第308話 仕事を探そう
「まぁこんなもんかな?」
「こんなもんじゃない?」
莉緒と二人そろって満足げに頷くと、録画中だったスマホの停止ボタンをタップする。
あれから夕方くらいまで、張り切って拠点の整備を行っていた。騒音対策に遮音結界を敷地の壁沿いに張ってからボロ屋敷を解体し、野営用ハウスを設置したのだ。そして荒れ放題だった庭も整地して、敷地の門から玄関まで石畳をつなげると、石畳に沿って地面を耕した。あとで花でも植えれば見栄えがしそうだな。
動画に収められたのは、数時間で家が設置されて庭が整備される様子だった。撮った動画を何に使うかは言わずもがなである。
ちなみに敷地の入り口については鍵は開けっ放しだ。南京錠がかけてあった鉄の扉を開くと、その先に鍵付きの扉をもう一つ作っておいたのだ。ちなみにスマホを近づけると解錠されるようにしておいた。特定の魔力に反応するようにしたので、俺と莉緒であれば遠隔でその魔力を発生させて鍵を開けられる。
「今度日本に帰ったときに、人感センサーのLEDライトでも買ってくるか」
石畳の両端に植えた花の向こう側にLEDを突き刺しておくのだ。人が通ると明かりがついてよさげじゃなかろうか。
「それいいわね。庭も整えてライトアップしようかしら。……ちょっと楽しくなってきたかも」
「そうだなぁ。案外どこかに腰を落ち着けるのもいいのかも?」
「そうねぇ」
そうなると家は案外街中でなくてもいい気がするな。次元魔法があればどこでもすぐ行けるし、いろんな街の座標だけ記憶しておけば行き放題だ。……いやでもそうなると俺と莉緒以外の移動が面倒か? 毎回送り迎えするのは面倒だし、こっちの世界でスマホ作ったみたいに、どこでも○アみたいな道具も作れないもんか……。
「おーい、こっちもできたぞー」
将来について考えていると、野営用ハウスの裏手からイヴァンの声が聞こえてきた。フォニアとエルには、裏手で夕飯の準備をしてもらっていたのだ。向かってみれば即席のバーベキュー用の竈が出来上がっていて、フォニアが薪をくべて魔法で火をつけているところだった。
エルは食材の下ごしらえをすでに終えていて、あとは焼くだけになっている。
「お、準備できてそうだな」
「美味しそう」
「もちろん山唐辛子焼きもぬかりなく」
「鉄板乗せてくれ」
「火ついたよ!」
こうして城塞都市サタニスガーデン一日目の夜は更けていった。
そして翌朝、今日から本格的に活動するかと冒険者ギルドへと改めてやってきた。
ちなみにエルはお留守番である。拠点ができたのであればと侍女の役割を果たすそうだが、日本の調味料や料理本、日本語の教材を所望してきたあたり、自分の趣味に没頭する気満々である。
さすがに朝ともなれば冒険者ギルドの中も混んでいて、よさげな依頼はすぐになくなってしまいそうだ。
「ちょっと行ってくる」
といってもよさげな依頼が必要なのはイヴァンだけなので、さっそく人波をかき分けて依頼ボードのほうへと向かって行った。俺たちはゆっくりと後を追いかけて、依頼ボード前に集まる冒険者の集団の後ろからボードを眺める。
「おー、討伐系の常時依頼がいっぱいあるなぁ」
よく見えるボードの高い位置に常時依頼が貼ってあり、魔物を討伐して肉を求める依頼が多数張り付けられている。よく見ればAランクにも肉狩りの常時依頼が貼ってある。とりあえず常時依頼の肉は全部制覇しないとだな。
「さすが魔の森が近いだけあるわね」
「聞いたことない魔物も多そうだし、これはちょっと期待できそうだな」
「ボクもがんばるよ!」
小さくなったニルを抱えたフォニアもやる気は十分だ。
何か依頼を見つけたイヴァンがボード前から抜け出してきて戻ってきた。
「これ受けてくる」
どうやら街の南東にある池に魔物素材を狩りに行くようだ。依頼書を二枚持っているが、もちろんどちらもEランクである。
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
ここら辺の魔物は多少手ごわいと聞いていたけど余計なお世話だったか。イヴァンなら一つ上のランクの魔物とも余裕でやりあえる。別行動で依頼を受けることも最近は珍しくないし、むしろお守りの人間がいないほうがランクは上がりやすいらしい。
「早く俺もDランクに上がって、魔の森に行けるようになりたい」
「そうだな。何かあったら連絡してくれればいいし」
「ああ、そうするよ」
ひらひらと依頼書を振りながらカウンターへ並ぶイヴァンを見送ると、俺と莉緒も依頼ボードに群がる冒険者たちの中へと入っていく。
さすがにSランクの依頼は貼ってなかったが、Aランク以下の依頼はそこそこの数があるみたいだ。
「うーん、最初は適当に森に入っていろいろ見て回るか?」
「……それがいいかもしれないわね。だいたいどんな依頼があるかは把握できたし」
スマホで依頼ボードの写真を撮っていた莉緒がいい笑顔をしている。
それじゃあそういうことで、と依頼ボード前から抜け出してくると、カウンターで依頼を受けてきたイヴァンも合流してきた。
「んじゃさっそく行きます――」
「やっと見つけたぞクソガキが!」
出発進行と緩く気合を入れようとしたところで、それを遮るようにギルド入り口から大きな声が響き渡った。




