第256話 ギルドへの依頼
「シュウ様!」
ノックもなく開けられた扉の先にいたのは、妖精の宿の女将であるメサリアさんだった。
「やあ、ただいま」
執務室にいきなり現れた俺たちの気配に駆け付けたといったところだろうか。
「リオ様も……、皆様も変わりないようで安心しました」
勢いで部屋へと入ってきたメサリアさんが、ノックなしに部屋に入ったことによる謝罪とともに安堵のため息をついている。俺たちがエルの前から消えてからすでに十日近くたってるはずだ。
「そういえばエルは?」
メサリアさんの後ろには誰もおらず、廊下の向こう側の壁が見えるだけだ。一緒に召喚されなかったからといって、この世界に残されたわけでもないとか?
思わず聞いた莉緒に、メサリアさんが笑顔で答えてくれる。
「エルなら三日ほど前に宿に帰ってきましたが、それからずっとこの宿でお二人が帰ってくるのを待っていたみたいです」
「へぇ……」
その割にはメサリアさんが真っ先に駆け付けたみたいだけど。気配察知を広げれば確かにエルもいるみたいだな。こっちに向かってるみたいだしもうすぐ顔を出すか。
――と思っていれば。
「ほら、すぐに帰ってきただろ?」
空いたままの執務室の扉の向こうからエルが顔を出すと、ドヤ顔でメサリアさんにそんなことを言い放った。
「……それはそうだけど」
憮然とした表情のメサリアさんに、エルが俺たちに「久しぶり」と挨拶をしつつも顛末を話してくれた。
俺たちが目の前から消えてすぐ、エルはフェアリィバレイへと引き返していったらしい。メサリアさんに話すと血相を変えて今すぐ俺たちを探そうと言い出したらしいが、エルはそれを鼻で笑い飛ばしたみたいだ。あんなので俺たちをどうにかできるわけがないと信じてくれるのはありがたいのかなんなのか。
「にしてもなんでここまで戻ってきたんだ?」
俺たちが召喚されたのは、フェアデヘルデ王国の国境手前だったはずだ。そこからフェアリィバレイに戻るまでにもいくつか大きい街はあったし、召喚された場所に戻ってくる可能性もゼロではない。
「だってここの場所を記憶してただろ?」
ニヤリと笑いながら床を指差すエル。特に説明した覚えはないけど、何をやったかはわかってたらしい。
「それで、どこに行ってたんだ?」
しかしそんなことはどうでもいいとばかりに真顔になると、あのあとどうなったか尋ねてきた。
「そんなことが……。捜索については畏まりました」
今まで起こった流れと、楓さんの捜索依頼を受けた話をしたところ、メサリアさんからそんな言葉が返ってきた。もちろん捜索は新たに設立した情報ギルド『ヒノマル』に依頼するつもりだったから問題はない。
「へぇ、……神って言っても色んな奴がいるんだね」
もちろんクソ女神についても二人には話した。この世界には女神を祀ってる神殿があるが、二人とも特に女神を信仰しているということもなく反発はなかった。実在することに疑問も持たれなかったところをみると、それなりに歴史上に出てきたりしているんだろうか。まあそれはどうでもいいか。
「これがターゲットの写真だ。いっぱいあるから捜索要員に配ってくれ」
メサリアさんに写真の束を渡すと息を呑む音と共に目を見開いている。
「……す、すごい精密な絵ですね」
何に驚いてるのかと思ったらそんな感想が聞こえてきた。この世界にカメラなんてないからね。絵画がどこまで発展してるかは知らないけど、写真に勝るものは存在しないんだろう。
「他にも建物の写真とかもあるから場所の特定をお願い」
「は。畏まりました。すぐに手配をいたします。さっそくシュウ様の作成なさったすまほの出番ですね」
聞けば俺が作ったスマホを持たせて幹部の数名が各地の支部へと配達中らしい。通信が届けば近い者は引き返してもらって写真を持たせてもいいだろうとのこと。なんならいくつかは俺たちで写真を届けてもいいけどね。
「うん。あ、そういえば、食材の調査は打ち切ってもいいから、楓さんの捜索に力を入れてくれる?」
「あ、はい。承知いたしました」
食材については、女神に飛ばされた先の世界で見つけた話をすると、いくつか仕入れてきたブツをメサリアさんへと手渡す。
「あっちで手に入れたからね。普段の活動で見つけたら報告してくれる程度でいいよ。だから今日は味を覚えてもらおうかな」
「それいいわね。美味しいことがわかったらこの世界でも作ってくれるようにならないかしら?」
おお、確かにそうなったら嬉しいかもしれない。発酵とかしないとダメだし、この世界で美味しいものができるのにも時間はかかると思うけど普及すればいいな。
次に日本に戻った時は普及用にもうちょっと大量に仕入れるか……? といってもあんまり仁平さんのお金で買い集めるのもなぁ……。まぁそれはあとで考えよう。
「ではそちらは宿の料理人に頑張ってもらいましょう。作り方などは商会に連携を取ってもいいかもしれませんね」
「それもそうね」
「前にもフルールさんにレシピ売ったし、それでいこうか」
莉緒と顔を見合わせると頷き合う。
調味料の作り方もあっちで調べてしまえばいいのだ。実物もあるしそう難しくないだろう。自家製醤油や味噌作りのキットなんてあるかもしれないし。
エルも俺たちが美味いと推す調味料には興味があるようで、仕入れてきた醤油のプラスチック容器をひっくり返したりしている。……と思ったけど、もしかしたらプラスチック容器が珍しいだけかもしれない。
「それではいろいろと準備をしてまいります。露天風呂の修理も終わっておりますが入られますか?」
「お、修理完了したんだ。じゃあ入ろうかな」
「お風呂!」
「ははっ」
話に入って来られなかったフォニアが耳をピンと立てて反応すると、場が和むのであった。




