第363話 鎧袖一触
ニルの背に乗って小さくなっていくフォニアの背中を眺める。
昨日までは、順番に襲い掛かってくる敵さんの相手をこちらも順番になって相手をしていたんだが、今日はフォニアとニルの番だった。
確かに順番と言えば順番なんだけど。
「まぁいいか」
「数が多いだけだし、大丈夫でしょ」
今まで襲い掛かってきたのはどちらかと言えば精鋭だろう。今この街道周辺に集まっている有象無象は、そいつらに比べれば数段劣るのだ。
「お、始まったぞ」
そうこうしているうちに敵から一斉魔法攻撃が放たれた。射程距離は五百メートルもないみたいだ。合間に弓矢も飛んできているようだが、そこまで射程があるのは一部強者の弓使いだけのようだ。
とはいえ生半可な攻撃がTYPEシリーズに効くわけもない。下位ランクのTYPEシリーズとはいえ、冒険者で言えばAランク程度のステータスを持っているのだ。金属のロボットであるからして耐久力もばっちりだ。
「あらら、ぜんぜん相手になってないわねぇ」
「あのダンジョンの魔物、オカシすぎるもんな……」
一部の区画では派手に爆発音が上がっているが、たぶんフォニアの火魔法だろう。そうでなくても敵の遠距離攻撃をかいくぐったTYPEシリーズたちが、敵兵を派手に蹴散らしている。
三十分とかからずに派手な音がしなくなる。なかなか奮闘する敵兵もいたようで、TYPEシリーズが一体だけ戦闘不能になっていた。とはいえ相手は文字通りの全滅だ。部隊は三割がやられれば全滅、などと言われているがそんな生易しいものではない。
「おかえり」
「ただいま!」
「怪我はないか?」
「うん! 大丈夫だよ」
TYPEシリーズが続々と戻ってくる中で、ニルの背に乗ったフォニアも満面の笑みで戻ってきた。
「というか、それ何?」
ニルが咥えているものを指させば、放り投げられて地面へとぶつかったそれから「ぐえっ」と声が上がった。
「なんかね、他の人よりりっぱなよろいを着てたから、連れてきたよ」
「おー、偉いぞ」
よしよしとフォニアの頭を撫でた後に、ニルにもよくやったと声をかけてもふもふと撫で繰り回してやる。
地面に落とされた男と言えば、周囲に集まってきているTYPEシリーズを見て顔を青ざめさせていた。
せっかく捕らえたのに逃げられるのもどうかと思うので、とりあえず檻で囲ってエルへと丸投げする。鑑定スキルを持っているし、魅了スキルと合わせれば上司や雇い主を吐かせるのはそれほど難しいことじゃない。
「んじゃ、TYPEシリーズも揃ったし行くか」
「はーい!」
ニルに乗っているフォニアが元気よく手を上げる。どうやら降りるつもりはないようでそのままだ。
大破したTYPEシリーズを修理のためにダンジョンへ帰すと、新しい一体と交換する。どうせならTYPEシリーズも引き連れて王都の城へと訪問してやろう。
「あれは放置でいいの?」
歩き出してしばらくすると、そこら中に敵兵が地面で伸びている景色が見えてくる。
「あー、そうだなぁ……」
命令に従っただけの一般兵に恨みはないが、無防備なところに魔物が襲い掛かってきても可哀そうだ。
「ちょっとだけ回復させておくか。あとは知らんってことで」
了解とばかりに莉緒が広範囲に治癒魔法をかけてくれる。見た目も派手にしてくれたようで、次々に起き上がる敵兵を見れば治癒したことも一目瞭然だろう。また襲い掛かってくるようなら何度でも返り討ちにするだけだ。
「ははっ、さすがにもう向かってくる奴はいなさそうだな」
若干引きつつも安堵の表情を浮かべるイヴァン。俺たちにとって脅威はないとはいえ、イヴァンにすれば千人もの人間が一斉に向かってこられると心臓に悪いのかもしれない。
「王都に着いたらまっすぐに城に向かいますか?」
「そうだなぁ。最初は城でいいかな」
エルに答えながら考えるが、最初に大物をやっておけば後は楽だろう。上の威光も効かないとわかれば早々に心が折れてくれそうだ。
しばらく進めば街の北門が見えてくる。門の前に部隊が展開されていたからか、門の前に並ぶ一般人はいないようだ。ただし、物好きはいるようでちらほらと人の影は見える。
が、TYPEシリーズが並んで迫ってきているのを見てなのか、何人かは慌てて街の中に引っ込んでいく。
「と、止まれ!」
門をくぐろうとしたすぐ手前で、ガチガチに緊張している門衛さんに声をかけられた。ただ通り抜けるだけなんだからそんなに固くならなくてもいいのに。
「はいはい」
気楽に返事をしたらビクッとして動かなくなった。どうせ身分証を見せろだと思って、首にかけてあった冒険者証を目の前に差し出す。
「……え、あ、はい、どうぞお通りくだ……、ってあの、後ろにいる物々しいのは、なんですか?」
ちゃんと冒険者証を確認したのか疑いたくなったが、どうやらセリフの後半でちゃんと職務を思い出したようだ。青い顔をしたままの門衛が、後ろに続くTYPEシリーズをちらちらと見て尋ねてきた。
「……ゴーレムですよ。ちゃんと制御できてるのでご安心を」
一瞬だけなんと説明したらいいか迷ったが、そういえば誰かがゴーレムと言ってたなと思い出してそう説明する。ついでに後ろに並んでいた犬型のTYPEシリーズを呼び寄せて、お座りとお手をしてみた。
引きつった笑いが返ってきたけど概ね納得してくれたんじゃなかろうか。
こうして俺たちは王都の中へと足を踏み入れた。




