第260話 ギルドのサブマスター
さすが迷宮都市の冒険者ギルドだけあって、その規模は大きかった。二列になっているカウンターと、さらに上の階にもCランク以上の冒険者が出入りするカウンターがあるらしい。
そしてなにより一番大きかったのは買取カウンターだ。ダンジョンから得られる各種素材は多岐にわたるんだろう。規模はわからないけど、ダンジョンにはちょっと興味がある。そういえばスマホのような、この世界の人間にとって用途の分からないアイテムもたまにダンジョンから出るんだったか。
「二階へ行きます」
そう告げるとメサリアさんは躊躇いなく階段を上っていく。
二階のカウンターはかなり余裕のある作りになっていた。一階と違って屈強な冒険者たちが職員と話をしているのが見える。
「ドロシー」
あたりを見回していたメサリアさんが、一声かけて一人の職員へと近づいていく。カウンターの隅で書類仕事をしていた女性職員がこちらに顔を向けると、表情が怪訝なものに変わった。
「あら、メサリアじゃないの。こんなところまでどうしたの?」
目つきが鋭く、水色の髪と相まって冷たい印象の女性だ。屈強な人間ひしめく冒険者ギルドには似つかわしくない、華奢な体格をしている。
「いろいろ言いたいことはあるけど、新しい仕事を持ってきたわ」
「へぇ?」
メサリアさんの言葉に鋭く見えた瞳がさらに細められる。他に冒険者がいる公共の場でスマホの話は出すもんじゃない。
「メサリアが直接仕事を持ってくるなんて珍しいわね。……まぁいいわ。詳しく話を聞かせて頂戴」
書類を手早く片付けると、ドロシーはそのままカウンターの奥へと歩いて行く。
「では行きましょう」
メサリアさんは俺たちを振り返ると、ドロシーの後をついてカウンターの奥へと進んでいく。俺たちも後を追いかけると会議室のような部屋にたどり着いた。
「あら、あなた一人じゃ……、エルヴィリノス・ジュエルズ!?」
俺たちのあとから入ってきたエルに、目を見開いて声を上げるドロシー。振り返ってエルを見やると、何のことかわからんと言いたげに肩をすくめる仕草が返ってきた。
「あたしはただの付き添いだから無視してくれてかまわないよ」
そう言って俺たちが座る席の後ろで直立不動の姿勢を取る。空いている椅子があるにも関わらず座らないエルを、ドロシーは不気味なものを見るような目で注視している。
「どうも。今回の仕事を持ってきた柊と、こっちが莉緒です」
自己紹介と共に軽く目礼を交わすと、ドロシーからも自己紹介が返ってきた。どうやらこの冒険者ギルドでサブマスターをしているらしい。そんな人物がこっち側の人間とかどうなってるのかよくわからん。
「ちょっと……、依頼人をこんなところに連れてくるってどういう了見よ」
「うちのマスターでもあるので何も問題はないわ」
「……は?」
「依頼内容はこれよ」
呆けるドロシーの復活を待つことなく、メサリアさんがカバンから楓さんの写真を大量に取り出す。
「この絵の女の子を探して欲しいの」
「……えっ?」
今度は楓さんの写真を見て固まっている。もはや慣れた反応ではあるが、このまま話を推し進めても相手の理解が追い付かないことはわかっているのでしばらく待つ。
恐る恐る写真に手を伸ばして手に取ると、穴が空くほどに写真を見つめている。ひっくり返して裏を確認し、また写真を観察した後にメサリアさんと俺たちへ向けた顔は、驚愕の表情が張り付いていた。
「なんなのよ……、この緻密な絵は……」
「仕事だって言ったでしょ? 死にたくなければ出所を探るのは禁止よ」
さすが裏社会を生きている人間だけあって、こう言っておけば突っ込まれないので面倒な説明が省けてよい。他の写真も見せながら、探して欲しい人物の情報を伝えていく。
「最優先の仕事として取り掛かって欲しいんだけど、今動かせる人員はどれくらいかしら」
「うちのギルドは見ての通りだから何とも言えないけど、他二つは聞いてみないとわからないわね」
「……見ての通り?」
「そうよ。うちは冒険者ギルドだから、依頼を受けるかどうかは冒険者次第ってわけ」
「んん? それって普通の冒険者ってこと?」
下部組織の人員だったら受けてくれるんじゃないかと思ったがどういうことだ?
「あくまでもここは冒険者ギルドなので、それ以上のことはできないです。私と他に数人が潜り込んでいるだけなので」
話を聞けば、冒険者ギルド全体が下部組織というわけではないらしい。潜り込んだ人間で、いろいろ情報などを横流ししているらしかった。
なので、正規の依頼として冒険者ギルドに人探しを依頼するしかないということだ。
「じゃあ何か知ってることがあれば連絡を、くらいの依頼を出しとくか」
「……人探しの依頼として出さないの?」
「手掛かりがゼロで、どこの国にいるかも不明だからな。それくらいがちょうどいいんじゃないかな」
ドロシーにそう返すと、納得の頷きが返ってくる。
「そう……。じゃあその方向で依頼は出しておきます」
「よろしく」
そうして各写真を一枚ずつ提供すると、ようやくスマホの話へと入る。
「例の魔道具で連絡したのに、なんで出ないのよ。もしかして、大事そうに仕舞ってるんじゃないわよね?」
「え?」
「こっちから連絡したら呼び出し音が鳴るでしょう?」
メサリアさんの言葉に困惑の表情しかできていないドロシー。
「普段から持ち歩かないと、すぐに連絡つかないぞ」
「はぁ!? あ、あんなすごいことのできる魔道具をほいほい持ち歩けるわけないでしょ!?」
なるほど。そういうことか。いやでも、スマホは常に携帯してもらわないとダメだしなぁ。そうなると周囲の人間に、すぐに誰かと連絡の取れる魔道具ってバレるか? うーん。これはちょっと使い方を見直すべきか……。
「……何にしろ、連絡がきたらすぐに出られるようにしておいて欲しい。あとその魔道具改造するんで、持ってきてもらえます?」
「か、改造!?」
盛大に疑問の声を上げると、目つきを険しくしてメサリアさんに顔を向ける。
「ちょっと、黙って聞いてたけど何なのよこの子どもは!? マスターって話だけでも信じられないのに、あの魔道具を改造!?」
ぎゃーぎゃーと叫びながらも素直に話を聞いていたドロシーがとうとう噛みついてきた。
ギルド本部の幹部は聞き分けがよかったけど、そこから外れるとこんなものなのかな。




