第346話 先生お願いします!
あれから数日、散発的な魔物の群れの襲撃も日に数回を数えるようになり、魔の森浅瀬付近にも魔物が集まりだしてきた頃。
「そろそろ本格的に出撃させるか」
魔物の集まり具合によって決めていた、TYPEシリーズ出撃のころ合いとなった。今まではテスト的に一、二部隊で魔の森の魔物を狩るだけだったが、そろそろ本格的に出撃しようと思う。
魔の森に放っている鳥TYPEの監視によると、浅瀬の街に近いエリアにはすでに五万を超える魔物が集まっているとのこと。今も奥から続々と集まっていて途切れる様子を見せない。
第二外壁と呼ばれるようになった俺たちが作った壁の向こう側には、すでに無数の魔物の死体が転がっていて、スタンピードの様子が垣間見えるようになってきた。
これ以上集まってきても長引きそうなので、そろそろこっそりと間引き始めようという作戦だ。まずは十部隊から始めてみようかと思う。
心の中で出撃を命じると、TYPEシリーズたちが動き出す。魔の森の奥地三か所にダンジョンの入り口を作って、魔物の群れの背後や側面を突いて、主に合流してくる魔物を対処してもらう。
「これで早く終わればいいわねぇ」
ここはダンジョン入り口を設置した魔の森の奥地である。三か所設置したうちの真ん中からは、四組の部隊が出撃していく。その様子を眺めながら莉緒が大きくため息をついている。
「だなぁ。こっちをさっさと終わらせて、王都の審議官まわりの人間とおハナシ合いをしないとな」
今後もあるかどうかわからないが、度々ちょっかいを出されるのは面倒だ。根元から断っておかないといけない。
出撃が終われば次の入り口に転移して、またTYPEシリーズが出撃していく様を見送る。合計十部隊が出ていったのを確認すると街に戻り、日常になりつつある防衛の作業に着くのであった。
そしてまた数日経過した頃。第一外壁のそこかしこの物見台から激しく鐘が鳴らされる。
「ほ、本襲撃が始まったぞー!!」
その声に魔の森へ視線を向ければ、森の木々の間から何かが染み出すようにじわじわと黒いものが広がっていくのが見える。森の一部とかではなくほぼ全体から染み出しており、それが東西両方の地平線の向こうまで続いている。十個に区切った区画を越えて魔物が現れたので、こちらの防御陣営も慌てているようだ。
「全員退却!」
いつもと違う鐘の音に、第二外壁の向こう側で魔物を抑えていた冒険者や軍隊が後退していく。本襲撃への先制攻撃は俺たちに任されているので、退却する対象は前線に出ている全ての人員だ。
今まで俺たちも出撃しなかったわけではないが、この日のために練習した広範囲魔法を魔物の群れにぶつける本番がやってきたわけだ。
「シュウさん、リオさん、お願いします!」
「お願いするアル」
伝令にやってきたのはDランクのパーティ国士無双だ。Dランクは魔の森に入っていける最低ランクなので、スタンピード発生時は最前線には出ない。なのでこうして主に後方支援を行っている。
「はいよ」
「任せておきなさい」
ひらひらと手を振って応えてから莉緒を見れば、気合十分と鼻息を荒くしていた。今回ばかりは莉緒に頼るところもあるので張り切ってるみたいだ。
「じゃ、行ってくる」
期待の視線を浴びながら莉緒と二人で配置に着く。冒険者たちが守る第二外壁の四区画目の上に莉緒が、そして俺は国の軍が守る八区画目へと向かう。外壁の上は狭いので一度降りてから向かうが、東側の軍人エリアに入ると厳しい視線を向けてくる奴らが増える。
これも審議官のせいかと思いながらも、気にせずに指定された八区画目の階段を上ると壁の上に出た。
「あなたがSランク冒険者のシュウか?」
周囲の兵よりも幾分か立派な鎧を着こんだ初老の男が前に出てくる。このあたり一帯を任されている上官だろうか。
「ああ、一発ぶちかましに来た」
「そうであるか……。失礼。ワシはこの第八から第十区画をまかされておるハオラン・オーグベイだ。こんな状況にもかかわらず助力をいただき感謝する」
軽く頭を下げると大きなため息をひとつ漏らし、後頭部をポリポリと掻いている。どうやらこの人は常識人のようだ。いちいち突っかかってくる人間ばかりじゃないのは助かる。
「うちの部隊にもバカはいるものでね……。できるだけ派手に頼む」
「了解」
苦笑いを浮かべる上官らしき人物の横を通り抜けるとひらひらと手を振り返す。
それじゃあ期待に応えてさっそく派手にぶちかましてやるとしますか。
『こっちは位置に着いたぞ』
『わかったわ。じゃあさっそく始めましょうか』
『おう。派手にやってくれって頼まれたからな。魔法をできるだけ派手に展開して敵を引き付けてからぶちかまそう』
『ふふ、そうなのね。じゃあ派手にいきますか』
壁の上から前方を見据えると、森から進出してきた魔物が緩やかな斜面を侵食するように近づいてきている。
その様子を眺めながら静かに魔力を展開すると、周囲にどんどんと広げていく。広げた魔力を魔法として具現化し、自身の背後に広がるように発射せずに待機させておく。
周囲から息をのむ声がするが、かまわずに広げていく。派手にということだから、多少は爆裂系の魔法も混ぜておくことにした。多少射程は短くなるけど、届かなかった部分には個別で対応すれば問題ないだろう。
『そろそろいいかな』
魔物たちが第二外壁まであと一キロメートルの地点を越えたあたりで莉緒に声をかける。
『ええ、こちらも準備OKよ』
『よし。んじゃいきますか。――発射!』
こうして溜めに溜めた魔法が、次々と目の前の魔物たちへと殺到していった。




