第361話 本気を出してきたようです
あれから五日ほどが経ち、俺たちは順調に王都へ向けて歩みを進めている。襲撃者は追加で十三人ほど来たが、すべて返り討ちにして生かして連行している。久々に作った土属性魔法の檻だ。送り込んできた人間へと利子をつけてキッチリ返す予定だ。
「懲りない奴らだなぁ」
今も道を塞ぐようにして仁王立ちしている人物を遠目にしながら、イヴァンが呆れたように呟いている。今まで捕縛した奴らはどちらかと言えば暗殺者タイプだった。スタンピードの警戒レベルが解除されたばかりの街へ向かう冒険者を装ったり、夜明け前に野営ハウスに襲い掛かってきたりだ。
「今回は真正面からかしら?」
「……っぽいなぁ。後ろから回ってきてる気配はないし」
今までを思えば、自分の気配察知スキルの結果をちょっと疑いたくなってくる。が、周囲に人間や魔物の気配は感じられないのだ。
歩いて近づいていくとだんだんとその様子がはっきりしてくる。見た目の第一印象は騎士だ。かっちりとした白銀の鎧を着こみ、腰には派手にならない程度に装飾された剣を下げている。
その後ろには部下だろうか、装飾が控えめなおそろいの鎧を着た人間が五人ほど、横並びで構えている。が、俺たちの後ろにある檻も気になってるようだ。
「……Sランク冒険者のシュウだな?」
「そうですけど」
仁王立ちしている男から声がかかるが、歩く足を止めずに言葉を返す。のんびりと歩いて向かっているが、邪魔が入ってもいいというわけではない。
だが男はそんなこと知らんとばかりにこちらを指さすと、大声で宣言するのだ。
「我はノウェル・ベックマン。貴様に決闘を申し込む! そして王城に持ち込もうとしているモノを置いて引き返すがよい!」
やる前から勝った気でいるセリフだ。それにここから他の国へ行くなら、引き返さずに王都を通り抜けないとダメだ。俺たちなら道なき道も行けるだろうが、そういう問題じゃない。
「え、嫌ですけど」
バッサリと断りつつ、そのまま通り過ぎる気持ちで歩いていくが、さすがにそうはさせてくれないようだ。
「問答無用! こちらには引けない理由がある故、決闘は受けてもらう!」
言葉と共に腰の剣を抜き放つと正眼に構えを取る。後ろにいる部下らしき人たちは直立不動のまま動く様子はない。仮にも決闘と口にするだけあって、初めから多人数でかかってくるような行動はしないらしい。律儀と言えば律儀ではあるが、話が通じないということに変わりはない。
さすがに武器を構えられれば、こちらも足を止めざるを得なくなるというものだ。莉緒たちはその場で立ち止まるが、まだ距離はあるため俺だけは足を止めずに近づいていく。
「だよなぁ」
なんだかんだとこちらの都合なんぞ考えない奴らだ。とりあえず邪魔する奴らだと分かった時点で拘束していくのが手っ取り早いかもしれない。
ぐっと足に力を込めて飛び出してくる予兆が見えたので、相手の足元を空間魔法で固定する。案の定つんのめって倒れたので、そのまま周囲の土を魔法で固めて檻にした。ついでに後ろで控えていた五人もまとめて一つの檻に入れる。
「やっと静かになった……」
「あはは……」
げんなりした言葉を漏らせば莉緒からも苦笑が返ってくる。それほど時間がかかったわけではないが、檻を作ってる最中はやかましかった。やれ卑怯だの正々堂々と戦えだのと。
んなもん知るかっつーの。
「むむむむ……」
一息ついて振り返ると、フォニアは一生懸命土魔法で壁を作っているようだった。一メートルくらいの高さの壁が出来上がっている。
「お兄ちゃんみたいに家作るのは難しい……」
「お、他の属性もがんばってるのか」
得意な火属性はかなり使えるようになっているが、他はまだまだみたいだ。
「偉いわねぇ。ほら、作りたい家の見本があれば上手にできるかもしれないわよ」
莉緒が頭を撫でながら、俺がさっき作った檻を指さしている。格子状にしているその隙間からは、決闘を吹っかけてきたやつが剣を振り回して壊そうとしている様子が見える。
「わふわふわふ!」
ニルは何やら興奮状態だ。スタンピード本番のときにフォニアと魔物討伐をして以来なので、ストレスが溜まっているのかもしれない。
「どうしたニル。……次に誰か来たらニルがやるか?」
「わふっ!」
なんとなくで聞いてみれば尻尾を激しく振って嬉しそうだ。
「はは、ニルなら大丈夫か。ここんところの相手は俺にはキツイからな……」
イヴァンが遠い目をしながら零しているが、確かに今のイヴァンの実力だと厳しい相手ばかりだ。今日の男もそこそこの実力はあったのだ。
「んじゃま、行きますか」
こうして今日も襲い掛かる人物を捕獲しながら王都を目指して歩いていく。
のんびりしつつも歩いて王都へと向かうこと九日目、ようやく王都の街壁が見えてきた。檻に詰め込んでいる人間はそろそろ五十人に届こうかという数にまで膨れ上がっている。
新入りはまだ檻を壊そうと頑張っているようだが、古参メンバーは心が折れたのか大人しいものだ。
「おいおいおい……、マジかよ」
そして近づくにつれ見えてくる景色にイヴァンが呻く。
「おおー」
気配察知でわかっていたとはいえ、実際に目にすると壮観だ。
王都の北門から数キロ離れた街道周辺に、軍隊が待ち構えていたのだ。その数は千といったところだろうか。
「最後に本気出してきたわねぇ」
「ほえー、すごいねぇ」
「わふわふ!」
「……」
フォニアとニルはよくわかっていないのか、単純にはしゃいでいる。エルは呆れて言葉もないようだ。
しばらくすると、どこかで見たことのある大男が馬に乗って近づいてきた。よく見ればスタンピード終盤で現れたメタルドラゴンサーペントの報告に軍隊へ顔を出した時にギャーギャーうるさかった男だ。
「ふん。とうとう化けの皮が剥がれたようだな。冒険者風情が。国家転覆罪ともなれば、生きてこの国から出られると思うなよ」
「へ?」
大男から告げられた罪状には目を丸くするしかない。
国家転覆罪ですってよ。




