第309話 仲裁者
冒険者ギルドの入り口で大声を上げた人物は、黄色い髪で頬に傷があり、巨大なハルバードを背負った女だった。どこかで見たことがあると思ったけど、昨日の朝に野営用ハウスを見て騒いでいた冒険者だ。
『なんかめんどくさいのが来たな』
『無視していきたいところだけど、ちょっと無理そうよね……』
入り口に陣取っているので、躱して外に出るのは無理そうだ。それにこっちを標的に定めているのでテレポートを使うくらいしか逃げる手段がない。
ずんずんとまっすぐこっちに向かってくる女に、思わず大きなため息が漏れる。
「もう逃げられんぞ……。さぁ、キリキリと吐いてもらおうか!」
目の前で立ち止まった女が宣言すると、腕を組んで仁王立ちになる。イヴァンより背は低いようだが、それでも俺よりも頭一つ分くらいは背が高い大柄な女だ。
それにしてもいったい何を吐けというんだろうか。
「あの、どちら様でしょうか?」
どっちにしろお互い自己紹介をしていないということで、初対面で通せないか試してみることにした。
「んん!?」
戸惑いながら一歩近づいてくると、腰をかがめて顔をまじまじと眺めてくる。
「……って誤魔化されねぇぞ! 絶対に昨日会ったクソガキだろうが!?」
人差し指を突き付けて叫ばれてしまった。この女のせいで朝の冒険者ギルドですごい目立ってしまっている。
っつーかさっきからクソガキとうるさいなこの人も。
「目の前であんなことされたら忘れるわけねぇだろうが!」
女の発言で周囲がざわつきだす。あんなことってどんなことだという言葉が漏れ聞こえてくる。
それにしても俺なんかしたっけかな? 敢えて言うならば、話を聞かずに無視したくらいだと思うんだけど。
「ヘイヘイ、ちょっと落ち着きなよメイちゃん」
そこに横から割り込んでくる男がいた。黒と赤と橙色のまだら模様の髪をしており、ピアスを両耳に装着している、なんとなくチャラ男を連想させる顔つきをした男だ。
「あんまり怒鳴るとボーイが可哀そうだぜ?」
誰がボーイだ。
「リキョウさん!」
突然割り込んできた男に対して、とりあえず心の中でツッコミだけは入れておく。女がさん付けで呼んでいるあたり、上位ランクの冒険者だろうか。周囲からもリキョウさんだという言葉が聞こえてくるので、そう間違ってはいないだろう。チャラ男のくせになかなか信頼されているようである。
「で、何があったんだウェイくん」
チャラ男は女をなだめつつ、その後ろにいるローブ姿の男へと話を振る。昨日女と一緒にいたあのひょろい男だ。
「あー、うん、南の街道からちょっと離れたところに、でかい屋敷がいきなり現れたんだよね」
「は?」
ウェイくんと呼ばれた男が事の起こりを説明し始めると、リキョウと呼ばれた男が素っ頓狂な声を上げる。そのやりとりにまたもや周囲がざわつき始めるが、その中に自分も見たという声を上げる奴がいた。
「消えた?」
そしてその屋敷が消えたという話になってさらに周囲がざわつく。しばらくしてウェイくんと呼ばれた男の話が終わると、注目されるのはもちろん俺たちだ。
「君たちは何者だ?」
リキョウが真面目な顔で尋ねてくる。そこにチャラ男の雰囲気は一切ない。素に戻ったってやつなのだろうか。
「同業者って説明したと思うんだけどな」
襟の中から冒険者ギルド所属の証であるミスリル製のプレートを取り出す。白い金属のようにも見えるが、見る角度によっては虹色に見えるのがミスリルの特徴だ。
「はは……、なるほどね……」
胸元に掲げた冒険者証に注視するリキョウだったが、その後ろや周りからちらほらと鑑定を使われた感覚が出てくる。さすがに魔の森前の冒険者ギルドだけあって、それなりにレアスキルを使える人物がいるみたいだ。とりあえず鑑定をし返して名前をキッチリと覚えておく。莉緒だけ鑑定した奴もいるかもしれないので、念話でやりとりして漏れなくだ。
「同業者だからなんだってんだよ! ちょっと変わった色の冒険者証だろうが、街道近くに不審な建物なんぞいきなりできたら誰でも警戒すんだよ!」
ミスリル製の冒険者証を認識しているのかどうかわからないが、メイちゃんと呼ばれた女が叫ぶ。予想に反して出てきた言葉は至極まっとうな意見だった。
いつも通る道に見慣れない建物ができてたらそりゃ警戒するだろうが、扉をぶち破ろうと攻撃を加えるのはどうかと思うぞ。
「落ち着けメイちゃん」
今にも飛び掛かってきそうな女の肩をリキョウが抑える。
「ちょっ、放してください!」
「彼はSランク冒険者だ。その彼が移動拠点というのであればそうなんだろう。我々がテントを持ち歩くのと同じ感覚じゃないだろうか」
「は? え? ……Sランク!? え? テント!?」
メイちゃんは混乱してるようだ。確かに俺たちにとってみればテント持ち歩いてるのと変わらない。しかも簡易テントなら材料がなくてもその場で建設可能だ。経済的でいいね。
「なんだ……、メイちゃんはSランクの冒険者証がミスリル製って知らなかったのかい?」
愕然とした表情を浮かべるメイちゃんを置いて、リキョウが肩をすくめている。少しだけチャラ男の雰囲気を取り戻したリキョウが、こちらに向き直って話を続ける。
「メイちゃんが失礼したね。これ以上面倒ごとを起こさないように言っておくよ」
それだけ告げるとメイちゃんの襟首をつかんで引きずりながら踵を返した。




