第289話 屋敷への潜入方法
まずは屋敷全体の調査だ。そとから見える範囲では家の壁に囲まれていて中は伺い知れない。玄関門は閉ざされており、格子の隙間からは若干荒れた庭が見える。
三階建ての建物は部屋数は十ほどはありそうな大きさで、馬はいなさそうだが厩舎なども見える。
「屋敷の中にいるのは四人かな」
気配察知を屋敷の内部まで伸ばした結果をみんなに伝える。
「……ちょっと少なすぎない?」
「この規模の屋敷ならば執事とメイド数人に、料理人や庭師とかが必要になりそうね」
莉緒の言葉にエルが補足してくれる。さすが侍女だけあってこういうことには詳しい。
「この時間帯ならおそらく出かけてもいないでしょうから、四人で全員かと思います」
人数を当てたことに驚いているジェクターだったが、そちらの調査結果とも一致しているようだ。
「で、どうするんだ?」
イヴァンが両腕を組みながら目の前の屋敷を見上げている。
「四人だけしかいないんなら突入してひとりひとり確認してもいいけど……、楓さんがいなかった場合にこじれそうだよなぁ」
「それはそうでしょうね。今はただの無関係な他人だけど、明らかに敵に回っちゃいそう」
教えてくれるものも教えてくれなくなれば厄介だ。
「もう正面から訪ねていって人探ししてるとぶちまけるか?」
顎に手を当てて考えていると、エルが不思議そうに首を傾げている。
「ご主人様たちの実力があれば、誰にも見つからずに潜入して確認できるんじゃ?」
その言葉に思わず莉緒と顔を見合わせる。
「確かに? 遮音結界を張れば音は漏れないな」
「いざとなったらテレポートでどこからでも外に出られるわね」
「じゃあ両面作戦で行くか」
「わかった」
「俺は真正面から屋敷を訪ねる。探し人がいるってな。莉緒は屋敷に潜入して、中にいる人物の顔を確認してきてくれ」
「うん。もし楓ちゃんがいたらどうするの?」
「女が素直に返してくれる可能性もあるから、まだ接触はやめておこうか。連れ出すだけならそう難しくはないだろうし、まずは楓さんがここにいるかどうかだけの確認にしとこう」
「おっけー」
直近の方針が決まったところで改めて屋敷へと集中する。
「うーん、今回俺たちは役に立ちそうにないな……」
後ろから聞こえてきた声に振り返ると、苦笑いを浮かべたイヴァンがフォニアの頭にポンと手を置いていた。
「ボクも……」
フォニアも耳をぺたりと倒して悲しそうな顔をしている。
「うふふ、フォニアちゃんは出番が来たらお願いするから、その時はよろしくね」
「うん」
頭を撫でられて多少は気分を持ち直したようだ。
「じゃあ街でもぶらぶらしてるか? ミミナ商会以外だったら買い物しててもいいぞ」
「あー、まぁそうさせてもらおうかな。……ってかなんでミミナ商会はダメなんだ?」
「ちょっとひと悶着あった商会だからな」
イヴァンが微妙な顔になってるけどしょうがない。あそこの商会にいい印象を持てるわけもない。
「よくわからんがわかった。またあとで連絡してくれ。ニルも俺たちと行こうか」
「わふっ!」
「じゃああたしはシュウについて行くわね」
「そうなのか?」
エルはどうするのかと思っていたら俺についてくるらしい。
「使用人を連れた人物が尋ねてきたほうが、向こうも重く受け止めてくれるでしょ」
確かに、そう言われればそうかもしれない。子どもっぽいと言われた気がしないでもないが、実際に侮られることが多かったのは事実なのだ。
「じゃあそれぞれ行動開始だ。ジェクターさんも案内ありがとうございました」
「あ、いえ。お役に立てたようでよかったです」
こうして俺とエルは屋敷の玄関へと向かい、他のメンバーもそれぞれ動き出した。
エルが先行して玄関の門を開けて歩く後をついて行く。玄関のドアノッカーを叩いてしばらく待つが反応がない。屋敷内では一人の人間が慌てたように動く気配が感じられるので、待っていれば出てくるだろう。
「大変、お待たせ、いたしました。何か御用でしょうか」
息を切らせて出てきたのは年配のメイドさんだ。白髪の混じった金髪をしていて、なんとなく苦労しているような雰囲気を感じさせる。
「こちらはSランク冒険者のシュウ様だ。人を探していてな。こちらにおられるリフレシア殿に話を聞きたいと伺った」
「……Sランク!?」
エルからSランクという話が出たので、首元から証拠の冒険者証を出して相手に見せる。どうやらSランクというのはこういうところでも威力を発揮するらしい。
「は、はい! ただいま確認してまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか!」
そう言葉にすると慌てたように屋敷の中へと引っ込んでいく。
「客を応接室に通してもてなす人員もいないのか……」
エルが呆れているが確認した人数を思えばそんなものだろう。下手をすればメイドはあの人だけで、最悪料理人も兼任している可能性すらありそうだ。
『玄関から奥の部屋に向かうメイドを発見。楓ちゃんじゃなさそう』
『俺たちを出迎えたメイドだな。今から例の女のところに俺たちが来たことを伝えに行くみたいだ』
莉緒からの念話につい先ほどの出来事を伝えておく。
『わかった。先にそっちを確認しておくね』
『よろしく』
しばらくすると莉緒から女を確認したと連絡が入る。確かに老けて見えるがあの写真の人物には間違いないとのことだ。伝えられた人物の気配を空間魔法で記憶しておく。となればあと二人だな。
「お待たせいたしました。リフレシア様がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」
さらに待つことしばし。メイドが玄関へと現れると、女が会うということで屋敷の中へと足を踏み入れた。




