第349話 もう一つの監視場所
「イヴァン兄! おかえり!」
翌朝起きるとイヴァンが帰ってきており、フォニアが尻尾を激しく振って喜んでいた。夜中に帰ってきたことは知ってるけど、フォニアはもう寝ていたので朝から興奮気味だ。
「ああ、ただいま」
フォニアの頭をぐりぐりと撫でながら大きなあくびを漏らしている。そんなに眠いならもうちょっと寝ててもいいと思うんだが、もしかして朝から出勤なのだろうか。
「現場はどんな感じ?」
Dランク冒険者としてスタンピードに参加しているイヴァンに尋ねてみる。前線はちょくちょく見るが、正直俺たちには後方で何をやっているのか具体的なところは見えてこない。
「うーん、まぁすげぇ慌ただしいかな。収納カバン持ってるのバレてるから、あちこちに物資補給に走らされてるよ」
「あー、そういう感じなのか」
「俺も前線で戦いてぇ」
不満そうにするイヴァンにはご愁傷様としか言えない。口にはしないが。
「おはようございます。朝食の用意ができていますのでどうぞ」
そろそろ朝飯の用意でもするかと思っていたところで、エルがキッチンから朝食の乗ったワゴンを押して出てきた。
「お、用意してくれてたんだ。サンキュー」
「いえ、スタンピードの監視体制も出来上がって、ある程度自動でやってくれるようになったので」
「へぇ、そりゃすごい」
すまし顔で答えるエルだが、変にキリッとした顔が内心でドヤ顔しているように見えて面白い。
「じゃあそろそろ、王都方面の偵察も鳥TYPEに始めてもらおうかなぁ」
次に進めたいのは、俺たちを犯罪者に仕立て上げた主要人物の偵察だ。OHANASHIしに行くのに、いろいろと情報は先取りしておきたい。
「かしこまりました。主要ターゲットとなる人物の普段の宿と行動範囲はすでに把握済みですので、後ですまほにでーたを送っておきます」
「え?」
日本にいたときによく聞いた言葉を、言いなれない人物から聞いた違和感に思わず振り返る。
「鳥たいぷでの偵察ができるようになれば、りあるたいむでの監視も可能かと」
「えーっと、あー、うん、そうだね。……それでよろしくお願いします」
エルの進化っぷりについていけずに思わず敬語になってしまった。
「みんなおはよー。……ってどうしたの?」
起きてきた莉緒に怪訝な表情を向けられる。
「いや、なんでもない。エルのパソコン使いこなしに驚いてただけだ」
「あー、うん、確かにすごいよね。私もそこまで使いこなせないし……」
一緒に遠い目をする莉緒に、エルも我慢しきれなかったのかドヤ顔が表情に出る。が、その様子にとうとう俺も我慢しきれなくなって笑ってしまった。
昼前に第一外壁手前の本陣へ顔を出したが、まだ余裕があるとのことで王都近くへと次元の穴を開けてやってきた。
今回ターゲットとなる相手は我らが情報ギルド「ヒノマル」が調査済みである。メサリアさんにも日本で売られているスマホやローカライズしたパソコンをいくつか提供していたが、やっぱりエル同様に使いこなすのは早かった。
調べ上げた人物は次の通りだ。
俺を審議機関へと申請した、ベイファン・ローイング男爵。
審議内容を調査して黒と判決を下した審議官長官、ダレーディモ・トーガビート伯爵。
調査内容と結果が問題ないか、第三者としての判定を下す国の宰相、ザイニーン・ムシリトーレ侯爵。
そして俺たちの前に派遣されてきた審議官、ウェズリー・グラブス子爵の計四人だ。
エルから教えてもらって知ったのだが、虫TYPEでも対象の監視が行えるとのこと。小さくて見つかりにくいため間近で監視可能だが、追跡能力が低いため逃げようと思えば簡単に振り切れてしまうらしい。しかし鳥TYPEでの遠方からの監視と連携すれば、再追跡が容易になるとのことだ。
今回は一人に付き鳥TYPEを一体、虫TYPEを二体つけることにする。
「よし、お前たち、行くぞ」
ダンジョンに繋げた次元の穴から、TYPEシリーズをそれぞれ呼び出していく。鳥TYPEは上空を空高く飛び、虫TYPEは俺の服の内側へと潜り込む。対象の人物はヒノマルが割り出してくれたが、TYPEシリーズへそれを覚えこませるには、直接視認できるところから対象を指定する必要があるのだ。
念のため変装して隠密系スキルをフル稼働させると、王都の城壁を乗り越えて中へと侵入する。エルから受け取ったターゲットの隠し撮り写真を確認する。伯爵と侯爵は会ったこともないが、これがあれば片っ端から鑑定をしなくても大丈夫だ。
男爵は王都にある自分の屋敷に滞在しているとのことでさっそく向かう。貴族街のはずれにある小ぢんまりとした屋敷だ。気配察知も駆使してサクッと指定完了だ。審議官長官と審議官は、普段は審議官邸で仕事中とのことでこちらも簡単に終わった。
そして最後の宰相となれば、もちろん職場は王城となる。さすがに城内ともなれば情報は少ないが、謁見の間の写真があったことには驚いた。よく入り込めたとは思うが、はてさて、宰相の侯爵閣下は今どこにいるだろうか。
とはいえ、残り二体となった虫TYPEも動員して探せばすぐに見つかった。会議室で会議中のようだったが問答無用だ。テレポートで会議室の隅へと転移すると鑑定でしっかりと名前を確認し、監視対象として指定すればミッションコンプリートだ。
「初めてスパイみたいな活動したけど、思ったより簡単だったな……」




