第364話 貴族街へ
街中は思っていたよりも通常通りだった。門の外で部隊が待ち構えるという物々しさだったので、スタンピード警戒が出ていたサタニスガーデンみたいになっているのかと思っていた。
さすがに俺たちの後ろに続くTYPEシリーズを見てドン引きする住民もいるが、中にはテンション高く騒ぎ出す奴らもいる。
周囲の声をまとめると、あの宰相死んだなという声が大半だ。殺す気はないが、社会的には死ぬかもしれないのでそう間違ってはいないかもしれない。
「……ってかなんでこんなに宰相の話が広がってんだ?」
「なんでって……、噂を広めるように依頼したからだけど?」
「は?」
周囲を見回していたイヴァンの顔が俺へと固定される。
「そういやイヴァンだけ依頼で家にいなかったっけ」
アポ取ったから王城に行くとだけしか言ってなかった気がする。
「え、いや、すげー大騒ぎになってんだけど、いいのか……?」
「大騒ぎにするのが目的なんだからいいんだよ」
権力に握りつぶされないようにするため云々を説明しながら、王都の大通りをTYPEシリーズを引き連れて歩いていく。王都は南北を貫くように大きな道が通されており、中央部分から西側が貴族街のエリアとなっていて、その中心部が王城だ。
道中どこからともなく矢が飛んできたりするが、どれも発射直後に捕縛してから檻に突っ込んでいる。街道で狙っていたときよりも近距離から狙撃が可能な街中だが、どうやったところで無駄だ。もはや流れ作業になってきているくらいだ。
やがて貴族街を囲う壁が見えてくる。王城に侵入した時などはすっ飛ばしたが、本来ならば警備兵がいる貴族街への入り口を通らないとダメなのだ。
ここまで特に邪魔は入らなかったが、さすがに貴族街の入り口ともなれば別のようだ。
「すげー守り硬そうだぞ?」
入り口前にいる立派な鎧を着た集団を眺めて、イヴァンが耳打ちしてくる。
「お馬さんもたくさんいるね。ボクと一緒だね」
乗せてもらっているニルをわしゃわしゃと撫でながらフォニアは嬉しそうだ。
街の外にいたのが軍隊で、こっちは騎士団といったところだろうか。街中だからか人数は少ないが、外にいた連中よりはやりそうである。歩兵騎士が五十と騎馬兵が五十といったところだ。
「止まれ!」
案の定入り口前を固めている騎馬兵の男から声がかかる。さんざん制止の言葉を振り切ってきて今があるんだが、立ち塞がる人たちってことごとくそのことわかってないよね。
「止まるわけないっしょ」
「Sランク冒険者のシュウだな。ここから先は貴族街だ! お前にはここから先の侵入禁止令が出ている! 今すぐに止まれ!」
男の言葉を聞いてゆっくりと足を止める。
「ほう? つまりあれか? 宰相の不正は国が隠蔽するということか?」
不正の証拠を提出すると言っている俺に、来るなということはそういうことなのか?
立ち止まる気はなかったが、男の言葉が気になって睨みつけるように言葉を返す。国家転覆罪が出されている時点で証拠を受け取る気はなさそうに思うが、軍隊と騎士は管轄が違うのかもしれない。
「そんなわけないだろう! 正式な手順を踏めと言っているんだ!」
なるほど? 微妙に正論な気もするが、結局中に入れたくないだけじゃないのかとも思う。ただ正規手順でも無理な場合はあるとは思うんだよな。
「そうか。それで、正式な手順を踏んだ場合に、途中でもみ消される確率は?」
さすがにその可能性はゼロではないと思っている。腐っても宰相だけあって、いろんなところにコネがあるはずだからだ。
「……」
「却下だな」
即答できなかった時点でもみ消される可能性ありだ。そういうことにならないように、直接王城に持参すると言ったんだがなぁ。それに即答してきたとしても初対面の男の言葉なんぞ信じられるはずもない。結局俺たちの行動は変わらない。
止めていた足を動かして、貴族街への歩みを再開する。
「ま、待て! だとしても、ここを通すわけにはいかん!」
「証拠が最高責任者に届かないんなら引っ込んでてくれませんかね」
俺たちの説得に失敗して強行突破されるとなったからか、背後にいた騎士たちも動き出す。騎馬隊が前面に出てきて大通りいっぱいになるように参列に並ぶ。その後ろに歩兵騎士だ。
こちらも歩みを止めずに空間遮断結界を大通りの幅いっぱいに張り巡らせる。騎馬隊までまだ距離はあるが、発動場所は騎馬隊の目の前だ。馬には影響を与えないように騎手がいる空中に結界を張る。
「ぐっ、な、なんだこれは!?」
そのまま前へ進むとともに結界も前進させて騎手だけ落馬させると、TYPEシリーズに一人ずつ捕らえるように指示を出す。
さすがに一対一だとさして時間をかけずに捕縛が完了した。暴れだす騎士たちだが、TYPEシリーズにがっちりと捕まえられた状態では抜け出せないようだ。
「あんまり手ごたえないわよねぇ」
「それはそれで面倒だけど……」
莉緒がため息をついてるけど、俺としても同意できるだけに複雑な気分だ。手ごたえがない分、楽でいいとも思う。
「城まで行ったら今度は近衛騎士とかが出てくんのかな?」
うんざりした様子でイヴァンがため息をついている。
「確かに。ちょっとは手ごたえがあるかしら」
嬉しそうにする莉緒に、俺は肩をすくめるだけだ。
「なんにしてもここから貴族街だ。あんまり抑える必要もないから、派手に行こうぜ」
「オーケー」
「了解しました」
「わかった!」
「わふぅ!」
「……ほどほどに」
イヴァンだけはなぜか消極的なようだった。




