第401話 作戦開始
孤児院へと戻ってくると、ニナは無事に意識を取り戻していた。思ったより元気そうで一安心だ。
「おなかすいた」
「おにいちゃん! ニナがおなかすいたって!」
「わかったわかった」
ベッドの上でお腹を鳴らしながら呟いたニナの声を拾って、フォニアが大げさな身振り手振りで伝えてくる。
孤児院での夕飯はすでに終わっているようで、ついさっき目が覚めたニナはまだのようだった。そういえば俺たちもまだ晩飯食ってないな。
「じゃあちょっとキッチンを借りて何か作ろうか」
「わかった! いんちょう先生に言ってくる!」
莉緒が提案するとフォニアがすぐに部屋を出ていく。
その様子をポカンと見送っていたニナだったが、改めて俺たちに顔を向けると口を開いく。
「あの、ありがとうございました。わたしを助けてくれたってフォニアちゃんに聞きました」
「ああ、気にしなくていいよ。悪いのはあの冒険者だからね」
「でも……」
「小さい子は細かいことは気にしないの」
しばらくそんなやりとりを続けていると、フォニアが他の孤児と院長のケイティを連れてやってきた。
「シュウさん、リオさん、この度はニナを救っていただいて、本当にありがとうございます」
ケイティは姿を見せるなり深々と頭を下げる。
「いえいえ、そんなことより頭を上げてください」
孤児院長ではあるが小人族だけあって、ケイティも見た目は子どもである。そんな彼女が深々と頭を下げている様子をみると、こっちもなんだか居心地が悪い。
「そういうわけには参りません」
「先生」
それでも頑なに頭を下げ続けるケイティに、ベッドの上のニナから声がかかった。
「小さい子は細かいことは気にしなくていいって、お兄ちゃんが言ってたよ」
「へっ?」
腰を折った姿勢はそのままに、顔だけ上げてニナを見つめるケイティ。
「えっ?」
「ぶふぉっ」
「あはは!」
思わずニナを見返すと、イヴァンがいつもの調子で噴き出して、莉緒も笑い声をあげている。
「せ、先生は大人だからいいんです」
ちょっとだけ顔を赤らめながら抗議するケイティだったが、俺としては大人だったとしても気にしなくていいという思いは変わらない。
「あー、先生も気にしなくていいですよ?」
言葉にしたとたんにケイティの顔からちょっとだけ表情が抜ける。
「それは……、私が小さいからですか?」
「それは関係ないです」
莉緒にも同意を求めると頷きが返ってきたが、何が面白いのか笑いをこらえているようだった。
「それはそうと、キッチンを使わせてもらえるならさっそく行きましょう」
話を逸らすように切り替えると、ニナからまたお腹が鳴る音が聞こえてくる。さすがにケイティも話を戻すことはできなかったようで、とりあえず全員で食堂へ向かった。
料理を作っていると、夕飯を食べ終わったはずの孤児たちも集まってきて賑やかになったことをここに記しておく。
「それでは何人ほど東の島に送り込みますか?」
ニナと共に孤児院で夕飯を食べた翌日、朝ごはんを食べ終わった直後に唐突に食堂でメサリアさんから提案された。
「送り込むって」
「当ギルドは情報収集が仕事ですので」
そういえばそうだったけど、メサリアさん仕事早すぎね?
「ちなみに全職員に募集をかけたところ、132名が手を挙げました」
「「ぶふぉっ」」
これにはイヴァンだけでなく俺も飲んでいたお茶を噴き出した。
「……多すぎだろ!?」
ツッコミそうになったけどそれはイヴァンの役目だ。
「いかが致しますか?」
見事役目を果たしたイヴァンには視線も向けず、淡々と仕事を遂行するメサリアさん。
それにしてもギルドに所属する人数はさっぱり把握してなかったけど、百人以上応募するとかどうなってんの? え? 大陸中の職員に声を掛けた? 幹部まで数人手を挙げてるって? ウチのギルドってそんなに暇なの? めっちゃ忙しい? 意味わかんないんだけど。
「こっちのお金使えないから、お金を稼いで拠点づくりからしないといけないけど」
「承知しています」
昨日のうちにメサリアさんに情報連携しているので、そのあたりはしっかり理解しているようだ。頼もしくもあり恐ろしくもある。
とはいえニナを蹴り飛ばすような人間が所属する島だ。
「あー、そうだな……。では全力で奴らを丸裸にしてやりなさい」
「承知しました」
告げた瞬間にメサリアさんの目がギラリと光った気がした。
拠点ができるまではしばらくメンバーの送り迎えをしないといけなさそうだが、俺たちも俺たちで島の観光をする予定だ。
「まずは金策だな」
「食材は豊富だと聞いているのでそれ以外になりますね」
「パッと思いつくのは希少金属とか宝石かな?」
「足が付かないようにまずは少量を換金しましょう。現場の情報が入ってくれば効率も良くなるかと」
「よし、それでいくか。一気に全員送り込んでも無駄だろうし、人員はメサリアさんで適当に決めてくれ」
「畏まりました」
朝食後のまったりした時間である程度の方針を決めると、メサリアさんはそのまま帰っていった。
「今日は島に行くの?」
メサリアさんを見送ると、ワクワクと瞳を輝かせたフォニアが待っていた。
「そうだな。みんなを送り込んだら俺たちも行こうか」
「やったぁ!」
嬉しそうに飛び跳ねるフォニアを苦笑しながら眺めるのであった。




