第288話 目的の屋敷
「えーと確か、ミルキーウェイっていうバーだっけ」
「うん。北門の近くだって」
南門から入ったので反対側まで行かないとダメなようだ。大通りを北に向かって進んで行くと、中央広場の手前に以前泊まった宿が見えてきた。
明日以降も滞在するか不明なので今はスルーする。中央広場を越えて北門前まで来ると、東へ一本奥の通りへ入っていく。
「ここだな」
朝の時間帯はさすがにバーは開いていないらしく、玄関にはクローズの立札が掛けられている。連絡は入れてあるとのことなのでたぶん鍵はかかっていないと思うが……。
扉に手を掛けるとゆっくりと開いていく。
「開いてるわね」
中は手狭なようだが、テーブル席がいくつかとカウンターが数席の小ぢんまりとしたバーだ。中に入っていくと、カウンターの前に一人の男が直立不動で佇んでいる。
「お、お待ちしておるました!」
ガチガチに緊張した男が噛みつつ出迎えてくれる。
「えーっと、メサリアさんから話は来てると思うんだけど……」
「は、はひっ!」
メサリアさんの名前を出したらさらに男の緊張が増した気がする。
なんなんだこの状況は。
莉緒たちと顔を見合わせるが、誰も心当たりなどあるはずもない。
「こ、こちらへどうぞ」
男は緊張しながらも店の奥へと案内してくれる。手と足が一緒に出ているがツッコんだ方がいいんだろうか。
「ぶふっ、面白い歩き方だな……。でもこういう反応は今までに見たことないよな」
イヴァンが噴き出しているが、確かに今までにない反応だ。だいたい見た目で侮られることが多かったから新鮮な気分ではある。
「まともな会話になればいいんだけど」
莉緒の心配ももっともだ。あの調子でうまくしゃべれないとかは勘弁して欲しいところだ。
「とにかく行ってみるしかないな」
男のあとを追いかけてみんなで店の奥へと進んで行く。カウンター奥にある扉を抜けると廊下になっていて、その奥の扉の前で男は待っていた。俺たちが来たことに気が付いた男が奥の部屋へと入っていき、俺たちも続いた。
「ぐ、グランドマスターをお連れいたしましゅた」
会議室のようなそこには長テーブルが置かれており、その向こう側に一人の男がまたも直立不動の姿勢を取っていた。
思わず案内してくれた男を振り返ると、ビクリと挙動不審になって冷や汗をかきだした。グランドマスターって何と言葉にしそうになったけど飲み込む。なんとなく想像はつくから聞かないでおくか……。
「ようこそいらっしゃいました。お話はメサリア殿から聞いています」
ぴっちりとしたスーツのような服を決めた清潔感のある青年だ。ダークブルーの髪と瞳のイケメンである。緊張はあるようだがまともに話ができそうな人物が出てきたことに安心する。
「コメッツ支部を任されているジェクターと申します。どうぞおかけください」
「あ、どうも。柊です」
順に自己紹介をしつつ全員が席に着くと、ようやく話が始まった。
「女の名前はリフレシア。この女を見かけたのは街の北西にある屋敷です」
こちらが配布した写真よりもかなり老けて見えたが、まず間違いないとのこと。ただ楓さんらしき人物は、周辺を調査したが出てきていないらしい。
「といっても関係者との接触もしていませんし、周辺の調査までしかできていませんので屋敷に閉じこもったまま出てきていないだけの可能性は十分にあります」
「そうか。ありがとう」
屋敷の外観や周辺地図などを教えてもらい、本題の女についても話を聞く。
「あまり周囲との接触はしていないようですね。この街に来たのも五年くらい前のようで、昔からここに住んでいたわけではなさそうでした」
普段の買い物は使用人に任せているらしく、その使用人も緑色の髪をしていることから楓さんではない。
「うーん。結局行ってみないとわからないってことだな」
「申し訳ありません。結論を申しますとそうなります」
「ああ、いや、責めてるわけじゃない。短時間でここまでわかると思ってなかったから、そこはとてもありがたいと思ってる」
申し訳なさそうに肩を縮める男にそう伝えると、いくぶんか表情が和らいだ。なんだか俺たちってすごい怖そうに思われてる気がしてならない。
「ありがとうございます」
「じゃあさっそく行きましょうか」
莉緒の言葉で席を立つと、みんなが気を引き締める。
「では現地まで案内します」
「お願いします」
部屋の入り口でずっと直立不動にしていた男をその場に残し、全員で外に出る。どうやら案内は最初に会った男ではなく、説明をしてくれたジェクターがしてくれるようだ。
大通りを跨いで西側へと出ると、そのまま街壁沿いに西へと進んで行く。商都コメッツは六角形をしているので南西方面へと曲がり、しばらく行くと中規模の屋敷が立ち並ぶエリアへと入っていく。
「相手は貴族なのかな?」
「すみません、まだそこまで確認は取れていません」
ジェクターへ聞いてみると左右へ首を振る。
「ここはある程度裕福な人物が家を構えるエリアですが、何分商都ですのでそこそこ稼ぎのある商人たちもここに住まいを構えているのです」
「なるほど」
「貴族街というわけでもないので、五年前にきた余所者にも入り込みやすかったのでしょう。……着きました」
そうしてジェクターに示された屋敷は、街壁に隣接したあまり手入れの行き届いていない建物だった。




