くお客様に帰っていただきたいので」
どうやらエルフ語を話せる人材がここにはエルしかいなかったらしく、やってきたダークエルフの相手は最初エルがしていたらしい。
集落には存在しない食べ物や魔道具、設備が多数存在するらしく、あれこれと質問されては自分の作業を中断され続けた。明確に敵対されたわけではないのでお客様扱いしていたが、思い出したかのように出てくる見栄を張った態度も相まってストレスが溜まっていたようだ。
しかし大陸中に根を張るヒノマルである。エルフ語を操る人材も探せば見つかったようで、緊急任務として三名の人材が派遣されてきたとのこと。
「わからせてやれ」との伝言とともにダークエルフの相手を引き継いでからは様子は見ていないらしいが、急に態度がよくなったりはしないと思う。
「結局何しに来たんだろう?」
「ご主人さまに謝罪をしたいと言っていましたが、そのような態度には見えませんでした」
「えええ?」
確かに聞く限りだと嘘くさい。俺本人ではないとはいえ関係者であるエルを苛立たせるとか、謝罪する気があるんだろうか。
「あんまり気は進まないけど、とりあえずアイサツだけはしとくか……」
不快な連中ではあったけど、一応謝罪をする気があるなら聞くだけ聞いてやろうではないか。その上で態度が変わらないというのであればあとはもう知らん。
さっと身支度を整えると、ダークエルフがいるという客間へと向かう。俺たちが今から向かうと先触れが出ているが、果たして奴らはどう出てくるのか。派遣使用人たちにわからせられたんだろうか?
客間の前まで来ると見覚えのない使用人が扉の前におり、こちらに頭を下げて扉をノックする。応援で呼ばれたメンバーだろうが、我が家の使用人の制服をキッチリと着こなしており、その所作には微塵も隙がない。
褐色の肌をした少し尖った耳は、ハーフダークエルフだろうか。第一印象はできるメイドだったのでちょっとだけ期待が持てる。
「ご主人さまが参られました」
「……お待ちしておりました」
思ったより殊勝な言葉が返ってきたなと思いながら部屋に入ると。
「えっ」
客室リビングの床に見事なDOGEZAを決めるダークエルフたちがいた。
「何やってんの?」
「この人たちがダークエルフ?」
莉緒と一緒にエルを振り返ると、部屋で待機していたもう一人の使用人が答えてくれる。白い肌で耳の先が少しだけ尖っているハーフエルフの女性だ。こちらも雰囲気はやり手のメイドだ。
「はい。この屋敷にいらしたダークエルフの方たちで間違いございません。せっかく来ていただいたので、最上級のおもてなしをさせていただきました」
素晴らしい笑顔を見せるメイドのハーフエルフ。
「この屋敷の素晴らしさを……、ひいてはご主人さまの素晴らしさを身をもって体に覚え――体験していただきました」
最後の一人は人族のお婆ちゃんだ。引退したメイド長と言われれば納得できる、厳しさと優しさを兼ね備えたような雰囲気の人物だ。
しかし体に覚えこませるとか、舐めた態度が見えたので屋敷の設備に使われている技術でぶん殴ってやったってことか。思ったより過激な一面がありそうだ。
まぁダークエルフの集落の文明度合いはわからないが、そこまで進んだものではなさそうというのは想像に難くない。
何せ客間にはテレビとかまで設置してあるし。ダークエルフからすれば、わけのわからないオーバーテクノロジーで殴られたような衝撃を受けたことだろう。
ちなみに事の起こりをエルに聞けば、朝早くから敷地をちらちらと覗き込む不審人物としてダークエルフたちが発見されたのがきっかけらしい。ダークエルフのことは俺から話を聞いていたので、もしかしてと思い迎撃ではなく対話を選択したようだ。
穏便に済ませてもらってよかったな。
それにいろいろとわからせられたようで何よりである。




