第366話 証拠の提出
「うおおおい! もうちょっと穏便に扉開けらんねーのかよ!?」
三メートルほどの高さの扉が向こう側へとぶっ飛んでいき、激しい音を立てて床と激突する。その後に訪れた静寂を破ったのは、イヴァンの鋭いツッコミだ。シンとする空気の中でツッコミを入れられるとは、イヴァンもなかなか図太く……いや成長したんじゃなかろうか。
「陛下! 今のうちにお逃げください! 見ての通りの危険人物です!」
イヴァンのツッコミで我に返ったのか、それ見たことかと言わんばかりの勢いで宰相が国王を逃がそうとしている。自分が犯罪者認定したSランク冒険者は見ての通りだと主張したいらしい。
「はっはっは、軽いノックじゃねーか」
「んなわけあるか!」
「でもまぁ、手当たり次第に犯罪者に仕立て上げる奴に言われたくはないな」
謁見の間に足を踏み入れつつ、一番焦った表情をしている宰相に向かって告げれば、一部の貴族が目を見開いて宰相へと視線を向けた。
「な、何の話だ!?」
「他にも怪しい噂は聞いたから、余罪で捕まってたりしねぇかなって期待してたけどそうでもなかったな」
宰相の悪い噂はそこかしこで耳にすると聞いている。火のない所に煙は立たぬというし、今回俺をハメた以外にも不正を行っていると予想できる。
だが蓋を開いてみれば宰相が捕まっている様子はない。証拠がないと調査にも動かない国なのか、それとも宰相の権力はそこまであるということか。どちらにしろ自浄作用は期待できないということだ。
盗み出した証拠はかなり言い逃れができないものだと思っているが、こうして国に留まっているのは何かしら勝てる根拠があるのだろうか。不正の証拠が盗み出されたと噂もばら撒いたし、実際に屋敷で派手な音を立てて窓をぶち破ったりしたのだ。
確実に俺たちから証拠を回収するしか、不正を握りつぶす方法はないはずである。
とはいえ、ここで証拠を出して偽物呼ばわりされたらどうだろうか。最初に見せるのは、宰相と敵対している貴族がいいのかもしれない。
そのためには――
「まずはお荷物の返却かな」
今までに捕らえた者を収容した檻を、謁見の間の中央手前まで進ませる。
「な、なんだ……?」
さっきまで部屋の外にあったので、見えていなかった貴族も多かったのだろう。ざわつきが大きくなってくるがお構いなしだ。
広い謁見の間ではあるが、ちょっと窮屈になってきたかもしれない。檻がなくなればマシになるかと、一斉に檻を解除する。ほとんどの者は立ち上がることもできず、ぼーっとした表情をしたままだ。
「こいつらは俺たちに襲い掛かってきた奴らだが……」
一歩前に出るとニヤリと笑い、扉の外に待機させていたTYPEシリーズを数体、謁見の間へ入るように命令を下す。
「ま、魔物!?」
誰かが発した言葉を発端にして、大臣職は怯えるように後ろに下がり、護衛の騎士が剣を抜き放って前に出てくる。
防がれるのも面倒なので、護衛と同じ数だけTYPEシリーズを追加で呼び寄せると。
「その命令を出した本人が報復を受ける可能性は考えてたか?」
問いかけと同時にTYPEシリーズをけしかける。護衛を抑える係と、俺たちに襲撃命令を下した何人かの大臣が標的だ。今のところ危害を加えようとは思っていない。張り倒して床に縫い付けるだけだ。
多少の威圧もかけているので声を上げるやつらもいない。
一人だけできる護衛がいたので、そいつは俺自身が重力魔法で床に縫い留めている。多分近衛騎士団長か何かだろう。
「くっ……、こんなことをして、タダで、済むと、思っているのか……!」
床に縫い留められている人物から睨まれるも、それほど勢いはない。さすが騎士団長っぽい人だけあって、威圧を受けても喋れるようだ。
「こんなことしなくても国家転覆罪とやらなんだから、何しても変わんねぇだろ」
一言返してやれば黙ったのでこっちも話を続けることにする。
「エル」
「畏まりました」
声を掛けるとエルが謁見の間の中央へと進み出て冊子の束を取り出す。
「今から宰相の不正の証拠をコピー……、複写したものを配ります」
「ボクもやるー!」
エルの説明にフォニアも手を上げると、ニルの背から降りてエルのところまで走っていった。さっきまで檻の中にいた襲撃者たちの近くを通り過ぎたとき、何人かが悲鳴を上げて後ずさっていたがまぁそんなこともあるだろう。
護衛はすべてTYPEシリーズが抑えているので遮るものは何もない。TYPEシリーズたちに抑えられていない貴族たちに順に配っていく。
その合間を縫って一番奥の玉座に座っている国王の元へと歩いていくと、同じく証拠となる書類を差し出す。
「これが原本です。宰相の屋敷の隠し金庫の中に入っていたものです」
動けなさそうだったので威圧を解除すると、腕をプルプルさせながら受け取った。
「……隠し、金庫だと……? 証拠が出なければ、ただの強盗ではないか……」
安心してください。証拠が出るとわかってたから踏み込んだので。
国王が渋面を作りながらも、手に取った書類に目を通していく。噂を王都中にばらまいたおかげか、今がどういう状況なのか説明いらずなのは楽でいい。
結構な枚数がある書類だが、なかなかのスピードでページがめくられていく。ちゃんと読んで理解してるんだろうか。それとも国王ともなればこういうスキルが身に着くのか。
「……確かに」
あるページで手を止めると大きくため息を吐いて顔を上げ、表情を引き締める。
「城で保管している書類と比較して検証する必要はあるが……、記憶にある報告と異なっている内容があるのは間違いなさそうじゃ」
もう一度ため息を吐くと左手で目頭を揉みこみ、キリッとした顔つきになって国王が立ち上がる。
「宰相を捕縛するので、できれば騎士を放してもらえないじゃろうか」
どうやら国王はまともな思考の持ち主のようだ。
「喜んで」
内心ではホッとしつつも、騎士の拘束を解くようにTYPEシリーズに命令を下した。




