第404話 途切れない客
かなり悪い情報ではあったが、今すぐにやってくるわけでもない。焦らずに確実に対策を練っていこう。
「あいつらがアイソレージュ入りしたらすぐに知らせてくれ」
『畏まりました』
「あとは迎賓館をもっと強固にしておくか……」
「強行突破してきそうだもんね」
「……そんなに厄介な奴らなのか?」
メサリアさんとの電話が終わった後、他にも対策がないか考えていたらイヴァンが嫌そうな顔になっている。
「少なくとも根黒とは会話が成立する気がしない」
「……会話したいとも思わないけどね」
「ええ……、そこまでなのか……」
俺たちの反応にイヴァンもドン引きだ。
もともと仲が良かったわけでもないし、俺たちから歩み寄る気もない。
「強固にするって具体的にはどうするんだ?」
「さて、どうしようか?」
「落とし穴でも用意するの?」
具体的にと聞かれても、考えるのはこれからだ。特に案があるわけでもなかったが、莉緒からの落とし穴でちょっと閃くものがあった。
「どうせならダンジョンに繋げてしまうか」
「ええ?」
「あははっ!」
あの凶悪なダンジョンの罠を思い出したのか、イヴァンがますます引いているが莉緒はツボにはまったらしい。
「きちんと尋ねてきた人はもちろんちゃんと持て成すけど、無理やり入ってきた奴らに遠慮はしなくていいだろ」
「死ぬんじゃねぇの?」
「不法侵入してくる奴らにそこまで責任は持たん」
「そりゃそうか……」
「それよりも今は温泉だ!」
「おんせんだ!」
暗い話は一旦置いておこう。現実逃避とも言うが仕方がない。
俺の声にフォニアも反応したのでこのまま押し切ることにしよう。なんだかんだと風呂好きの俺たち日本人に釣られてか、フォニアとイヴァンだけでなくニルも風呂がそこそこ好きだ。
温泉があるというのであれば入らないわけにはいかない。というわけで、翌朝になってからさっそく現場へと向かった。
「うおおおぉぉ、こりゃすげぇ」
温泉は森の中にある、なだらかな山の中腹にあった。場所は俺たちの拠点の南側、ダークエルフの集落を越えたところだ。
切り立った十メートルくらいの高さの崖上から、滝のようにお湯がドバドバと降り注いでいる。滝からは湯気が立ち上っていて、滝つぼから流れる川ももちろんお湯だ。さすがにしばらく流れた後は冷めているようで湯気はみられないが、冷やされた温泉はそのまま森の中へと続いている。温泉は透明で、川の底は淡い緑に色づいていて神秘的だ。
お湯を鑑定してみたけど特に問題なく入れそうだ。
「崖の上も気になるわね」
「行ってみよう」
「ボクも!」
「わふっ!」
滝の川幅は一メートルくらいだが、崖の横幅は視界の左右端までずっと続いている。地震で岩盤のずれでも起こったのかと思えるほどだ。
イヴァンとフォニアがニルの背に乗ると、二人と一匹で空へと駆けあがる。
「うお、こっちもすげぇ」
崖上もなだらかな上り坂になっていて、向こう側には煙を噴き出す山頂が見えた。百メートルほど先まで木は全く生えていないが、そこからは草が生い茂り、山頂まではまた森が続いている。
木が生えていない部分と言うのは、湯気をもうもうと立ち昇らせる池だ。池に流れ込む川などは見えないため、底から温泉が湧き出ているのだろう。お湯は透明だが、川と違って底は淡い青色になっていてとても幻想的だ。
「直接は入れなさそうだな」
「熱気がすごいわね」
崖の上というか、温泉の周りは暑かった。お湯に触れなくても熱そうなのがわかるくらいだ。
「景色良すぎるだろ」
「ふわああぁぁぁ!」
「わふーーーん!」
振り返ればすそ野に広がる森と、森から流れ出るいくつかの川が遠くまでよく見える。フェアリィバレイの温泉もすごかったが、あそこは谷底にある温泉だったのでここまで景色を堪能することはできない。
どんな温泉がいいかみんなで話し合う。崖の上にある温泉は熱くて入れないから冷ます必要があるが、近くを流れる川は見当たらない。滝つぼはちょうどいい温度だったが、崖上からの景色も堪能したいので、この熱い崖上温泉もなんとかしたいところだ。
「どうせ家のお風呂とここの温泉つなげるんでしょ?」
「たぶんそうなるな」
「だったら川も繋げてしまえばいいじゃない」
「おお! その手があったか!」
莉緒のアイデアで温泉の設計がまとまってくる。池の隣に浴槽を作って川の水を流し込むことにした。滝つぼ側は今の温度でちょうどいいので、池から滝となって落ちる流れは変えないことにする。
ある程度構想がまとまればさっそく工事開始だ。というところでまたもやスマホが鳴った。
「エルからだ」
「珍しいわね」
普段あまり俺たちを煩わせることのないエルである。
「もしもし」
『エルヴィリノスです』
「何があった?」
略さないエルの名前久々に聞いたなぁと思いながら、話の続きを促す。
『拠点にダークエルフが現れました』
「はぁ?」
ダークエルフ? なんで?
礼を受け取れと上から目線で言われたので丁重に辞退したということは覚えている。苛立たせた記憶はあるけど、わざわざやり返すために呪われているらしい山を越えてきたんだろうか。いや、さすがにそこまで短絡的ではないか?
確かに北の山から来たとは言ったけど、ダークエルフたちには呪われた山を越えるのは簡単なことなのか。うむ、さっぱりわからん。
「今度は何があったの?」
しばらく考え込んで黙ってしまったようで、莉緒にダークエルフが来たことを伝える。
「何しに来たんだろう」
思わずみんなと顔を見合わせるが、それは本人に聞いてみないとわからない。
『ご主人さまとの面会を希望しているようですが、いかがしますか?』
クラスメイトの次はダークエルフとか、なかなか予定通りには進まない土地開拓である。




