第276話 ミッションコンプリート
廊下に出たところには誰もいないようだった。ここは通路の突き当りであるし、召喚陣の部屋から外に出るときには本来通らない場所なのだ。
正気に戻ったエルも含めて廊下を歩いて行く。十字路に差し掛かったところで一方の道から血の匂いが漂ってきた。召喚陣の部屋の方向でもあり、ちょっとだけ行きたくなくなったけどそうも言ってられない。
「こっちだ」
途中で魔物や魔人族が倒れているが、すべてが事切れている。ところどころに戦闘痕が残る廊下を進むと、目的の部屋が見えてきた。
「誰かいるみたいだな」
「どうすんだ? ……ってかシュウたちならなんとでもなるんだろうし、好きにやればいいと思う」
作戦を聞いてきたかと思ったらいきなりの丸投げだった。どっちにしろイヴァンにやってもらうことはないから同じなんだけど、何か納得がいかない。
「じゃあイヴァンに一人で突撃してもらって、『誰だ!?』ってなってる隙に俺たちが後ろに回って召喚陣を破壊する作戦で」
「おいっ!?」
「あっはははは!」
「イヴァン兄がんばって!」
莉緒は冗談だとわかっているのか大爆笑だが、フォニアは本気でイヴァンを応援しているように見える。よし、俺も応援してもらおう。
「よーし、俺もがんばっちゃうぞー」
「お兄ちゃんもがんばって!」
フォニアの応援に思わず拳を握る。応援したことで満足したフォニアではあったが、ふと莉緒を見て「あっ」と声を上げると。
「お姉ちゃんもがんばって!」
と言って莉緒の腰へと抱き着いた。
「うふふ、ありがとう、フォニアちゃん。お姉ちゃんもがんばるね」
ぎゅっと抱きしめ返すとよしよしと頭を撫でる。
うちのフォニアは可愛すぎじゃなかろうか。敵陣の目の前だというのに気が付けばスマホを撮りだして動画を撮っていた。
「相変わらず緊張感がないねぇ……」
呆れたようなエルの声が聞こえるが無視だ無視。フォニアの可愛さを広めるにはとりあえずいろいろ撮っておいて損はない。
「んじゃ行くか」
「あたしらは誰か来ないか見張ってるよ」
「わかった。んじゃイヴァンよろしく」
「えっ!? マジだったの!?」
「ぷっ、はははは!」
莉緒の言葉に驚愕するイヴァンを尻目に、今度はエルが大爆笑だ。割と部屋の前で大騒ぎをしてるが、もちろん各種結界を張ってあるので気づかれる心配はないはずだ。
「わかったよ、行けばいいんだろ!」
「骨は拾ってやるよ」
「ふふ、ちゃんと結界は張ってあげるからがんばって」
やけくそになったイヴァンが先陣を切って召喚陣のある部屋へと向かっていく。
勢いよく扉を蹴り破ると、槍を振り上げて突っ込んで行った。
「何者だ!?」
誰何の声が中から聞こえてくる。
遮音結界と光学迷彩の魔法を継続させたまま、素早く召喚陣の裏側へと回り込む。
部屋の中には十人ほどの魔人族がいて、主に片づけをしているようだった。召喚の儀式で現れた大量の魔物たちによって部屋が荒らされ、いくつか犠牲者も出たのだろう。死体などが残っている様子はないが、壁が一部崩れていたり血痕が残っていたりと荒れていた。
にしても召喚陣が壊れた様子は見られない。強固な保護でもかかっているのか、魔物では壊せなかったのかもしれない。
「ふん、これ以上召喚されたくないんでな。この部屋はぶっ壊させてもらうぜ」
「なんだとっ!?」
イヴァンの宣言で色めき立つ魔人族は、召喚陣を守るべく前の方へと全員で集まりだす。後ろががら空きになったのでまさに好都合だな。
『でかいの一発いきますか』
『わかった』
紅竜のガントレットを取り出して右手に装着すると、魔力を込めながら召喚陣の中央へと進んでいく。土属性の魔力をガントレットの特性で増幅させつつ、重力魔法と空間魔法と次元魔法を上乗せして徹底的に地面を破壊すべく魔力を練る。
腰を落として集中すると、まっすぐに地面へと拳を振り下ろした。
派手な破壊音を立てて地面に亀裂が入り、部屋中の床が瞬時に瓦礫と化す。その後重力に敗北したのか一メートルほど陥没した。
「うおおおぉぉぉっ!?」
巻き込まれて陥没した一メートルの高さを落下してしりもちをつくイヴァン。
「ちょっ、何が起こるのか先に教えておいてもらえませんかねー--!!」
でもまぁ元気そうだな。
「よし、目標達成。撤退だ」
「わかってたけど、あっけなかったわね」
念のために瓦礫となった召喚陣の一部をごっそりと異空間ボックスへと仕舞う。特殊な素材が使われているかどうかわからないけど、できるだけ召喚陣の復活が阻止できればいいのだ。
イヴァンも部屋から出て行ったようだし、あとは俺たちだけか。
「逃がさんぞ!」
と思ったら魔人族たちに入り口を封鎖されてしまった。
『召喚陣は破壊できたから、イヴァン達はさっきの倉庫まで先に行ってくれ』
『了解』
念話で指示をすると、返事と共に三人と一匹の気配が遠のいていく。
地面を蹴って封鎖された入り口へと飛翔すると、それぞれが武器を構えて迎撃の態勢を取った。武器を振り上げたところで進路を変更して壁へ向かうと、そのまま拳を壁に叩きつけて穴を開けた。
何も扉から出入りする必要なんてないのだ。周辺環境にも気を使う必要がないって楽でいいな。
「なっ!?」
一瞬硬直する魔人族だったが、俺たちが外に出る方が早い。
「お先に」
一声かけると俺たちも元来た道を戻るのだった。




