第312話 収納カバン
一次査定を終えるとギルド内の空いているテーブルの席に着く。そのうちイヴァンも戻ってくるだろうし、ここで待つことにした。
「ここのギルドは広いねぇ」
フォニアがきょろきょろと周囲に顔を向ける。
「さすが最前線って感じなんだろうな」
異空間ボックスからポテチを取り出すと、みんなでつまみやすいように袋を全部開く。こっちの世界にプラスチックなんて存在しないが、ゴミ箱用異空間ボックスに突っ込んでおけば何も問題はない。
フォニアの前にはパックジュースを置くと、嬉しそうにストローを挿して一口飲む。
「ヨーグルトおいしい」
初めて飲んだ時は真ん中を掴んでストローから噴水させたが、今では慣れたものだ。最近フォニアがハマっているのはヨーグルト飲料だ。
椅子に座るとテーブルからはフォニアの顔しか見えない。椅子の上に立ち上がるとポテチに手を伸ばしてサクサクと音を立てて食べる。
さて、今のうちに一つだけ要件を済ませておこう。
『エル、ちょっと聞きたいことがあるんだけど』
『んん? どうした?』
念話で話しかければ普通の口調で返ってくる。今は侍女モードではないらしい。
『収納カバンが欲しいんだけど、すぐに手配できる?』
『そうだなぁ……、組織で保有してるものはあるだろうけど、さすがに未使用のものはないと思う』
エルの言葉に思わず苦笑が漏れる。今現在使ってるものを取り上げようとまで思ってるわけじゃない。
『使ってるのはそのままでいい。新しく手に入らないかなって思って』
イヴァンの現状を伝えるけど、フォニア用も持っていて損はない。今すぐ手に入る容量の大きいものを条件に探してもらうことにした。
『承知いたしました。すぐに連絡を入れるのでしばらくお待ちください』
最後は侍女モードになったエルからの言葉で通信が切れた。
あとはみんなで探してくれるだろうし結果を待つだけだ。自分でも作ってみようとは思ってるけど、うまくいくかどうかわからないしね。
一仕事終えた気分に浸りながらポテチへと手を伸ばす。うん、やっぱり美味い。
ポテチは以前フルールさんに作り方を提供しているので、商業国家以外でも最近は見かけることも増えてきた。この街にもあるかどうかはわからないけど、知ってる人は知ってると思うのでそう珍しくもないと思う。芋を薄くスライスして揚げるだけだしね。
テーブルの上にミニ三脚で固定したスマホでフォニアを撮影していると、ポテチを食べ終わったフォニアがカメラに向かって手を振っている。見えないようにテーブルの下に隠れたりするけど、耳が隠れ切っていなくてピコピコと動いている。
「あ、イヴァン兄!」
それからしばらくして。ギルドに帰ってきたイヴァンを見つけたフォニアが椅子から降りると、そのままイヴァンのもとへと走り寄っていく。
肩に六本足の猪もどきをかついでいるが、思ったより余裕そうだ。
フォニアと二人で買取カウンターへとそのまま向かう。しばらくして一次査定が終わったようで、合流するとその日はそのまま拠点へと帰還した。
「おかえりなさいませ」
拠点に帰ると侍女モードのエルに出迎えられる。家に帰って「おかえり」と言ってもらうのは久しぶりかもしれない。フェアリィバレイにある妖精の宿は自宅じゃなかったから除くとして……、いやエルも家族というわけじゃないけど……深くは考えないでおこう。
「ただいま」
玄関からリビングへと近づけばいい匂いが漂ってきた。どうやら夕飯の支度をしてくれているようだが、エルの作る料理も最近では日本の影響を受けまくっていてご飯におかずという形が増えている。
「おなかすいた」
きゅるるると可愛い音を出したフォニアがお腹をさすっている。
「じゃあちょっと早いかもだけど、飯にするか」
「うん!」
夕飯を食べて風呂に入るとまったりとした時間になる。今でこそ野営用ハウスのリビングは、日本のリビングの様相を呈してきたけどテレビだけは存在していない。もちろん何も映らないから置いても意味がないからだが。
「さてと」
暇ができたので異空間ボックスからどこにでもありそうな鞄を取り出す。日本で買ったボディバッグだ。中身が入っていないことを確認すると、動力源となる魔晶石も取り出して準備完了だ。さっそく収納カバンの作成を試してみることにした。
いつも使っている異空間ボックスだが、まずは新しい異空間を作るところから始まる。作った後に、その異空間にアクセスすることで物の出し入れができるようになるのだ。
つまり最初の異空間作成は普通にやって、そこにアクセスするための空間魔法を鞄に付与すればいいということだろう。たぶん。
「とりあえずやってみるか」
最初はお試しだし、そんなに容量は大きくなくていいだろう。小さい領域の異空間を作った後は、異空間へアクセスするための空間魔法を付与するのだ。
「よし」
軽い気持ちで付与を実行したら、軽快な音を立てて鞄が破裂してしまった。
「……」
「なにやってんだ……?」
無言で手元の鞄を見つめていると、イヴァンからの静かなツッコミが入るのだった。




