第322話 ダンジョンの難易度
あれから五メートルほど下ったところで階段が終わり、他の罠に遭遇することもなく一階層目へと無事に到着した。どうやら最初の落とし穴は階層をまたぐような罠ではないらしい。そこまで鬼畜ではなかったことに安堵しつつも周囲を注意深く観察する。
見た目はダンジョンの外の階段と変わらないが、空気がひんやりとしている。壁や地面は平らに均されていて人工物のようなつくりだ。明かりはまったくないので莉緒が照明の魔法をあちこちに飛ばして視界を確保している。
魔の森の調査や前回ダンジョンに潜っていたときと同様に、今いる階層のスキャンを実行する。適度に魔物も引っかかるが、近くにも数匹いるようだ。
それにしても結構広い階層のようで、端までスキャンしきれなかった。しかも一階層目ではあるが通路は上り下りもしているようでアリの巣状に入り組んでいる。
「あら」
莉緒が反応するが、どうやら視界の向こう側にまで飛ばしていた照明が何者かに消されたらしい。魔力反応が消えたところと魔物の位置が同じだったので、間違いなく魔物の仕業だろうが。
「ぐるるる」
ニルも気が付いたようで唸り声をあげている。
「なんだ、魔物でも来るのか」
「そうみたいだな。なかなか強そうだから俺が出る。そこで待っててくれ」
さすが魔の森のダンジョンといったところだろうか。浅瀬の魔物ならイヴァンでも余裕だから大丈夫だと思っていたが、ちょっと認識を改める必要がありそうだ。
気合を入れていたフォニアも残念そうにしているが、危ないので諦めてくれ。
地面や壁、天井などの周囲を念入りに各種魔法とスキルで調査しながらゆっくりと歩いていく。しばらく一本道を歩き、五十メートルほど先にある十字路までたどり着いた。ここまで罠はなかったが、そろそろ近づいてくる魔物が右側の通路からやってきそうだ。他の通路からは何かがやってくる気配は感じられない。
「来たか」
やがて通路の奥から姿を現したのは四足歩行をした魔物の影だ。所々が鋭角なシルエットになっているが、よく見れば体は金属で構成されたロボットみたいだった。
腰を落として両手に嵌めたガントレットを構える。鑑定してみると名前は「TYPE0135」というらしい。よくわからない名前だけど問題はそこじゃない。ステータスの俊敏が二万近くもある。ダンジョン一階層の魔物のくせにちょっと強すぎないか?
などと心の中で悪態をついていたら、こちらを認識した相手の目が光った。そしてその姿が掻き消えるような勢いでこちらに向かってくる。
結構速いけど、魔法で強化したニルほどじゃないかな。
同時に撃ってきた風魔法を左手で払うと、噛みついて来ようと迫ってくる相手の顔を横から右手で殴りつける。金属の頭がひしゃげるが、突っ込んできた勢いはそのまま慣性に従って衰えることはない。こちらも右拳で殴った勢いを殺さずに体をひねって足で胴体を蹴りつけると十字路の正面方向へと飛んでいった。
飛んでいった先では床と天井と左右の壁から槍が無数に飛び出してきて、金属製の胴体を容赦なく貫くと空中へと縫い留める。
「うわぁ……」
「ちょっ……、このダンジョンやべぇぞ」
後ろで見ていた皆と同様に俺もドン引きだ。通路の先はまだ罠を調べてなかったけど、一階層に入った直後にこんな即死級の罠があるとは。
串刺しにされた魔物の活動停止を鑑定で確認すると、まだ何者も通り抜けていない左側の通路に視線を向ける。罠がないかと目を凝らしてみるがそうそうすぐにわかるものでもない。空間魔法で詳しく調べていくと、一部の床が薄くなっていてその下に空間があることがわかった。
「穴の底は剣山かよ……」
大きくため息をついていると、他のメンバーが恐る恐る十字路へと近づいてきた。
「……一体何があったんだ? シュウが何かやってるように見えたけど、いきなり通路の向こう側で罠が発動したかと思ったら、敵が串刺しになってるし」
イヴァンが奥を指さしているが、どうやら襲ってきた敵との攻防は速すぎて見えていなかったらしい。ステータス差を考えるとそれも当然か。
「あー、うん……、マジか……」
詳しく教えてやると歯切れ悪くしばらく考え込んでいたが、どうやら結論が出たようだ。
「ちょっと俺には難易度高すぎみたいだから帰りてぇ」
「うん……、ボクも……」
呆然としていたフォニアも耳がぺたりと倒れている。
「そうだなぁ……。俺もちょっと、守りながら攻略できるのかわからん」
地竜とか特殊なやつを除いて、今まで魔の森で戦ってきたどの魔物より強かった気がする。それがダンジョンの一階層で出るとか、この先もイヴァンやフォニアを連れていける気がしない。……もちろんニルもだ。
「そうね……。私は見えたけど、ここの魔物の強さがよくわからないから不安ね……」
「わふわふ!」
ニル自身はやる気を出しているけど、ステータスだけならさっきのやつはニルといい勝負をしそうだ。それに最初に出会った魔物だけが強くて、他の魔物は弱いなんてこともないだろう。
「ちょっと出直すか」
ポツリとつぶやいた俺の言葉に反対するメンバーは、誰一人としていなかった。




