第317話 調査開始
俺たちへの依頼は、Sランクへの指名依頼として表に出ることなく密かに行われた。日に日に増える魔物増加傾向の話には、ギルドとしてはただ「調査中」と答えるようにしているらしい。ちなみに報酬は前金で一千万フロン、調査完了時に千五百万フロンが支払われるそうな。
「こっちこっち」
ギルドの執務室から出てきた俺たちに手を振るのは、テーブルに大人しく座っていたフォニアだ。
「どうだった?」
「向かいながら話そうか」
「それもそうだな」
イヴァンが興味深そうにしているけど、一応こっそりと受けた依頼だ。ギルド内で話をすることではないので、そのままみんなで魔の森に向かうことにする。
「イヴァンは何かいい依頼あった?」
歩きながら莉緒が尋ねるが、イヴァンは腕を組んで悩ましげだ。とりあえずDランクの依頼をいくつか受けたけど、そこまで吟味はしていないらしい。
「浅瀬で会える魔物みたいだから、適当にぶらつくさ。それよりもそっちはどうだったんだ?」
「はは、ギルドマスターから極秘に指名依頼をもらったよ」
「へえ?」
片眉を上げるイヴァンに、魔の森へと向かいながら受けた依頼の内容をざっくりと説明する。
「え? ってかそんな状況で俺は森に入っていいわけ?」
「さぁ? 浅瀬は問題ないって話だし。まぁ大丈夫だろ」
「スマホで連絡くれればすぐに迎えに行くから」
「あぁ……、まぁ、そうなんだろうけど……」
いまいち不安がぬぐえない様子を見せるが、正直イヴァンの実力なら問題ないと思っている。浅瀬の魔物は一通り確認したけど、実力のある魔物はいなかったからな。
「大丈夫大丈夫」
「だといいんだけど……」
同ランクの冒険者と比べてもイヴァンはかなり実力があるんだが、本人にその自覚はあんまりないようだ。油断することはないことを思えば悪いことじゃないけども。
街の北門を抜ければすぐに森が視界に入ってくる。なんだかんだ緊張を見せていたイヴァンだったが、いきなり強い魔物が出るわけでもないので森へと着くころには落ち着きを見せていた。
「よし、じゃあ行くか。シュウたちは奥で調査するんだろ?」
「そうだな。空から行こうと思ってるけど……。フォニアとニルはどうする? 調べるだけだからついてきてもあんまり面白くないかもしれないけど」
「うーん。じゃあボクはイヴァン兄と一緒にいく」
「わふわふ」
「あいよ」
「ふふ、じゃあフォニアちゃんをよろしくね」
「おう、任せとけ」
「いってきまーす!」
こうして幾分かリラックスしたイヴァンは、ニルの背中に乗ったフォニアを連れて魔の森の中へと足を踏み入れていった。
「じゃあ俺たちも行くか」
頷く莉緒と共に空へと浮かび上がると、一直線に森の奥を目指していく。今回の調査は魔物の分布を調べるだけだ。なので地図スキルと察知系スキルに鑑定スキルを全力で使ってさっさと終わらせようと思う。といっても魔の森は広大なのでどれだけ時間がかかるかわからないけど。むしろそうでもしないと調査だけで何か月かかることか。
念のため森の浅瀬も調査をしながらゆっくりと進んでいく。五分も続けていれば少しずつ空を行きながらの調査にも慣れてくる。マップを見れば察知スキルで発見した魔物が赤い点としてまばらに記録されているのが見える。やっぱり浅瀬だとこんなもんなんだろうか。
地形も緩やかな登りから、ごつごつとした高低差のある岩肌が見えるようになっており、時折尖塔のようにとがった山も視界に入るようになってくる。
「そろそろ浅瀬も終わりかしら」
少しスピードを上げて一時間ほど進んだだろうか。森から感じられる魔力というか圧力が増したあたりで莉緒から声がかかる。
「かなぁ?」
森に生える木々もだんだんと高くなっており、なんとなく浅瀬とは異なる雰囲気は感じるけど、明確に浅瀬はここまでといった目印があるわけでもない。
などと考えていると危険察知スキルが微妙に反応する。あんまり薄い反応なので気のせいかと思っていると、地上から何かが飛んできた。
「へぇ」
俺たちを捉えられずにあさっての方向へ飛んで行ったが、間違いなく地上にいる魔物からの攻撃だ。
「生息する魔物も変わったみたいね」
「だなぁ。ちょっと見に行ってみるか」
「そうね。ちゃんとお礼はしてあげないと」
二人で頷き合いながら少し引き返すと地上へと降りていく。
と、地上にいる魔物がこちらを振り返ったかと思うと立て続けに魔法を放ってきた。余裕で防ぐが、鬱陶しくなったので相手を空間遮断結界で囲む。結界の中で暴れるがそんなことでびくともするはずもなく、俺たちはじっくりと魔物を観察だ。
「あ、これってギルドの依頼にあったBランクの依頼のロックドラゴンじゃ」
ドラゴンと名前はついているが、見た目は四足歩行のトカゲだ。頭から尻尾までは三メートルくらいあり、背中にごつごつとした岩のような皮膚があって硬そうだ。とりあえず暴れて観察しづらいので静かになってもらおう。
結界を解除すると一足飛びでロックドラゴンに近づき、浸透術スキルを用いて頭部に一撃を入れる。内部への衝撃で脳を破壊されたロックドラゴンは、それっきり動かなくなった。
「こいつは今までで見たことないな」
「そうね。食べられるのかしら」
鑑定をしてみるも、特に毒持ちというわけでもなさそうだ。
「食えないわけじゃなさそうだな」
「じゃあ試してみましょうか」
「おう、そうしよう」
こうして魔の森の中層にて初めて遭遇した魔物にワクワクしつつ、調査を続けるのだった。




