第350話 不正と新たな敵
「ご主人さま」
あれから数日たったころ、リビングで寛いでいる俺たちの前に、エルが真面目な顔をして監視ルームから姿を現した。監視に放った虫TYPEは問題なく機能しているようで安心していたが、何かあったのか。
「魔の森に派遣しているたいぷしりーずですが、ある地域だけ損耗率が高くなっているようです」
「へぇ?」
「あら、魔物が増えたってことかしら?」
ダンジョンのTYPEシリーズを退けるとはなかなかやるようだ。
刀の手入れしていた手を止めた莉緒も話に入ってくる。
「なんだ、順調に間引けてるんじゃなかったのか」
今日は休みらしいイヴァンも筋トレの手を止めてリビングの椅子に腰かけた。フォニアとニルはソファで一緒に丸くなって昼寝をしている。めちゃかわいい。
天気は生憎と雨が降っていてよろしくない。魔物もあれから増える速度が落ちてきているので、防壁に常駐するメンバーを減らす会議が開かれているとのこと。
スタンピードが収束傾向にあると思ったが、そうでもない可能性のあるニュースが飛び込んできたわけだ。
「間引きは今でも順調だと考えています。ただ、魔の森の西側奥地に見慣れない個体を確認しています」
「見慣れない個体?」
「はい。こちらをご覧ください」
手に持っていたタブレットをテーブルに置いて素早く操作する。流れるような手つきは、メニューのどこを選択したのかすらわからないくらいスムーズだ。
「ほぅほぅ」
「大きいわね」
「げっ」
みんなでタブレットを覗き込み、流れる映像を見たときの反応は皆それぞれだ。
見た限りでは巨大な蛇だろうか。ちらほらと見える他の魔物を蹴散らしながら進んでいる。
「この速度だと、魔の森浅瀬にはあと数日で到達するかと」
「うーん、こりゃ様子を見に行かないとダメかな。勝手に始末してもいいけど、スタンピードの原因な可能性もゼロじゃなさそう……」
「そういう面倒なのはギルドマスターにぶん投げればいいんじゃない?」
「そうだな。んじゃとりあえず連絡だけしに行くか」
「畏まりました。あと王都方面ですが、メサリアから追加で虫たいぷが大量に欲しいと要望が届いています」
「虫TYPE?」
「はい。何やら不正の証拠を掴みたいとか」
「ぶふっ」
エルの言葉に噴き出したのはイヴァンだ。
「不正って……、ただ見張ってるだけじゃなかったのか?」
「見張ってるとコソコソと隠れて移動する場面が何度かあったんで、何をしてるか探ったそうだよ」
「そうそう。普通に悪い噂も聞こえてきたっていうし」
「はは、権力者あるあるじゃねーか……」
莉緒が補足してくれるが、イヴァンは若干引いてるようだ。でもまぁ確かにあるあるだよなぁ。ついでだし、いろいろと証拠を揃えてお話合いといきますか。
「とりあえず虫TYPEは了解だ。何体くらいいる?」
「20体ほどと聞いています」
「わかった」
新たに虫TYPEに出撃命令を下すと次元の穴を開けて目の前へと召喚する。
「それじゃ私が王都にいるメサリアさんに届けてこようか」
「おう、んじゃ俺はギルドマスターんとこ行ってくるかなあ」
「了解。まぁ何もないと思うけど、二人とも気を付けて」
「ああ、行ってくる」
「行ってきます」
こうして今日はイヴァンに見送られて、莉緒と二手に分かれることになった。
外に出ると相変わらず雨が降っている。さすがに時期も相まって人通りはほとんどないが、それはそれで歩きやすくていい。結界を頭上へ傘状に広げると北へと駆け足で進んでいく。濡れていない俺を見てギョッとする門番に街の外へと通してもらうと、一気に外壁手前の本陣まで駆け出した。
「ギルドマスターはいるか?」
もう顔パスで入れるようになっているテントへと顔を出す。
「ん? あ、えっと、ギルドマスターなら軍本部との打ち合わせに出かけてます」
そこにはギルドマスターはおらず、ギルド職員と思われる人物が教えてくれた。他に本陣にいたのはまだら模様の髪が特徴のリキョウと、他のメンバーは同じパーティの冒険者だろうか。
「シュウさんか。何かあったのか?」
「ああ、ちょっと奥地ででっかい蛇を見かけてね」
「蛇?」
ギルド職員も一緒になって顔を見合わせる。ここらじゃ見ない魔物なのかな?
「ちょっと様子を見てくると伝えたかったんだけど、いないなら軍の本陣に寄ってから行くよ」
「あ、ああ、わかった」
別れを告げるとすぐさま軍の本陣へと向かっていく。軍本部へはここから東へまっすぐだ。冒険者ギルドの本陣より立派なテントを見つけると、入り口を守っている軍人の制止を無視して中へ入る。
「ギルドマスターは……、いるな」
「何事だ!」
中を見回してギルドマスターがいることを確認すると、中で一番偉そうにしているいかつい顔の大男から声が上がる。中には魔物に先制攻撃を仕掛けた際に軍人エリアで会った偉い人もいた。確かハオランって言ったっけか。
「Sランク冒険者のシュウだ。時間がないので手短に伝える。第一区画の奥地に巨大な蛇の姿を見かけたので、これから調査に向かう」
「な、なんだと!?」
「第一区画であれば我々の担当区画ですネ。シュウ君、お願いできるかネ?」
「わかりました。では行ってきます」
「あ、おい、待たんか!」
背後から叫び声が聞こえてくるが無視だ。一応俺たちの上司であるギルドマスターの許可は得たので問題ない。
というわけで、面倒な奴らの相手はギルドマスターに任せて現場へと向かった。




