第271話 いざアジトへ
ダンジョンを出ると西方向へと歩いて行く。この街に来た時、俺たちは東門から街に入って東側の宿をとった。なので街の西側はまだ行ったことがない。
先を歩く男たちからは少し距離を置いて、周囲を見回しながら後を付けていく。王都が北西にあるからか、西側のほうが発展しているように感じる。
半分ほどが露店で埋め尽くされた広い大通りの裏道へと入っていく。次第に南西方向へと進む方向を変えると、雰囲気が徐々にスラムのようになってきた。住人の服装がだんだんとみすぼらしくなっていき、視界に入る以上の人間の気配がそこかしこの建物からしていて視線を感じる。
「アイツらどこまで行くんだ……」
周囲を睨みつけていたイヴァンからブツブツと言葉が漏れている。余所者が入り込んだせいか、俺たちへの視線は確かに鬱陶しい。
「目立ってるししょうがないよね」
莉緒の言葉にぐるりとメンバーを見回すが、一番目立ってるのはやっぱりイヴァンだろう。俺たちはさっきまで新人狩りの囮をしていたので、無難な見た目に落ち着いているはずだ。イヴァンの背負っている槍が一番目立っている。
しばらく歩いていると、道を塞ぐようにしてガラの悪い男たちが前方に現れた。
「おっと、止まりな。何しに来たか知らねぇが、ここから先は有料なんだ」
「なにあれ」
「とおせんぼ?」
「なんだろうね? 通行料払わないといけないのかしら?」
言われた通り立ち止まってみんなに聞いてみるが、フォニアの答えは相変わらず可愛い。にしても行く手を塞がれてしまうとは、ちょっと作戦が裏目に出たかもしれない。
新人狩り組織のボスに手っ取り早く会う手段を考えていたのである。何しに来たかわからん俺たちを連れて色んな人間を躱していくより、失敗の報告を直接ボスにしているところに後から乗り込んだ方が早いと思って、離れた距離から尾行していたらこれだ。
「んなわけねぇよ。通行料がいる街中の通りなんて聞いたことねぇ」
「そうねぇ。あたしも色んな街に行ったけど、通行料取られたことなんてないわね。単純にあたしらから巻き上げたいだけだと思うわよ」
イヴァンとエルから一致した意見が上がってくる。
「んじゃ無視だな」
対応を決めると先を行く奴らの尾行を再開すべく足を進める。
「お、素直に払ってくれんのか?」
ニヤニヤした目の前の男たちがすっと手を出してくるが、華麗に無視して横を通り過ぎる。が、さすがに素通りはさせてくれなかったようで、転ばせようと足を出してきた。
「――い゛っ!?」
となれば蹴り飛ばすしかない。
短い悲鳴と共にひねりを加えた回転と共にぶっ飛んで着地後地面を転がると、建付けの悪い家の壁にぶつかって止まった。
「あんまり飛ばなかったな」
「家は壊しちゃだめだよ?」
「そうだな」
ポツリと呟いた言葉にフォニアから注意が飛んできたので、頭を撫でておいた。
道を塞いでいた男たちは、ぶっ飛ばされた男を見て動けないでいる。これ以上突っかかってこないなら放置でよさそうだ。
「ここか?」
それからしらばく歩けば目的地へ到着だ。後を付けた男たちの気配のする建物を見やるが、周りと変わらない平屋の、いつ崩れてもおかしくなさそうな家だった。
「地下があるみたいだな」
気配を探っていくと、ここまで案内してくれた男四人の他に八人の気配がある。二人だけ別室にいるようだけど隣の部屋だ。
「全部で十二人。そのうち十人が一部屋に集まってるみたい」
「じゃあもう突入する?」
「そうだな。二人くらいなら離れててもなんとかなるだろ」
全員で頷くと玄関の扉を開けて中へと侵入する。扉が軋む音を響かせるが、中の気配に特に変わりはない。ところどころに光が射しこんでいて、天井や壁に穴が空いているのがわかる。
「あっちから匂いがするよ」
フォニアが指さしたところに地下への階段がある。他に出口はないようだから、ここを押さえておけば逃げられることはなさそうだ。
特にこっそりすることもなく音を立てて階段を下りていくと、地下に到着すると同時に近くの扉が開いた。十人がまとまっている方の部屋だ。
「誰だ!?」
顔を出した男に誰何されたので、莉緒たちと思わず顔を見合わせる。特に名乗る気はなかったけど、名前を出したところで分かるとも思えない。
「冒険者ギルドの方から来ました」
ちょっと考えてから答えたら、なんだか詐欺まがいの言葉になってしまった。ダンジョンから直接来たけどギルドも近いので間違ってはいないと思う。
「な、なんだと?」
「お邪魔しますよ」
訝しげな答えが返ってくるが、ここで押し問答をするつもりもない。
エルに隣の部屋の二人を任せると、有無を言わせず出てきた男を張り倒して部屋の中へと吹き飛ばす。男たちから聞き出した名前の奴だったから問題ないだろう。
「なんだ!?」
部屋の中に入ると、ここに案内してもらった四人が跪いており、その向こう側に男が二人と女が三人いる。男一人がソファにふんぞり返っていて、もう一人の男が首輪をつけた男を足蹴にしている。部屋の中へぶっ飛ばした男は、壁際近くでピクピクしていて起き上がる気配はない。
「あぁ……?」
ドスの効いた声を上げたのは、ソファでふんぞり返っている男だ。こちらを睨みつけると眉根を寄せる。
「なんだお前らは……。何しに来やがった」
「何しにって……、新人狩りの黒幕を捕まえに来たんだよ」
「へぇ……。お前らがか?」
あざ笑いながらソファから立ち上がると、足蹴にしている男の手前まで歩いてくる。合図をして首輪をつけている四人を立たせると、俺たちと対面するように向き合わせた。
そいつら四人は俺たちの言いなりなんだが、首輪に気付いてないんだろうか。まぁいいや。
「いや、俺たちは見てるだけだが」
「は?」
「そういうわけだ。お前らやっちまえ」
間抜けな声を発するリーダーらしき人物に、四人の奴隷が振り返って襲い掛かった。




