第264話 フォニアの冒険
「なぁ、莉緒」
とりあえずダンジョン一階層を歩くことにしたが、なんともいえないもどかしさを感じていた。
「どうしたの?」
「普通の新人冒険者ってどれくらいのペースでダンジョン探索するんだろうな?」
俺の言葉にすぐ返事は返って来ず、草原を歩く足音が響くだけだ。遠くのほうでは、冒険者がダンジョンをうろつく動物の狩りを行っているのが見える。別方向には地面を掘り返してるやつもいるな。
「…………わかんないけど、……動物でも狩る?」
長い沈黙の後、周囲を見回してとある冒険者の姿を目に入れて、答えが返ってきた。鹿っぽい動物を三人の冒険者が武器を構えて囲んでいる。
「あー、うん、どうしようか……」
視線を莉緒へと戻して考え込む。
単なる興味でダンジョンへとやってきたが、どうせなら深い階層に潜りたい。だけど新人狩りの囮をやるには浅い階層で活動しないとダメだ。
「あ、そうだ。フォニアちゃんは何かやりたいことあるかな?」
「え? ボク?」
腕の中でフォニアが可愛く首をひねっている。「うーん」とひとしきり唸った後、何か思いついたようで笑顔になる。
「ボクもだんじょん探索する!」
「あ、おう、そうか」
結局何を探索したいのかよくわからん。地図は買ったけどとりあえずフォニアに次の階層へ続くポイントでも探してもらえばいいかな。
「んじゃ素材を探しながら、二階層目に続く道でも探そうか」
「うん!」
ということでフォニアを地面に下ろしてやると、莉緒から微笑ましい笑い声が聞こえてきた。俺も苦笑すると、左右をキョロキョロと見回すフォニアを生温かく見守ることにする。
「こっちかな?」
フォニアを先頭にしてニルが続き、その後ろを莉緒と二人でついていく。
「これなんだろう?」
「わふぅ?」
今度はまとまって地面から生えている、周囲と見た目が異なる草の前でかがみこんで首をひねっている。鑑定したところ特に効能もない草のようだ。毒はないようだけど食用とは出ていない。
ふんふんとニルと一緒に草の匂いを嗅いでいたフォニアが、おもむろに草をちぎってまた匂いを嗅ぎ始める。……と思ったら口に入れた。
「……うぇ」
みるみるうちに眉間に皺が寄り目に涙がたまっていく。そっと口の中から草を取り出すと地面に捨て、「にがーい」とつぶやく。
思わず笑いそうになったけど口を押さえてなんとか耐える。いきなり口に入れるとは思わなかったけど、いい匂いでもしたんだろうか。
「おみず……」
こっちを見上げた動作を途中で止めて、水をすくうように両手を目の前に出すと集中する。
「おみず」
もう一度呟いたときには手の中に水が生まれていた。結構練習してたからかスムーズに魔法が使えるようになっていた。がんばったんだなぁとしみじみ思い返していると、口をゆすいでフォニアが復活した。
「あー、にがかった」
「うふふ、濡れちゃってるわよ」
タオルを取り出した莉緒が、フォニアの口周りと服の胸元を丁寧に拭っていく。元気を取り戻したフォニアが耳と尻尾をピンと立てて、また先頭を歩き出した。
「やべぇなこれ、ずっと見ていられそうだ」
「そうね。フォニアちゃん可愛すぎじゃない?」
ここがダンジョンということも忘れて、フォニアの冒険の様子をひたすら観察する。落ちている石をひっくり返して出てきた虫をじっと観察したり、また違う草を見つけては匂いを嗅いだり。ポツンと生えている木に登ってみたり。
小型犬サイズのニルも一緒になっているのも相まって、可愛さが半端ない。
フォニアに危険がないか周囲を鑑定しまくっているが、浅い階層には特に何もない。
たまにすれ違う冒険者からは怪訝な表情を向けられるが、特に接触してくるやつも今のところいない。
「お、フォニア。そこに生えてるやつ薬草みたいだぞ」
「え、これ?」
依頼ボードで見かけた採集対象の薬草を教えてやると、嬉々として集め出した。
「全部取っちゃだめよ」
「うん!」
いきなり草をむしり取ったフォニアに、鑑定結果に出てきた最適な採集方法を教えていく。どうやら根っこごと掘り返すといいらしい。片手で使えるスコップ欲しいな。よし、作るか。材料は……、あれ使ってみるか。
魔人族の国から頂いたタングステン鉱石を取り出すと、金属を抽出してスコップの形に形成していく。フォニアの手に合うようにちょっと小さめだ。
「ほれ、これ使うといい」
「お兄ちゃんありがとう!」
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種類 :道具
名前 :スコップ(幼児用)
説明 :タングステンで作られたスコップ。
熱に強く容易に溶かすことはできない。
強度もあるため様々な用途に使用可能。
品質 :C
付与 :なし
製作者:水本 柊
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銀灰色をしたスコップを受け取ったフォニアが、地面にスコップを突き刺すと面白いように地面が掘れる。特に付与も付いていないけど、フォニア自身の筋力で掘れているだけかな。
「採れた!」
右手にスコップを握り締め、左手で根っこと土のついた薬草を高々と掲げている。
「上手に採れたねー」
仁平さんにもらったスマホを取り出すと、パシャパシャとフォニアの写真を撮っていく。気づいた莉緒もスマホを取り出して動画を撮りだした。俺が作ったほうのスマホには通話機能しかついていないのだ。
……何気にどっちもスマホって呼んでるけど、ちょっと紛らわしいな。自分で作ったほうなんて通話しかできないし、ぜんぜんスマートじゃねぇよな。……でも今更だよなぁ。紛らわしいと感じるのは自分たちだけだし、まぁいいか。
「じゃあ余計な土を払い落として仕舞っていこうか」
「わかった!」
スコップを地面に置くと、右手で土を払っていく。真剣に取り組む姿は見ていて微笑ましい。
「ちょっと、フォニアちゃん可愛すぎない?」
「そうだな。スマホくれた仁平さんには感謝しないと」
こうしていつの間にか、ダンジョンでフォニアの撮影会が始まるのだった。




