第255話 ようやくの帰還
「他に必要なものはあるかね」
一通り写真の印刷をしてもらっている間、仁平さんにそう尋ねられる。
「うーん。欲しいものはいろいろあるんですけど」
服や生活用品の小物だったり各種食材調味料だったり、そういえばイヴァンたち用にベッドを新調するのもありだよな。
莉緒の魔力はもう回復してるから、あとは各種物資を仕入れることができれば楓さんを探しに戻ってもいいかもしれない。
「そういえば、こっちの日本に戻ってくるときはどこに出て来ればいいでしょうか」
ふとこっちに来た時にいた洞窟を思い出して尋ねてみる。どこかの座標を覚えておこうとは思ってるけど、さすがに街中にいきなり現れるのはないと思うし。
「どこに出てくる……とは?」
が、うまく通じなかったようで疑問が返ってきた。
座標を記憶することはできるが、最初に来た時には山の向こうの洞窟に出てきて、そこからあのコンビニまで歩いてきたことを話す。
「ふむ、なるほど」
顎に手を当てて考えていた仁平さんがふと顔を上げて、こんなことを言い出した。
「それなら、うちの社員寮を使うといいんじゃないかな」
「へ?」
仁平さんの提案に思わず声が出た。
「丸ごと寮として使ってるマンションが近くにあるからね。空いてる部屋はあったと思うから心配ないよ」
「いやいや、寮なんて借りてもほとんど使わないですよ?」
主に活動するのはあくまでも異世界だ。こっちの日本にも報告にはちょくちょく来るとは思うけど……、と考えたところでふと思いなおす。
「たまにホテルに泊まるくらいなら、寮の方がトータルで安かったりします?」
「ははは、泊まるホテルのグレードによるんじゃないかな。素泊りホテルなら安いだろうけど。……だけどいつでも休める拠点はあったほうがいいと思うよ。もしかしたらホテルを取れない日もあるかもしれないし。お願いしているのはこちらだし、遠慮なく使ってくれてかまわない」
「……そういうことなら」
仁平さんに押されて頷くと、いい笑顔が返ってくる。
「うむ。用意できるのは明日になると思うから、もう一泊分同じホテルの部屋を取っておこう。今まで一切手掛かりもなかったからね。援助は惜しまないつもりだよ」
「ありがとうございます」
話がひと段落したところで会議室の扉がノックされる。入ってきたのは、先ほど俺たちのスマホを持って行った人物だった。
「ご苦労」
仁平さんが労ってスマホの入った箱を受け取ると、そのまま俺たちへと渡してくれる。
「さっそくスマホの設定をしてしまおうか。儂の連絡先も入れておかんとな」
そしてお昼前まで時間をかけてスマホの各種設定を終わらせるのだった。
印刷してもらった写真を受け取ってお昼ご飯をご馳走になった後、仁平さんと別れて各種物資の調達へと走った。おすすめのお店を聞いたところ、倉庫店なるものを教えてもらったので全員で向かったのだ。服や生活雑貨などを買い揃え、食材調味料もそれなりに仕入れた。
倉庫店で手に入らなかったものは、各種専門店が入る大型モールで仕入れている。どちらにしろニルは留守番をしていたので、なんとなくストレスが溜まってるような気がしないでもない。
「戻ったらいっぱい遊ぼうか」
「わーふぅー」
首をわしわし撫でると低い声が返ってきた。
そして必要な物資を買い揃えた翌日。
「よし。じゃあ帰るか」
「うん」
「おう」
「かえろー」
「わふっ!」
すでに仁平さんからも社員寮の部屋の鍵を受け取り、こちらの世界の拠点として次元魔法で座標を記録し終えたあとである。
社員寮といいつつも、10階建てマンションの最上階の一室である。寮にしては広めの2LDKに、9階の屋上を利用した広いベランダが付いている物件だ。
「今度は邪魔されないようにしないとな」
「もう違う世界に飛ばされるのは勘弁してほしいけど……、できるのか?」
イヴァンに心配されるが、さすがにクソ女神の介入を防げるかどうかはわからない。仮にも神と名のつくやつらだ。
「一応結界魔法を応用して防御はしてみるけど。……保証はできないわね」
「やらないよりはマシ程度かもしれないけどな」
「そこはなるようにしかならないか」
寮の戸締りなどを終えると、莉緒の魔力が高まっていく。すると前回と同様に、莉緒の前に次元の穴が開き、徐々に大きくなっていく。
「もう通って大丈夫よ」
「わかった」
開き切ったところで真っ先に穴へと入っていく。今度向こう側に女神が姿を現した場合には、即座に狙撃魔法をぶち込めるようにだ。イヴァンとフォニア、ニルに続いて莉緒も最後に次元の穴へと入ってくる。
――と、警戒するもほどなくして、向こう側へとついてしまった。
「……あっけなかったわね?」
出てきた場所はフェアリィバレイにある妖精の宿の執務室だ。街を出るときに念のためと記憶していた座標である。滅多に使われる部屋でもないため、俺たち以外に人はいなかった。
今度は莉緒のMPも枯渇しなかったようだ。出てきた穴を塞いで周囲を見回している。
「やっと帰って来れたなぁ」
幾分か気を抜くと、部屋にあるソファへと腰を下ろして大きく息をつく。
「まったくだ」
「まったくだ!」
実感の籠ったイヴァンの声に、それを真似しただけのフォニアの声が続く。莉緒が「ジュース飲む?」とペットボトルを取り出すと真っ先に飛びついている。
一息ついたところで、慌ただしい足音が執務室へと近づいてきた。




