第283話 バーベキュー
バーベキュー会場はDORAGON社ビルから徒歩五分ほどのところにあった。なんとそこはペットOKな飲食店らしい。
「わふっ! わふっ!」
盛大に尻尾を振り回すニルと一緒に店内へと入っていく。かつてないほどに大興奮であるようだ。
「よかったねぇ、ニル」
フォニアもよほど嬉しかったのかニコニコ笑顔が絶えない。
「ははっ、喜んでもらえて何よりだ」
そしてびっくりしたのがこのお店だ。生鮮食品店もかくやといった雰囲気で、奥にバーベキューエリアがあるのだ。食べ放題のお店ではないようで、客はカウンターで好きなものを注文し、バーベキューエリアで自由に焼いて食べるといったシステムみたいだ。お肉がメインでいろいろ種類があるが、野菜も豊富に取り揃えている。
「面白いお店ですね」
「そうだろう。持ち込みもできるお店でな、バーベキューの設備だけ使うこともできるんだよ」
奥のさらに個室へと案内されると全員で席に着く。
「さぁ、みんな好きなものを頼むといい」
テーブルの隅に置かれているタブレットを仁平さんが手に取ると、中央へと差し出した。お肉や野菜のメニューが載っていて、どうやらここから注文ができるようだ。個室からタブレットで注文すれば、店員さんが持ってきてくれるという。
奥にある個室から表のカウンターまで遠いなと思っていたのでよかった。
「フォニアちゃんは何食べたい? お肉もいっぱい種類があるよ」
莉緒がタブレットを手に取りフォニアと一緒に選んでいる。後ろからニルが尻尾を振りながら覗き込んでいて、たまに「わふぅ」と割り込んで手を出していた。
もう一台あるタブレットを手に取ると、俺も適当に注文を入れていく。
「ほい。エルも何か食べたい物あったら頼んでいいぞ」
入力の終わったタブレットを差し出すと、困惑した表情で受け取っている。
「読めん……。が、絵を見ればだいたいわかるな……。どうなってるんだコレは。特に魔力は感じられないが……」
器用にフリックでページ送りをしていたかと思えば、ひっくり返して裏面を確認したりするエルを観察する。言葉はわかってないようだけど、案外馴染むのは早いかもしれない。
「十字マークを触ると文字が変わるが、棒一本のマークを触れば丸いマーク以降変化しなくなる……。ふむ。ということはこれがゼロを表す文字ということか」
いやとても早いのかもしれない。そのうち日本語をしゃべって読み書きまでこなしそうだ。ただの脳筋ではなかったのか……。
しばらくして料理が運ばれてくると、みんなで肉を焼いて食事会が始まった。途中で楓さんの父親である十四郎さんも加わって盛り上がってくる。
吸血鬼族のエルに驚いていたけど、イヴァンやフォニアの耳を見て何か納得したようだ。
「そういえばここって持ち込みOKでしたね」
「うん? そうだが、何かあるのかい?」
何となく発した俺の言葉に、十四郎さんが好奇心に顔を輝かせる。
よし、ここは日本人にも異世界食材が受け入れられるのか確認してみようじゃないか。実際俺たちも食べてるから問題ないとは思うけどね。
「いろいろありますよ。あっちの魔物の肉とか、魚とか、野菜から一通りそろってますよ」
「んん……? 魔物の肉は気になるけども、それは今ここに出せるということかい?」
何も荷物を持っていない俺たちに、柳原親子が興味深そうに尋ねてくる。ある程度魔法は見せたけど、異空間ボックスは披露してなかったと思う。
「ええ、これも魔法ですけどね」
異空間ボックスから大きめのまな板を取り出すと、各種の肉を取り出していく。
「「おおっ!?」」
驚く二人をよそに、エルが食べる手をとめてそっと近づいてきたので包丁を手渡す。なんだかんだ侍女だけあって、最近の家事まわりは全部エルがやるようになっている。
「まずは一般的な魔物肉からいこうか。これが鹿で、こっちが熊、これがイノシシですね」
「ほぅほぅ。見た目は普通の肉に見えるな」
「食材になってしまえばどれも見た目はあんまり変わりませんね。ちなみにどれも体長二メートル以上の大きさの魔物でした」
「二メートル……。というか一体どこから取り出したんだね……」
「それよりも生肉だろう? そこまで日持ちするものなのかね」
「はは、そこはまぁ、魔法でなんとかなるので」
「そういうものか……」
「すごく便利ですよ」
釈然としない表情をしながらも、エルが焼いた魔物肉を口にすると大絶賛だった。若干のお世辞が入っている気がしないでもないけど、特に味としては問題ないらしい。お店で売ってるお高い肉と遜色はなさそうだ。
「では次は地竜の肉と、亀の肉です」
「ち、ちりゅう……?」
「それはいわゆる、ドラゴンというやつだろうか」
「そうですね。二本足と二本腕の翼のついていない飛べない竜種になります。頭から尻尾まで三十メートルくらいあったかな」
しっかりと測ったわけじゃないので目算だけど、でかかったのは確かだ。
「三十メートル……」
「ふふ、驚いているようですけど、実は亀の方が大きかったんですよ」
莉緒が笑顔で告げると仁平さんたちの表情がなんともいえない微妙なものに変わっていく。
「なんというか、どう反応していいのかわからなくなってきたわい」
「しかしこうして後から出してくるということは、美味いんだろう?」
十四郎さんはもう余計なことを考えるのをやめたのか、食材としての興味が先に出てきているようだ。
「もちろんです。まずは地竜からどうぞ」
そうして次々と出される異世界産食材に舌鼓を打っては絶賛する時間が流れていくのであった。




