第301話 暴走馬車
翌日は朝から冒険者ギルドへとやってきた。昨日助けたパーティはいるだろうか。いないならいないで、ギルドに伝言だけ残してそのまま魔の森へ向かうつもりだ。
「お、いた」
「あ、シュウさん!」
向こうも俺たちを探していたようで、パーティリーダーのチャンクがさっそく駆け寄ってきた。
「昨日はありがとうございました」
「それはいいんだけど、カウンターに並んでたみたいだけどいいのか?」
列を抜け出してきたチャンクに聞けば、並ばずにギルドの隅で待機していた他のメンバーも集まり、口々にお礼を言われた。
「大丈夫ですよ。お礼のお金をギルドに預けようと思ってただけなので」
言葉と一緒に革袋を手渡してきたので受け取る。
「そうなんだ。まぁありがたく受け取っておくよ」
「ええ、受け取ってくれないとオレたちが困るので。護衛失敗にならずにホントに助かりました」
あのままだったらブラックエイプに追いつかれたフェイさんやられてたかもしれないしなぁ。それに護衛対象が死んだりしたら、普通の依頼失敗よりも評価が下がりそうだもんな。
知らんけど。
「……それにしてももう帰ってきたんですね」
「んん?」
続く言葉が何のことかよくわからずに首をかしげると、チャンクも首をかしげている。
「いや、昨日の夕方くらいに現場にいたじゃないですか。野営して帰ってきたばっかりじゃないのかと……」
「ああ、そういうこと」
納得して頷いていると、後ろからイヴァンの乾いた笑いが聞こえてきた。
「昨日の晩飯時には街に帰ってたよ」
「えっ?」
「ワサ……山唐辛子は美味しかったわね」
「ありゃ美味かったな。辛いのはあんまり好きじゃなかったけど、あれは別だな」
莉緒とイヴァンがワサビの感想を頷きながら話している。フォニアにも勧めてみたけど頑なに首を振って食べようとはしなかった。美味しいのに。
エルはといえば、目の細かさの違うおろし金を要求されたので作ったら、いろいろおろし比べては味見してた。エルはいったいどこに向かってるのかと、遠い目になったのは何度目だろうか。
「さてと、じゃあ用事も済んだしそろそろ行くか」
「え? あ、これからどちらに行かれるんですか?」
ひと段落付いたところで切り上げると、慌てたようにチャンクに呼び止められる。
「とりあえずの目的地は魔の森かな」
「そうなんですね!」
「ワタシたちの目的も魔の森アルね」
「また会えるかもしれませんね」
「そうだな」
こうして国士無双パーティと別れた俺たちは、一路北に向けて出発した。
途中の村や町はすっ飛ばして魔の森を目指す。ギルドにあったざっくり地図から計算すると、俺たちのペースであと三日くらいで魔の森の一番近くにある街に到着しそうだ。
西の空が夕日に染まるころ、大きめの街を遠目に見つけたので今日の宿にすることにした。
「ようこそザルアーツへ」
門番にギルド証を見せて街の中へと入る。街の雰囲気としては国境の街とそう変わらない。
入街手続きのときについでに聞いた、この街お勧めの高級宿へと向かう。大通りをまっすぐ進んだ中央近くにあるらしい。にしてもこの大通り、かなり広めに整備されているが、道の真ん中を歩いている人がいないな。馬車専用なんだろうか?
ほどなくして宿について問題なく部屋が取れたので、夕飯までのわずかな時間を使って店を回る。悪魔の舌の材料となる芋が売ってたので買ってみたけど、見た感じは普通の芋だ。作り方を聞いてみたけど結構面倒そうだ。そのまま加熱しただけじゃ食えないらしく、もしかしたら異空間ボックスの肥やしになるかもしれない。
そんなこともあって山の幸を堪能した翌日。
宿をチェックアウトして街の北門を目指して歩く。朝になると人通りも多いのか、大通りの真ん中を横切る人も多い。
少しカーブしている大通りを店を冷やかしながら歩いていると、後ろから爆走する馬車が近づいてきた。
「やっぱり真ん中は馬車専用か」
「っぽいわねぇ」
「あぶねーな」
口々に感想を言い合いながら馬車を見送っていると、その先で大きな悲鳴が上がる。
「なんだ?」
交通事故でも起こったかと思ったが、爆走していた馬車は速度を緩めずにそのまま走り去っていく。
「――あれ!」
首を傾げそうになったところで莉緒が声を上げると、さすがに俺も気が付く。
大通りの真ん中で子どもが倒れている。誰も駆け寄る人物が現れない中、莉緒と二人で急いで駆けつける。
「うぐっ……、ううっ」
男の子が一人、左腕を抑えながら痛みに耐えていた。フォニアより一回り小さい子どもだ。左腕を見れば馬車の車輪に轢かれたような痕を残して変な方向に曲がっており、血がじわりと地面に広がっている。
「大丈夫!?」
莉緒が急いで浄化と治癒魔法をかけながら腕をまっすぐに伸ばすと、びっくりした男の子が痛みのためか顔をしかめる。
「リアン!」
と同時に、男の子の母親らしき女性が駆けつけてきた。
惨状を見た女性の顔が青くなっていくが、だんだんと怪我が治っていく様を見て少しだけ落ち着いたようだ。
「もう大丈夫よ」
「うわあああぁぁぁぁん!」
きっとあまりの痛みに声も出せなかったんだろう。それがおさまった途端に男の子が急に声をあげて泣き出した。
「リアン! あああ……、ありがとうございます!」
地面に倒れて泣く男の子を抱き上げると、女性は何度も頭を下げていた。




