第254話 手掛かり
渡された用紙に書けるところだけ書いていく。と言っても本当に書けるのは名前と年齢くらいだった。住所も電話番号もないし、この世界に両親もいないから未成年に必要な親の同意とかも用意できない。
「よし、ありがとう。空白部分はこちらで適当に埋めておくよ。……って二人は姉弟だったのか」
書き終えた用紙をチェックしつつ、仁平さんが呟いている。二人とも苗字が水本だからな。お互い十六歳だけど、姉弟って考えたほうが自然なのかな。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは新婚さんだよ?」
わざわざ訂正する必要もないかと思っていたら、フォニアが首を傾げていた。
「そうなのかい。十六歳と書いてあったからびっくりしたけど……、素晴らしいじゃないか!」
「はぁ、ありがとうございます?」
なぜだかよくわからないけど絶賛する仁平さんには曖昧な反応しかできない。
「その若さで結婚を決断できるのは素晴らしいことだ。年々結婚年齢は上昇しているからね」
大きくため息をついているけど、身内にまだ独身の人がいるんだろうか。深くはツッコまないでおこう。
書類を書き上げた仁平さんはどこかに電話を掛けると、しばらくして会議室の扉がノックされた。俺たちが選んだスマホと、書き上げた書類を訪ねてきた人物に渡すとそのまま去っていく。
「スマホを使えるように設定してもらうから、しばらく待っていてくれ。たぶん一時間もかからないはずだ」
「わかりました」
「改めてもう一度、楓の捜索依頼を受けてくれてありがとう。感謝する」
居住まいを正して椅子へと座りなおすと、仁平さんが改めて頭を下げてきた。
「いえ、いいんですよ。頭を上げてください」
「ああ。……さっそくだが、まずはこれを渡しておこう」
そう言って差し出されたのは、ピースサインをしてニカッと笑う女の子の写真だった。少し茶色の混じった肩で切りそろえた黒髪に、デニム生地の膝上までのオーバーオールと、白とピンクのストライプ柄の長袖を着込んだ活発そうな印象の少女だ。
「この子が……」
「そうだ。孫娘の楓だ」
そう言葉にする仁平さんの表情はとてもだらしなくなっている。
怒って頬を膨らませる楓は可愛いとか、失敗して照れる楓さんは可愛いとか他にも情報はもらったけど割愛しておく。
「これくらいしかないんだが、他に何か必要な情報はあるだろうか」
「うーん……、そうですねぇ」
「楓ちゃんのスマホで撮った写真や動画は確認されました?」
考え込んでいると、莉緒が仁平さんにひとつ言葉を掛ける。
「いや……、それは確認していないが……」
「もしかすると行方不明先の風景が写ってるかもしれませんよ。どこにいたのか手掛かりになるんじゃないでしょうか」
「そ、そうか!」
仁平さんはハッとした表情になり、内ポケットから楓さんのスマホを取り出すと写真を探し始める。
「こ、これは!」
「何かありましたか?」
「楓がいなくなったあとの日付の写真があったぞ!」
興奮した仁平さんがスマホの写真を見せてくれる。そこに写っていたのは目つきの悪い顔を訝し気にした女だった。ワインレッドの髪を右側にまとめて胸元に垂らし、ふくよかな体つきと厚化粧から不健康そうに見える。華美な装飾品を見ると、不摂生な食生活でもしているように邪推してしまう。
背景には石造りの壁が見えるが、どこかの室内だろうか。
ページを送っていけば、何もない土の地面が写っていたり、地面に描かれた魔法陣らしき模様の一部が写っている。もしかしてこれが楓さんを召喚した魔法陣だったり?
「楓!」
次に見えたのは床に尻もちをつく女の子だ。さっき渡された写真に写る少女の面影があるが、怯えたような表情になっている。なんとなくスマホを取り上げた人物が撮影したような印象を受ける写真だ。あの世界にカメラという風景を切り取る道具は、それこそ『魔法』のように映るだろう。
その後は豪華な屋敷の部屋の風景が数枚あるだけだった。
「ちなみにだが……、さっき写っていた女に見覚えはあるだろうか?」
眉間に皺をよせていた仁平さんが、ふと気が付いたように尋ねてくる。が、もちろん見覚えなどないので首を左右に振ることしかできない。
「そうか……」
「でも写真があればまだ探しようはあるかもしれないです」
落胆を見せる仁平さんにそう声を掛ける。
まったく手掛かりがなかったことを考えればむしろ上出来な方じゃなかろうか。それにこういった探しモノに向いた組織にも心当たりがあることだし。
「そう……だな。他にも手掛かりが出てきたことを喜ぶべきか」
「ですね。それとお願いがあるんですけど、楓さんの写真と、スマホに入っていた向こうの世界の写真を大量に印刷して欲しいんです」
「お、おお、わかった。すぐに用意させよう」
俺が言いたいことにすぐにピンときたのだろう。疑問をさしはさむことなく仁平さんが快諾してくれる。
これでいろいろと捜索も捗るだろう。向こうの世界の言語で探し人のポスターを作っても良し、それぞれの街にある冒険者ギルドに依頼を出してもいい。それに――
「なるほどね……。じゃあさっそく見せてもらうってわけね。――情報ギルド『ヒノマル』の捜索能力とやらを」
などと考えていたら、心の中で思っていたことをどこかで聞いたことのあるセリフに置き換えて莉緒が呟いていた。




