第263話 ダンジョン突入
迷宮都市はアークライト王国王都の南東に位置している。交易都市ザインからは南にある街だ。さらに南下すれば商業国家アレスグーテへと入ることができる位置にある。
迷宮都市という名前だけあって、ここにインブランドの街が最初からあったわけではない。最初はダンジョンだけがあったらしく、冒険者が集まるにつれて周りに商人が集まり、集落ができたのが始まりだ。今では王国内の街で、五本の指に入るほどの規模になっているという。
「じゃあさっそく行きますか」
情報収集をした翌朝。冒険者ギルドで簡単な依頼をいくつか受けた振りをした俺たちは、意気揚々と街の中心にあるダンジョンへと向かう。本来なら低ランクの依頼は、誰も受けない塩漬け依頼しか受けることができない。なので依頼ボードから剥がしてカウンターに持っていき、依頼を受けた振りをして職員に依頼票を返してきた。
「しゅっぱーつ!」
元気よく手を振り上げるフォニアに、ニルが「わふぅ!」と答えている。二人とも尻尾を振ってご機嫌だ。
「初めて行くけど、どんなところかしらね?」
「ダンジョンによっていろいろあるらしいけど、ここは自然環境型ダンジョンだったっけ」
「話だけは聞いたけどいまいち現実感がないわよね」
「地下にもぐったら太陽がまぶしい草原があるとか、森があるとかちょっと信じられないよな」
職員から聞いた話を莉緒としながら歩いていると、目の前に街の外壁と同じくらいの分厚い壁が見えてきた。
「うお、すげー壁だな」
スタンピード用の防壁と聞いているそれは、ちょっとした迷路を形成していた。そのさらに内側にも壁があり、ダンジョンから魔物が溢れた時の対策がしっかりと施されている。
朝からダンジョンに潜る冒険者は多いようで、似たような恰好をした人がぞろぞろと街の中心部へ向かっている。その波に乗るように移動するが、今のところ特に怪しい人間はいなさそうだ。
「おい待て」
ダンジョンに入る手続きをしようとしたとき、監視していた衛兵に止められてしまった。
「何か?」
「何かじゃねぇだろ。幼児連れてダンジョンに入るとか何考えてんだ?」
フォニアを指差してすごんでくる衛兵に、至極当たり前の理由を告げられた。まぁ確かに、ここは幼女を連れていくところじゃないな。
「大丈夫です」
フォニアを抱き上げると、他の冒険者からは見えないよう、衛兵にだけ見えるように首元の光るタグを襟から取り出す。
「んん? あぁ、そういうことか。それなら通って良し」
従魔のタグと気づいてくれた衛兵に安堵の息をつくと、改めて手続きを再開する。冒険者証を見せると引きつった顔をされたが、自分の口元に人差し指を当てて静かにしてくれるように促す。
基本的には名前を書いて身分証を見せれば終わりだ。ダンジョンへ続く坂道を下って歩き出した。十メートルくらい幅のある通路が緩やかに地下へと繋がっており、しばらくするとトンネル状になった。
「うわぁ、まっくらだね」
抱き上げたままだったフォニアが周囲をキョロキョロしている。
「でも向こう側は明るそうだね」
莉緒が通路の先を指差すと、確かに明かりが漏れている。
しばらくすると向こう側の明かりの中が見えるようになってきた。草原地帯のようになっているが、何やら露店のようなものが出ているのが見える。
「……なにこれ。普通の街の中みたいなんだけど」
「お店がいっぱいあるよ」
「だなぁ」
ダンジョンの一階層へと足を踏み入れると空気が変わった気がした。天井を見上げると空が見えて明るい。振り向けば空間にぽっかりと穴が空いているようで、入り口の左右は草原が広がっている。
「どうなってんだ」
地上に繋がる入り口の周囲は露店でひしめいている。かなりのぼったくり値段だけど、利用する奴がいるんだろう。今の俺たちには用はないけど。
「とりあえず先に進むか」
露店地帯を抜けて広い場所まで出ると、改めて周囲を見回す。どこまでも広がる草原に、ところどころ樹が生えていたり岩が突き出たりしている。
「何もないわね」
手持ちのスキルを意識して、察知系スキルを全開で周囲に広げていく。スキルが見えてできることが具体的にわかったからか、スキルの効果も上がった気がする。
同時にスキルによって構築されていくダンジョンマップに苦笑いが漏れてしまった。
「ホント何もないな……」
ところどころに生命力の反応はあるが、魔力の反応がないので魔物ではなく動物だろう。ダンジョンに動物が生息しているというのも驚きだけど。
「わふぅ」
ふんふんと匂いを嗅いでいたニルもつまらなさそうに鳴き声を上げた。
「ん?」
「どうしたの?」
思わず上げた俺の声に莉緒が反応する。
「いや、地図スキルのマップが、ダンジョンの入り口で途切れてるからなんだろうなと思って……」
「え? そうなの?」
入り口を振り返るとそちらに意識を向ける。
「これって……」
「まさかの新事実だなぁ」
次元魔法を扱えるようになったから気付けたが、ダンジョンはどうやら別次元にある空間のようだ。
「ちょっと気を引き締めて進むか」
「そうだね」
「うん。わかった!」
わかってるのかどうかはわからないが、フォニアが拳を握って気合を入れている。
別次元だろうがテレポートできる俺たちには、ダンジョン攻略も容易かもしれない。しばらくは新人狩りされるために入り口からの出入りは必須だろうけど。
こうして俺たちはダンジョンの探索を始めた。




