第370話 国家転覆罪
「国家転覆罪!?」
「ぶふっ」
叫ぶ三人の声に紛れて、後ろからイヴァンが吹き出す声が聞こえてきた。いつの間にか着せられていた国家転覆罪が、着せてきた相手に返ってるとか。
「あはは!」
これには思わず俺も笑ってしまう。
「そ、そんなまさか!?」
「ただの冒険者ではないですか!?」
「し、城に襲撃をかけたそやつの罪はないのですか!?」
次々に文句を言う三人だが、最後の言葉に国王が眉間に皺を寄せる。
「ないとは言えん」
しぶしぶと答えると、それ見たことかと長官の態度が大きくなる。国王の前だというのに取り繕うことはもうしなくなったのか。
「が、それならばそなたらがそこにいるSランク冒険者を捕えてみよ」
「はは、やるなら相手になるぞ?」
国王に振られたので、軽く威圧を込めて一歩踏み出してみる。が、もちろん勇んでくるような相手でもなく、短い悲鳴を上げて後ずさるだけだ。
「すまんがシュウ殿、威圧は引っ込めてくれぬか……」
「おっと失礼」
三人が怯えたままだと話が進まなくなっていて、俺としても本意ではない。
「そんな……、国をもってしても制御できない個人など、どうしろと言うのですか!?」
悲痛な叫びをあげる長官だが、なんだかひどい言われようである。
「じゃが、今回の魔の森のスタンピードをほぼ被害なく終息できたのは彼のおかげでもある」
「「「ッ!?」」」
「よいか。Sランク冒険者というのはそういう存在じゃ。そなたらはそんな人物にちょっかいを出したのじゃぞ? この国を滅ぼしたかったのか?」
「そ、そんな、滅相もございません!」
「Sランクがそれほどなどとは、つゆ知らず」
「……!?」
「ふん。もうよい。どちらにしろ手遅れじゃ。今の状況を見ればわかるじゃろう。もうこの国を落とされたも同然ではないか」
国王が俺たちとTYPEシリーズを見回してから、また中央の三人へと視線を戻す。三人も同様に俺たちを見回すが、顔色は青を通り越して白くなっており、恐怖に歪んでいる。
「国落とし……」
誰かがぽつりと呟いた声が聞こえてくる。
そんなつもりで城に乗り込んだわけではないが、結果としてそうなってしまっているのは事実だ。とはいえ国なんぞいらないが。
「そなたらに対し、すべての財産と領地を没収し、爵位をはく奪する。余罪が明らかになるまで処刑はせんから安心するんじゃな」
国王の宣言に三人がその場に力なく頽れる。続く「連れていけ」と言う言葉と共に騎士が動き出し、謁見の間の中央から人がいなくなった。
「ふぅ……。次はあちらじゃの」
国王が大きくため息を吐くと、今度は俺たちの反対側で地面に伏せさせられていた貴族へと視線が向く。
ついでに反応が見たかったので、TYPEシリーズから解放してやることにする。
「そうですねぇ」
正直言えばあっちの人間はどうでもいい。国が適当に処分するというのであればそれでいいし、しっかりとSランク冒険者に手を出すことの恐ろしさが伝わっているのであれば、無罪放免でもいいとすら思っている。でもそれがきちんと伝わったかどうかは反応を見てみないとわからない。
「ひぃっ!」
さすがに目の前で断罪される三人を見た直後だからか、一切の文句は出てこなくなっている。内心では何を考えているかわからないが、今後俺たちに迷惑をかけないのであればそれでいい。
「うーん、正直言うとそろそろ面倒になってきてるので、そっちで適当に処理してもらえればいいかなと」
「そ、そうか……。ならばそうさせてもらおう」
騎士たちに指示を出し、謁見の間から連れ出されたところで国王が大きく息をつく。
「よし、これで全部終わったかなぁ」
俺としてもようやく終わったって感じだ。
「たぶん?」
「やっとか」
莉緒が首を傾げているけど、たぶんもうないはずだ。イヴァンもようやく落ち着けたのか、ホッとした表情だ。フォニアは……、寝てるな。案外一番大物かもしれない。
「シュウ殿。少し待ってもらえないじゃろうか」
よし行くかとなったところで国王から待ったがかかる。
「……まだ何か?」
城を壊したりした分の請求なんぞされても受け付けんぞと思いながら振り返ると、国王が慌てた様子で両掌を前に出して振っている。
「そうではない。国として迷惑をかけたことの詫びや、スタンピードを退けてくれたことへの褒美がまだじゃろう」
「えー、あー、うーん」
もう気は済んだし、面倒だという気持ちが一番強い。
スタンピードについては冒険者ギルドからの依頼だったので、国はあんまり関係ないと思うんだけどな。
「面倒に思うじゃろうが、今回の騒動にキッチリと決着をつけたいだけじゃ。これでお互いに文句を言い合うのはナシ……、ということじゃな。罰でも褒美でも、足りてないじゃろうとそちらに接触を図る理由は潰しておきたい」
「はは、正直ですね」
取り繕うつもりもない正直な告白だったが、そういうのは嫌いじゃない。それで欲しくもないものを押し付けられるのは勘弁願いたいが、この国王なら俺たちの不満を溜めるだけの行為はしないと思える。
「まだ続くのか……」
イヴァンのげんなりした声が聞こえるけど、あともうちょっとだ。たぶん。
「一応言っておきますけど、城の修理代を払う気はないですよ?」
「わかっておるよ」
そしてもう一度大きくため息を吐く国王であった。




