第315話 鞄の真価
通信会社のCMといえば、犬がお母さん役をやっているCMを思い出した。その話を仁平さんにすると思ったより食いついてきたので詳しく話をする。
「なるほど、家族というのはいいかもしれんの」
「うん! イヴァン兄と、お兄ちゃんとお姉ちゃん。ニルは……おとうと?」
フォニアが嬉しそうに見回すと、ここにいないニルを思い浮かべて首をかしげている。ニルが何歳なのかは知らないけど、確かに弟でもいいかもしれない。
最後にエルに視線を向けるとフォニアがうむむと考え込んでいる。
「エルは侍女のままでいいんじゃないか?」
「フォニア専属の侍女ね」
「適当な名前の国のお金持ち設定にしてしまえば、知らない言葉をしゃべってても違和感はないかもな」
「ふふ、いっそのこと王女様とかにしちゃえばどうかしら」
「いいね。フォニア王女殿下か」
「ぶはははは!」
莉緒と二人で盛り上がっていると、王女殿下の言葉が出た瞬間にイヴァンの大笑いが響いた。当の本人はよく意味が分かっていないようで首をかしげている。
「うむうむ。その設定も悪くない。ぜひ参考にさせてもらおう」
仁平さんも思ったより乗り気だ。
「詳細が決まったらまた連絡しよう」
「はい、わかりました」
こうして次回はニルも連れてくることを約束すると、俺たちはDORAGON社を後にして物資の補充をするとマンションへと帰ってきた。
あとこっちでやらないといけないのは、収納カバンの実験だ。
異空間ボックスから鞄を取り出すと、テーブルの上に三つほど並べる。あっちで売っていた丈夫な鞄である。ひとつは何の変哲もない鞄、もう一つが収納が付与されたが取り出せない鞄、最後の一つがきちんと取り出せるようにもなった鞄だ。
あのあときちんと取り出せる収納カバンも作れるようになったが、いかんせん鞄の口までのサイズしか出し入れができないことには変わりがない。だがしかし、そんなことよりも重要なことに気が付いたので、こうして日本で実験をすることにしたのだ。
「異空間ボックスからは普通に取り出せるんだよなぁ」
「そうね。でも確かに……、出し入れするときに無意識にだけど、次元魔法も使ってる気がするわね」
「やっぱりか。……ということは」
ちらりと取り出しもできる鞄を見やると、さっそくイヴァンがそこらへんに落ちていたクッションを鞄に放り込む。口を閉めても鞄は膨らんだままで、中にクッションが入っているのがありありとわかった。
「シュウの予想したとおりだな」
そうなのだ。
異空間ボックスというのは、あらかじめ作成しておいた異空間に後からアクセスする魔法である。異世界で作った異空間に、日本からそもそもアクセスができるのかという疑問に至った俺は、こっちでさっそく実験をしてみることにしたわけだ。
結果はさっきの通りだ。作った異空間にアクセスできるように向こうで付与を行ったけど、日本に来てからはアクセスができなかった。空間魔法だけでは次元は超えられないということか。
もともとの異空間ボックス自体は何の違和感もなく日本で使えていたんだが、きっと無意識に次元属性をつけて異空間ボックスを使用していたんだろう。
「うん。これも柊が予想した通りね」
異空間ボックスを使いながら調べていた莉緒が頷きながら納得している。
それともう一つ分かったことがある。鞄からアクセスできるようにした異空間は、俺が作った異空間だということだ。つまり俺が作った収納カバンの中身は、鞄の口を経由せずとも俺は自由に中身を取り出せるということだ。
離れた地にいるイヴァンと物のやりとりができるのは便利かもしれない。いや、それよりも。
「んじゃさっそく試してみますか」
次元属性も意識しながら異空間へのアクセスと、中身を把握して取り出す空間魔法を鞄へと付与する。次元魔法と空間魔法の付与はスマホを作ったときにやっているので慣れている。特に失敗することもなく鞄への付与が完了した。
「できた」
「おう」
そのままイヴァンに手渡すと、さっきと同じようにクッションを突っ込んでいる。口を閉じて鞄をへこませると、中に何も入っていないくらいに平らになった。
「成功だな」
「いやいや、一応取り出せるかちゃんと確認しないと」
「大丈夫だろ」
そう言いながらもイヴァンが鞄の口を開けて手を突っ込むと、問題なくクッションが取り出された。
それでドヤ顔されてもイラっとくるだけなので、無言でクッションを受け取りつつ自分で開いた異空間ボックスに収納する。
「もっかい取り出してみて」
「了解」
異空間ボックスに収納したクッションが鞄から取り出されるのを見てひとつ頷く。
「あとは向こうで収納したやつが、こっちで取り出せるかだな」
「仁平さんに協力してもらう?」
「あー、うん、そうだなぁ」
忙しそうな仁平さんだけど、あっちとこっちで物資のやり取りができるようになったとなれば、この鞄を渡す相手は柳原一家だろう。
「そうしようか」
「しっかしすげぇな……。世界をまたいで物のやり取りができるんだろ? ……この鞄に入れば人も通れそうだよな」
腕を組みながらしみじみと呟いたイヴァンの言葉に、思わず莉緒と顔を見合わせる。異空間ボックスに生物を入れたことはないけど、たぶん入れたら死んでしまうんじゃなかろうか。
「まぁそうなんだけどな。消費魔力が多すぎるからそこだけが難点だよなぁ」
「……でも同じ世界同士をつなぐ扉ならできそうじゃない?」
「うーん。ちょっと考えてみるか」
世界間に小さい穴を開けて、スマホの電波だけ届くようにもできたのだ。作ったスマホだって次元魔法が応用されているし、できなくはない気がしてきた。
そのうちどこで○ドアを作ってやるかと決意を新たにするのであった。




