第258話 改造スマホを届けよう
あらかじめ連絡のつく幹部にはメサリアさんから連絡を入れてもらい、近くにテレポートすることになった。
「メサリアよ。今そっちはどこにいるのかしら? ……ええ、わかったわ。今から行くからそのまま待ってなさい」
スマホで強制的に今から行くと相手に告げると準備完了だ。自分が作ったスマホが、自分以外の人も使えているのを見るとなんだか嬉しい。付与した番号相手にちゃんと繋がってるみたいだし、特に問題はなさそうだな。
「単身で街道を移動中みたいなので、いつでも行けます」
「わかった。それじゃ行こうか」
メサリアさんの合図で莉緒が次元の穴を開ける。一度スマホで通信すれば相手の位置も鮮明にわかるようになったし、問題なさそうだ。
緊張に息を呑むメサリアさん。エルもテレポート初体験だからか、いつもより緊張が見える。開いた穴からはすぐに向こう側が見えており、少し離れたところから男がこちらを伺っているのが見えた。街道の真ん中っぽいけど、他に人通りはないみたいだ。
「どうぞ」
「……はい。では失礼して」
真剣な表情のメサリアさんとエルが向こう側へと出ると、後に続いて穴をくぐる。世界を超えるときとは違ってすぐに向こう側へと出た。
「マジで来やがった……、ゲッ」
兎のように長い耳を頭から生やした獣人が、メサリアさんのあとに出てきた俺たちを見て一歩後ずさる。「ゲッ」ってなんだよ。……って前に俺たちのストーカーしてたやつか。職業ストーカーってのが印象に残ってる。
「久しぶりね、ロナール」
「……やっぱりテレポートはマジだったんだな」
「嘘言ってどうするのよ」
「そりゃそうなんだが……」
言葉に詰まるロナールが視線を逸らすが、メサリアさんの後ろから出てきた俺たちと目を合わせようとしない。
「紹介しますね」
振り返ったメサリアさんがロナールを紹介してくれる。ギルドの幹部の一人で情報収集担当だそうだ。
「で、こちらが新しくギルドマスターになったシュウ様と、その奥様のリオ様よ」
メサリアさんの紹介に眉間に皺が寄る。
「ギルドマスターになった覚えはないんだけど……」
自分としては出資をしてるだけのオーナーって感じなんだけどな。
「ははっ、あれだけのことやっといてよく言うよ」
エルに突っ込まれたがスルーだ。いろいろと気になることとか探して欲しいものとかあったんだよ。
「うふふ、奥様ですって」
莉緒は何やらご機嫌だ。
「ではまずは、すまほを預かります」
「はいよ」
メサリアさん経由で受け取ったスマホに改造を施していく。多少時間がかかるので、その間に楓さんの写真を手渡して莉緒から説明が行われた。
相変わらず写真というリアルな絵に驚かれるが、別に俺たちが描いたわけじゃないからな?
「ああそうだ、探すに当たって金が必要なら惜しまずに使ってくれ」
お金が入った袋を追加で異空間ボックスから取り出すと、ロナールに手渡す。
「え?」
ずっしりとした重みにロナールが初めてこっちに視線を向けた。
「いいんですか?」
俺の急な思いつきにメサリアさんからも大丈夫なのか聞かれてしまった。
「いいんじゃない? いっぱいあるし」
代わりに莉緒が答えるが、理由はまさに「いっぱいあるから」としか言えない。
「はは……」
袋の中身を覗き込んだロナールからは乾いた笑いが漏れている。
「よし、楓さんを見つけたら成功報酬も出そう」
「マジで!?」
ふとした思いつき第二弾を口にすると、ロナールが食い気味に反応する。メサリアさんも驚いているがもちろんアナタにも出しますよ。
「もちろん楓さん本人だけじゃなくて、ヒントになる情報でもボーナスを出すからがんばってくれ。スマホがあればすぐに連絡できるだろ?」
「ええ、そうですね」
「場所が絞り込めたら調査要員の送り迎えもするわよ」
「だな。だからメサリアさんは各調査員から送られてくる情報の整理をよろしく」
莉緒の言葉にかぶせるようにメサリアさんに全体のまとめ役を押し付ける。今までやってきたっぽいし、得意そうだよね。
「畏まりました」
「もちろんメサリアさんにもボーナスは出すから安心して」
「あ、ありがとうございます」
恭しく頭を下げたメサリアさんだったが、ボーナスの話を聞いて上げた顔には戸惑いの表情が張り付いていた。
「あ、エルにボーナスは出さないでいいから」
莉緒がすかさず釘をさすと、エルは肩をすくめている。特に残念がってはいなさそうだし別にいいか。
「にしても……、こんだけ金かけて探されるカエデって奴は何者なんだ……」
「ロナール」
「あ、すまん」
報酬に目を輝かせていたロナールが、ふと真面目な顔になって呟く。
が、それはメサリアさんの一言で封殺されてしまい、それ以上はツッコんでこなかった。さすが元暗殺者ギルド。詳しいことは聞いてこないってやつが徹底されてるのか。こっちとしても知り合いの孫としか説明できないから聞かれないのはありがたい。
「じゃあがんばってくれ」
「おう、任せておいてくれ」
改造したスマホでイヴァンと話ができることを確認すると、ロナールへと手渡す。ひとまずロナール相手の仕事はこれで完了だ。
「では次に参りましょう」
「ああ、わかった」
またもメサリアさんが電話をかけると、次の現場へと飛ぶために莉緒が次元の穴を開ける。世界を跨がない場合は消費魔力はやっぱり少ないらしい。これなら俺でもできるかもしれないな。次は自分でやってみるかと思いながら次元の穴をくぐった。




