第282話 進捗報告
「わざわざ済まないね」
いつもの会議室に入ると仁平さんが待ち構えていた。
「いえいえ、こちらこそいいタイミングで連絡が入ったので助かりました」
仁平さんの向かいに座りながらもお礼を述べるが、仁平さんは首を傾げるだけだ。
「よくわからんが、よかったんなら良しとしよう」
俺たちが全員席に着いたことを確認すると、一人増えたエルへと視線を固定する。
「そちらのお嬢さんが柊くんの言っていた一人か。DORAGON社の会長をやっとる柳原仁平だ。よろしく頼む」
柔和な笑みを向けて自己紹介する仁平さんだったが、お嬢さんて……。ちょっとだけ仁平さんがどういう反応を返すか楽しみにしつつ、エルを紹介する。
「彼女はエルヴィリノス・ジュエルズ。こう見えて吸血鬼族で、本人曰く二百歳を超えてるらしいですよ」
「えっ……?」
目を丸くする仁平さんにさらに付け加える。
「あとこっちの言葉がわからないので話ができません」
「そ、そうなのか……」
何やら考え込む仁平さんだったが、ハッとして表情を一変させる。
「もしかすると、楓も言葉が通じない世界にいきなり放り出されたということなのか」
「……どうでしょうか。俺たちが召喚された時は言葉は通じましたけど、可能性がないとは言い切れませんね」
召喚された際に神様がスキルを付与してくれていれば問題なさそうではある。
にしても吸血鬼族ってところにツッコミは入らないか。イヴァン達獣人もいるし、そういう種族もいるよねって感じなのかもしれない。そんなことに比べたら、楓さんのことのほうが重要だ。
「それで、今の状況ですが」
「ああ、そうだな。済まないが聞かせてくれないか」
こうして俺たちは向こうの世界での楓さん調査状況を報告した。
「だいたい理解した。……が、もどかしいものだね」
椅子に深く座りなおすと、虚空をなんとなしに見上げる仁平さん。
「しかしそんな中でも、大陸中に人海戦術を使える立場にあるとは……。儂としても柊くんたちに出会えたのは幸運だとしか言えないな」
「といっても、他に大陸があるのかどうかも知らないんですけどね」
地図はたまにギルドなどで見たことはあるけど、現地周辺の地図しか見たことがない。世界地図が存在するのかどうかもよくわかっていない。というかそこらへんよく知ってそうなご長寿が身近にいたな。
「なあエル」
「……んん? あたしか?」
突然話しかけられたからか、エルが顔だけこちらに向ける。
「俺たちがいた世界だけど、フェアリィバレイの街がある大陸の外にも他の国ってあるのか?」
「よくわからんが、他にも大陸はあるぞ? 帝国帝都南の港街から確か船が出ていたと思う。あとは西にも大陸があるな」
「そうなのか……」
突然知らない言葉でしゃべりだした俺たちに驚く仁平さんだったが、顎に手を添えて首をひねっている。
というか帝都南の港街って、海皇亀に襲われたところか? そこそこ港も被害を受けてたから、船が出られるようになってるかどうかは行ってみないとわからないかもしれない。
「ねぇ、それでその世界の大陸は全部なの?」
莉緒が会話に加わってくるが、確かにそれは気になるところだ。
「いや、すべての海を探索し尽くしたって話は今までに聞いたことがないね」
肩をすくめるエルに、楓さんの捜索が思ったより大変そうだという実感が湧いてくる。
「そういえば人を探してたんだったわね。あたしたちの組織も他の大陸となると影響力がないからね」
「だよなぁ」
さすがに世界を股に掛けるほど大きくなかったようだ。安心したような残念なような複雑な気分だが、今は残念な気持ちの方が大きい。
「あー、すみません。ちょっとエルに確認したんですが――」
聞いた話を仁平さんにも伝えると、徐々に表情が曇っていく。
「楓が……、他の大陸にいる可能性もある……ということか」
「うーん……、可能性はゼロではないんですが、そもそも楓さんのスマホは大陸で見つかってますから」
「そうですね。まずは大陸の調査に力を入れる方向でいいんじゃないでしょうか」
莉緒も一緒になって大きく頷くと、仁平さんの表情に少しだけ安心が混じってくる。
「そう……じゃな……。うむ。申し訳ないがよろしく頼む」
改めて深く頭を下げる仁平さんに苦笑いが漏れる。
「ふぅ……。思ったより話が長くなってしまったな。フォニアちゃんも退屈させてしまったようだし、そろそろご飯でも食べに行こうか」
部屋の隅へ視線を向けると、フォニアとニルがじゃれあって遊んでいた。窓の外は太陽が空を赤く染めており、長くなったビルの影を地上に落としている。
「ごはん!?」
耳ざとく聞きつけたフォニアが即座に反応すると、ニルと遊ぶのをやめて振り返る。
「はは、お腹すいたかな? 何か食べたいものはあるかな?」
「おにく!」
「わふぅ……」
嬉しそうに即答するフォニアだったが、その隣でニルが悲しそうに鳴いている。俺たちだけで晩飯を食ってる間、待ちぼうけを食らっていた記憶が思い出されたのだろうか。
「あぁ……、うん、そうだな……」
そんなニルの様子に心を打たれたのか、仁平さんが少し考え込む。
「じゃあ今日はバーベキューにしようかの。少し待っててくれるか」
スマホを取り出した仁平さんが電話を掛けると、どこかのお店の予約を取ってくれているようだ。
「よし、運よく空いておったようだの。さっそく行くとしよう」
「やったぁ!」
こうして俺たちと仁平さんは、連れ立ってバーベキュー会場へと向かった。




