第303話 久々の野営ハウス
ふんぞり返る男を眺めながら考える。
貴族……、貴族か。そういえば冒険者のBランクからは貴族扱いされるって話を前に聞いたことあるけど、あれは他国でも有効なんだろうか。
イヴァンはフォニアを連れて避難しているようで、とばっちりが行くことはなさそうだ。
「こっちはSランク冒険者だ。あんたに譲る理由はないね」
とはいえこういう時にSランクという威光が効果を発揮するんではなかろうか。帝国の貴族からもある程度配慮があったきがするし。
「ほう、Sランクか」
「男爵様を貴族と知ってからもその態度、不敬が過ぎるぞ! 冒険者ランクがいくら高かろうが関係あるわけなかろう!」
感心するお貴族様の後ろで従者らしき人物が喚きたてる。
「あ、そうなんだ」
態度を変えない男たちを見て、なんだか話が通じなさそうだと感じた。これは早期撤退すべき事案ではないだろうか。
「わかったら早くそれを寄こすのだ」
「まあ待て」
腕を差し出して逸る従者を止めると、男爵とやらが一歩踏み出して両腕を組んでふんぞり返る。
こいつはいちいちふんぞり返らないと喋れないのだろうか。
「Sランク冒険者ということであれば、これまでの不敬はなかったことにしてやらんでもないぞ。……俺の下に付いたらという条件はつけるがな」
「え、嫌ですけど」
「は?」
反射的に答えると、鳩が豆鉄砲を食らったような表情に変わっていく男爵。
「なんで知りもしない他国の貴族の言うことを聞く必要があるんだよ。そんなんでよく外交問題に発展しないもんだな」
相手の立場もわかってないだろこのオッサンは。といっても俺たちは貴族じゃないので外交問題には発展しないが。ここは平民街とはいえ高級エリアだし、貴族の自分がうろついてるように他国の重要人物がうろつく可能性は考慮してないんだろうか。
「……何を言って――」
「じゃあそういうことでさいなら」
いち早く我に返った従者に最後まで言わせず、手に持っていた効果のよくわからない鏡を持ったままそそくさとその場を去る。
店の入り口にあるカウンターで、釣りはいらんとばかりに一桁上の一千万フロン硬貨である白金貨を一枚たたきつけると店を出た。
『なんか面倒なのに絡まれそうだからさっさと王都出ようぜ』
念話で伝えると、みんなからは即答で了承が返ってきた。
早々に店を出た俺たちは、さっそく王都の北門へと向かう。悠長にして回り込まれたりすれば厄介なので即行動だ。
現在の時間帯は昼過ぎ。魔の森まではそれなりに近づいたと思うけど、今日中に着くのはたぶん無理かな。どこかで野営する必要があるかもしれない。
「あれからどうなったんだ?」
早々に退散していたイヴァンが気になったようだ。その場であったことを伝えると嫌そうに顔をしかめている。
「貴族ってのは相変わらずだな……」
「貴族こわい……」
震えるフォニアを莉緒がそっと抱き上げて慰めている。よしよしと頭を撫でて頬をすりすりする様子はとても尊い。
これは動画を撮っておかねば。
「あ……、電池切れそう」
映像を残さねばという義務感に駆られてスマホを構えたところ、電池残量があとわずかになっていた。
手のひらに電力を発生させてワイヤレス充電しながら動画撮影を行う。といっても動画撮影しながらだと減らないだけで増えもしない。でも電池切れで動画撮影ができなくなるよりはマシだろう。
北門に着いた後はそのまま外に出てひたすら北上する。予想通り魔の森手前、最北の街に着く前に暗くなってきたので、今日は適当に野営だ。
「久々の野営用ハウスの出番だな」
街道から外れた場所に出すと、そこには3LDKほどの家が出現する。この一か月でまた魔改造がされているのでいろいろと快適になっているのだ。
とはいえまずはスマホの充電をしてしまおう。充電している間に夕飯もできるだろ。
家の中に入ると異空間ボックスから大型のポータブル電源を取り出す。大容量の電池が内蔵されていて、調理家電も普通に動かすことのできる優れものだ。野営用ハウスには電子レンジや炊飯器も設置してあるが、まだ使わないのでとりあえずスマホを接続しておいた。
「あ、私も充電しとこう」
「じゃああたしも」
結局スマホを持っている全員が充電することになった。
「あれ、ポータブル電源も残量減ってきたわね」
「ん? ああ、ほんとだ。スマホ充電終わったらこっちも交換しとく」
ポータブル電源も二つ用意してあり、一つは日本のマンションで充電して放置してあるのだ。異世界で使っているポータブル電源の残量がなくなれば交換するのだ。あとでちゃちゃっと交換しに行ってこよう。
「よろしく。じゃああとは晩御飯だね」
「お任せください」
何やらエルが張り切っている。日本の科学もそうだけど、食文化にも感化されたのが今のエルだ。こんな時だけ侍女っぽい態度を取ってるが、内心ではいろんな調味料や香辛料を使って、なおかつ電子レンジや炊飯器を使ってみたいだけだろう。まぁやってくれるなら楽だからいいけど。
「それじゃ夕飯はエルお願いね」
「ボクも手伝うよ!」
「食材の希望は何かございますか?」
「じゃあ米と肉と野菜を適当に。……あとは味噌を多めで」
「承知いたしました」
食材を出した後にスマホの様子を見ると充電が完了していた。
「相変わらず早いなぁ。俺らの知ってるスマホは充電に数時間かかったよな」
「そうね。でも早い分にはいいじゃない」
「そうだな。可愛いフォニアを撮り逃さずに済む」
こうして俺たちはエルの料理を手伝うフォニアを映像に残すべく、スマホを構えてキッチンへと向かった。




