第351話 無能な軍人
テントから出た俺は、その足で第二外壁を越えてまっすぐに第一区画を目指す。ちらほらと魔物が出てきていたり、冒険者パーティが相手をしている小さな群れがいたりするがすべて無視だ。
そのまま森の浅瀬に入るとスピードを落とさずに、前方に気配察知を広げていく。
「お、いたいた」
鳥TYPEが比較的密集しているエリアなのでわかりやすい。細長くてでかい反応はすぐに見つかった。ある程度森の奥まで来たところで、樹木の頭上を飛び越えて空中飛行へと切り替える。しばらく進めばすぐに到着だ。
「うおー、でかいなー」
木々の隙間から見えるその体は、雨に濡れて鈍く光を放っていた。金属質にも見える皮膚は名前にも相応しい威容だ。
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名前 :なし
種族名:メタルドラゴンサーペント
説明 :ドラゴンサーペントの異常進化個体。
その皮膚は鋼鉄よりも硬く、
アダマンタイト並みと言われている、
非常に耐久力の高い蛇。
状態 :通常
ステータス:HP 10054
MP 612
筋力 5740
体力 8745
俊敏 3645
器用 5231
精神力 643
魔力 421
運 43
スキル:
生命力感知 熱源感知
斬撃耐性 打撃耐性 刺突耐性 破壊耐性
水耐性 火耐性 土耐性 風耐性
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直径は一メートルほどだろうか。木々に隠れて見えないが、気配察知からすると全長は三十メートルくらいはありそうだ。こんなのに体当たりされたら、俺たちが作った第二外壁もあっけなく壊されそうだ。
「鑑定できたし、報告に戻りますか」
見たところ毒系スキルは持ってなさそうだったので、もしかしたら食えるかもしれない。ちょっとだけ味が気になりつつも軍本部へと引き返すことにした。
「メタルドラゴンサーペントだと!?」
戻って魔物の名前を告げるなり、一番偉そうにしていた大男が叫ぶ。
「バカな! 浅瀬にAランクの魔物が現れるなどありえん!」
「発見したのは一体だけネ?」
「ああ。周囲に他に強そうな魔物はいなかった」
騒ぐ軍人を放置してギルドマスターの質問に答えていく。少なくとも周囲五十キロの範囲にはいなかったから大丈夫だろう。
「本当にメタルドラゴンサーペントだったのか? 見間違いではないのか!?」
ギャーギャーと喚き散らす大男が非常にうるさい。見間違えるわけねーだろ。
「おい! 聞いているのか!?」
テーブルに両手を叩きつけて立ち上がると、いかつい顔で睨みつけてくる。
「うっせーな。鑑定までしたのに見間違えるわけねーだろ。ギャーギャーと騒ぐしかできないんなら邪魔だから引っ込んでろ役立たず」
「な、なな、なんだと!?」
俺の言葉で大男の額の血管がはちきれんばかりに浮き上がる。その隣にいる偉い人は青い顔をしていて、反対側にいるハオランはいい笑顔だ。いいぞもっと言ってやれとその表情が物語っている気がする。知らんけど俺はそう受け取った。
「鑑定できたならもう確定ネ。冒険者が担当しているエリアは、外壁の常駐要員は減らさずに警戒に当たるネ。あとはAランク冒険者を招集するネ」
「タイラン! 貴様!」
言葉を横から差し込んできたギルドマスターへと大男の意識が向く。
「何か問題でもあるネ? 第一区画は我々の担当ネ」
すまし顔で答えるギルドマスターに、大男が顔を真っ赤にして拳を握りこんでいる。今にも飛び掛かってきそうな様子だが、一応弁えてはいるようだ。
にしてもAランク冒険者で対処するってことなのかな。死人が出なけりゃいいけど。
「ぐぬぬぬ……! こちらからも人を出す! 共同戦線だ!」
ぐぬぬぬなんて実際に声に出す奴見たの初めてだとか思っていたら、ギルドマスターを指さしながら大男が宣言する。
「「「は?」」」
それに反応したのはギルドマスターと両端にいた男たちの三人だ。
「お、お待ちください閣下! 我々に冒険者どもと連携を取れというのですか!?」
さっきまで青い顔をしていた男が叫びと同時に立ち上がる。反対側のハオランは額に手を当てて大きくため息をついている。連携を取るのが難しいから東西の陣地で分かれてたと思ったんだが、このオッサンは何考えてるんだろうか。
「そうネ。対魔物経験の浅い軍人なんて足手まといネ。ましてや巨大な相手となれば猶更ネ」
「なんだ、ただ偉そうにしてるだけの役立たずと思ったら足引っ張る無能か? ますます質が悪ぃな」
ギルドマスターの言葉を聞いて、思わず浮かんだことがそのまま口から言葉となって出てしまう。
「貴様ぁ! 黙って聞いていればさっきから儂を侮辱しおって!」
テーブルの向こう側から大股でこちらに歩いてくると、腕を伸ばして胸ぐらを掴もうとしてくる。空間遮断結界を張ると、伸びてきた手が何かにぶつかって止まる。回り込んで手を伸ばしてきてもまた結界にぶつかって途中で止まる。と三度繰り返したところで大男がキレた。
「ぬがあぁぁ!!」
拳を握りこむと、腕を振りかぶって右ストレートを放ってきた。もちろん結界で防ぐので俺には届かないが、思ったよりも派手な衝撃がテント内に広がる。
「へぇ」
ちょっとだけ感心しながら大男を見上げると、ふんと鼻で笑ってやる。
「とりあえず俺の仕事は一旦終わりかな? 無理そうなら手伝いますし、そのときは連絡よろしくお願いします」
「ああ、わかったネ」
ギルドマスターにそう告げると回れ右をして帰路に着く。もちろん大男がこっちに来られないように空間遮断結界を張りながらだ。
「くっ、この、待てと言って……、なぜ通れんのだ!? くそっ! どうなってるんだ!? おい! 貴様! 待たんか! 生きてこの国から出られると思うなよ!」
後ろが騒がしいが知ったことではない。捨て台詞を聞き流しつつテントの外へ出ると、大男の声もほぼ聞こえなくなる。代わりに大きくなった雨音に心地よさを感じながら、家へと足を向けた。




