第359話 イヴァンの料理
日も傾き始めた頃、そろそろ準備をということになり野営用ハウスを取り出して野営の準備に取り掛かった。場所は林の中を突っ切る道の途中にある広場で、周囲に野営をする他の人影はない。敢えてそういう場所を選んだとも言えるが。
「よし、今日は俺が作る」
「え?」
「何を?」
竈の準備をしているとイヴァンが唐突に宣言したので、莉緒と一緒に首を傾げてしまった。
「だから、夕飯だよ。俺だって依頼を一人で受けてる間の飯は自分で作ったりもしてたんだ」
「お、おう」
「イヴァンがいいなら、いいけど」
「イヴァン兄のごはん!?」
「わふっ?」
エルは野営用ハウスに籠ってまた情報収集をしている。日本から引いている電源やネット回線ごと収納できたので、出してすぐに使えているのだ。
せっかくの野営なので、野営用ハウスのキッチンではなくて外で料理しようと思って竈を作ったのだ。そういえばイヴァンの作る飯は食ったことがないなと思ったが、フォニアが何やら嬉しそうにしている。
「食材はあるのか?」
「そこはもちろん。各種調味料も揃ってるから大丈夫だ」
収納カバンから次々と食材や調味料と調理器具を取り出すと、慣れた様子で作業を進めていくイヴァン。思ったよりカバンも活用してくれているようで何よりだ。
「じゃあお願いしようかしら」
「任せとけ」
任されたイヴァンが張り切って料理を進めていく。そうなると俺たちは俺たちでやることがない。周囲の警戒くらいだけど、相変わらず俺たちを監視する三人と、それを遠巻きに見ている二人がいるだけだ。
しばらくやることもなく、料理をするイヴァンとそれを一生懸命手伝うフォニアをスマホで撮影していると動きがあった。
「ん?」
「あら?」
どうやら莉緒も気づいたようだ。俺たちを監視していた近いほうの三人が、ばらけて包囲する動きに変わったのだ。じりじりと近づいてきているようではあるが、まだ行動は起こさないようだ。一応隠密系スキルを使っているようだが、俺たちに筒抜けになっていることには気が付いていないらしい。
「ようやく仕掛けてきたのかな」
「かもしれないわね」
「俺は回り込んでくる二人を警戒しておくから、莉緒は正面を頼む」
「わかった」
監視者に気づかれないように何気ない感じを装い、莉緒と二人で配置に付く。じりじりと迫ってくるだけでまだ動きはないようだ。
土魔法で椅子を作って座ると、異空間ボックスから愛用のガントレットを取り出して手入れをしていく。そのまま様子を窺っていると、遠くで監視している二人組にも動きがあった。こちらを包囲する奴のさらに後ろに回り込む動きを見せると、こちらににじり寄る奴らへと近づいていっている。
「おや?」
何をやってんだろうと思っていると、気配が一つ消えた。二人はそのままもう一人へと近づいていくと、やはり攻撃を加えたのか気配が消える。遠くから監視していた奴らも仲間かと思っていたけど違うのかもしれない。
二人組はそのまま二手に分かれて俺たちの野営場所を迂回すると、莉緒が受け持っている正面の監視者へと矛先を変えたようだ。
「よーし、できた」
「ごはん!」
「わふん!」
というところでちょうど夕飯が出来上がったようである。フォニアとニルのテンションがマックスになり、イヴァンのもとへ駆け寄っている。
「飯だぞー」
「へいへい」
イヴァンに背を向けていたからか呼びかけられたので、ガントレットを収納して振り返る。こっち側の監視者は片付けられたのでもう警戒する必要もない。
料理の仕上げをしているイヴァンを見れば、焼いた肉にどこかで見たことあるパッケージのたれをかけていた。
「あー、うん。まぁ、たれは美味いよね」
日本で売っている焼肉のたれなのではずれはないだろう。
自分で料理すると言った割にはちょっと適当過ぎやしないかと思わないでもないが、冒険者の男料理といえばこういうものかもしれない。
隣には火にかけた鍋があったが、どうやらスープも作っていたようだ。こちらからはいい匂いが漂ってきていて、料理を作ったぞという主張が感じられた。
「美味しそうな匂いね」
莉緒も正面の警戒はしつつも、こちらに来て竈の近くに土魔法でテーブルを作っていた。
「あれ?」
収納カバンからお皿を取り出していたイヴァンが、カバンに手を突っ込んだまま首を傾げている。
「ああ、そうか」
が、何やら納得したようでこちらに顔を向けると。
「シュウ、ちょっとお皿出してもらっていいか? そういや自分の分しか入れてなかった」
「はは、なんだそりゃ。まあいいけど」
そんな一幕もありつつ、夕飯の準備が整った。
「いただきまーす」
全員がテーブルに着いたところで、フォニアの掛け声で食事が始まる。
せっかくだし食べるかと思い、左のフォークを肉に突き刺して右のナイフを入れたところで、タイミング悪く正面に陣取っていた人物が動き出した。
勢いよく俺たちの野営地へと飛び込んでくると、腰に差してあった投げナイフを掴んで投げるモーションに入る。
その時にはすでに莉緒が透明な空間遮断結界を正面に張っていて、襲撃者がナイフを投擲する前にぶつかっていた。
「な、なんだ!?」
イヴァンが気づいてそちらへ向くと、ナイフを投げられなかった襲撃者が斜め後方へと下がりながらもう一度ナイフを振りかぶる。しかしさらに後方から現れた人間により首を斬り飛ばされて、何もできずに倒れることとなった。
「なんなんだよおい!」
イヴァンは食事どころではなくなったようで立ち上がると、手に持っていたフォークを後から現れた男に突き付けている。こっちにきたら空間遮断結界で止めようと思ったけどとりあえずは必要なさそうだ。
「ふぅ、どうやら危ないところだったようだけど、間に合ったようだね」
爽やかに告げた男に対して俺は、肉に入れたままだったナイフを前後に動かして切り分けると、左のフォークで肉を口に入れる。
「おぉ、美味いな。イヴァンも普通に料理するようになったんだなぁ」
「何普通に肉食ってんだよ!?」
せっかく褒めたのになぜか突っ込まれた。




