第262話 新人冒険者
その日は妖精の宿で一泊し、次の日もスマホを改造して回った。俺たちを子どもだと侮ってすごんできたヤツらは力づくで話し合いをして理解してもらい、楓さん捜索資金を手渡していった。
もちろん真面目に捜索せずに着服するやつらが出るかもしれないけど、そこまで監視するつもりもない。というかそういう面倒なことは全部メサリアさんに丸投げである。
「というわけで俺たちはダンジョンに行ってくる」
午前中にすべてのスマホの改造を終わらせてお昼ご飯を食べに妖精の宿へと戻ってくると、イヴァンが庭で槍を振り回して鍛錬をしていたので声を掛けた。昨日受けた依頼はどうやら終わったらしい。
「は? ダンジョン?」
俺たちより体格のいいイヴァンは、堂々としていればベテランの冒険者に見える。なので今回に限っては一緒に行こうと誘ったりはしない。
「だんじょん?」
一緒になって何かの棒を振り回していたフォニアが首を傾げていた。よく見ればただの木の棒みたいだ。イヴァンの真似でもしていたんだろうか。ニルは振り回される木の棒にじゃれついて遊んでいた。
改めて迷宮都市のダンジョンに潜ることになった経緯を説明する。
「俺の出番はなさそうだな」
「……そうね」
何気なく呟かれたイヴァンの言葉に、莉緒がゆっくりと同意する。
一瞬だけイヴァンの出番って過去にあったかなという思いがよぎったが、彼自身の名誉のため考えないようにしておく。
「ボクは?」
フォニアが目を輝かせているが、新人を装うにはうってつけだろうか。
「でも逆に怪しすぎる気もしないでもないけど……」
幼女をダンジョンに連れていく新人っぽい冒険者は何に見えるだろうか。
「うーん……、一人で安宿で留守番させるよりは安全だからってことにする?」
フォニアの行く末について話していると、だんだんとしょんぼりしたように顔を俯ける。
「ボクの出番もなさそうだね」
あまりにも寂しそうにポツリとこぼれた言葉に胸が痛む。
「ううん、大丈夫だよ。フォニアちゃんも一緒に行こっか?」
「ホントに?」
その姿に勝てなかった莉緒が優しく声を掛けると、フォニアが元気を取り戻してきた。目がキラキラしていて眩しい。
「やったぁ!」
「……出番はないけど、俺も街には連れて行ってくれ。いろんな街を見て回りたいし」
喜ぶフォニアにイヴァンもぼそっと零す。基本的にエルは莉緒についてくるし、一人だけ置いてけぼりを食らうと思ったのかもしれない。
「はは、街にはみんなで行こうか」
「うん!」
嬉しそうにはしゃぐフォニアを落ち着かせて昼食を摂ると、そのまま迷宮都市インブランドへと全員で向うことにした。予めスマホでドロシーに連絡を入れたら出発だ。
新人に多少毛が生えたように見える服装と装備に着替えたあと、迷宮都市インブランドへと次元魔法で飛ぶ。前回と同じく街門から離れたところに出るが、今度は普通の門からの入場だ。冒険者証ではなく商業ギルド証を出して街の中へと入る。時間はかかったがこれで一般人として街に入れたに違いない。
「先に宿の確保だな」
「うん。新人冒険者に見えるように宿も安いところにする?」
莉緒の言葉に思わず眉を顰めてしまった。そうするのが一番だとは思うけど、そこまでしないといけない相手という気もしない。新人と舐めてかかってくる相手が、新人の宿まで調べて対策を練ってくるだろうか。
「ちょっと冒険者ギルドから遠いところの高級宿にしようか……」
「あっははは!」
妥協する言葉に大爆笑したのはエルだ。
「特にシュウは、見た目だけなら新人にしか見えないからね」
「ちっさくて悪かったな」
逆に今回はそれを利用するわけだけだが、エルにいじられるのは納得がいかない。むしろボンボンの新人冒険者に見られれば遭遇率アップだろ。
「お兄ちゃんはカッコいいから、だいじょうぶだよ!」
なんとなく理不尽さを感じているとフォニアが慰めてくれた。
「はは、高級宿はこっちだ」
昔にここを訪れたことがあるエルに街を案内してもらう。かなり昔だろうが高級宿泊地のエリアが変わったりはしないので問題はなさそうだ。冒険者ギルドから遠い場所を適当に選んで宿を取ると、ギルドへと向かった。
「じゃあがんばれよ」
「ああ。じゃあな」
ここからはイヴァンとエルは別行動だ。ニルは小さい状態でフォニアに抱えてもらってギルドの前まで来た。
中に入ると新人に見えるように周囲をキョロキョロと見回す。初めて来るフォニアは「おっきいねぇ」と驚いている。
「今日は情報収集だけにしておくか」
時間帯は昼過ぎではあるが、今から何も情報を持たずにダンジョンに突撃するわけにもいかない。慎重にギルドで情報を集めて新人冒険者がギルドに来たことをアピールせねばならないのだ。
「すみません」
二階には行かずに、ドロシーに予め指定されたカウンターへと近づくと職員に声を掛ける。
「はい、なんでしょう」
「ダンジョンについて教えて欲しいんですけど」
新人に接する優しい態度で職員が教えてくれたところによると、ダンジョンの入り口は街の中心にあるらしい。浅い階層は魔物もほとんど出ず、初心者でも探索が可能な難易度であり、深い階層に行くほど難易度が上がっていくとのこと。
また五階層ごとにフロアボスというのがいるらしいが、ここのダンジョンは珍しいようで五階層には出ないらしい。必ずしも次階層の前に立ち塞がっているわけでもないらしく、中にはフロア中を徘徊しているボスもいるそうだ。
現在55階層まで確認されているが、未踏破のダンジョンとなっている。踏破するとどうなるのかは教えられなかったが、最奥にはダンジョンコアとかダンジョンマスターがいたりするんだろうか。
「ダンジョンにはFランクから入れるけど――、大丈夫そうですね」
特に冒険者証を確認するでもなく、フォニアとニルに視線を向けた職員が急に真面目な態度になった。従魔のタグを見てやっと俺たちだと気が付いたんだろうか。新人冒険者に接する演技うまいなと思ってたけど素だったらしい。
「そこはご心配なく。あと、ダンジョンの地図があれば欲しいです」
「畏まりました。少々お待ちください」
こうして少々態度がお堅くなった職員から地図を入手したあとは、依頼ボードの前で物色しながら新人冒険者の雰囲気を振りまいた。
ちなみにさっそく楓さん情報を収集する依頼がボードには張り付けられており、手の届かないカウンターの内側の壁に楓さんの写真が張り付けられていた。




