第253話 現代日本での一泊
すき焼きを食べた後、柳原さんに予約を取ってもらっていたホテルで一泊することになった。同じビルに入っていたホテルはやはりペットはダメだったんだが、柳原会長の一声で押し込んだ形だ。
そして明日の朝から72階の会議室で話の続きをすることになっている。入館証となるカードをもらったので、俺たちだけで直行可能だ。
「思ったより広いわね」
「だよなぁ。そんなにいい部屋じゃなくてもよかったんだけどな」
部屋の入り口を開けるとリビングがあり、そこからツインルームに続く扉が二つある部屋だった。部屋も高層階にあって眺めもいいし、そこそこの広さがあるので結構いい部屋なんじゃないかと思う。
「しかし今日は一日疲れたな……」
「いやまったくだぜ。いろいろありすぎて気づいたらもう夜だしな」
「でもいろいろ美味しいもの食べられたから、ボクは嬉しいな」
確かにフォニアは純粋に楽しんでたな。会議室での話し合いの時も窓から景色見てたと思ってたら寝てたし。
「とりあえず風呂入って寝るかー」
「じゃあ先に入ってくるわね。フォニアちゃん行こっか」
「うん!」
「いってらー」
大きく欠伸をすると莉緒たちが先にお風呂へ行ったので手を振って見送った。
「柊」
リビングでイヴァンと日本の現代社会などについて話をしていると、莉緒とフォニアがお風呂から上がってきた。
「ん? どした? って次は俺の番か」
「そうだけど、そうじゃなくて」
風呂の順番が回ってきたかと思って腰を上げたところで待ったがかかる。
「食材以外にもいろいろ補充しないとダメなことに気が付いたの」
「うん? どういうこと?」
「とりあえずお風呂に行けば実感できると思うから、またあとでいいかしら」
それだけ告げると莉緒はそのままソファに座ってフォニアの頭を拭く作業に専念するようだ。よくわからんが行けばわかるってことだし、行ってみるか……。
「んじゃま行ってくる。ニル、行くぞ」
「わふっ!」
ニルが力強く返事をすると、尻尾を振りながら付いてくる。
脱衣所で服を脱いで風呂場へ入る。そこに置いてあるのは石鹸はもちろん、シャンプーとリンスが備え付けられている。石鹸以外はあちらの異世界では見なかったやつだ。
「もしかするとこれのことなのかも……?」
久しく入ってなかった現代の風呂を満喫する。
シャンプーで頭を洗ってリンスをつけてみると、髪がちょっとだけツヤツヤさらさらになった気がした。ニルも盛大に洗ってやると毛並みがツヤツヤだ。
風呂の使い方もイヴァンに教えないとダメそうだな……。「風呂自動」とか「追い焚き」とかボタンのついたパネルを見ても使い方わからんだろう。やっぱり現代の利器はいろいろと便利だよなぁ。
……などと考えながら風呂から上がると、イヴァンに使い方を教える。とはいえすぐに使い方をマスターできるわけでもなく、風呂に入っているイヴァンからたまに叫び声が響いてきた。
莉緒と話をすれば思った通り、シャンプーやリンスのことだった。異世界の生活に慣れてしまった俺たちだったけど、こうやって現代で生活するとあれもこれも欲しいってなるのかもしれない。
翌朝。さっそく手持ちの服で現代日本で着ていても違和感の少ない服装へと着替える。とはいえこの違和感は完全にはゼロになってくれなかったが。
ホテルで朝ごはんを食べてチェックアウトすると、約束の午前十時に同じビルの72階会議室へと向かう。寝心地の良すぎるベッドにイヴァンがひたすら感動していたが、確かにベルドラン工房で作ってもらったベッドに引けを取らなかった気がする。
「失礼します」
「ああ、来てくれてありがとう。ホテルではよく眠れたかな」
部屋に入ると仁平さんに笑顔で迎え入れられる。十四郎さんはいないようで姿が見えない。社長と会長だと、やっぱり社長の方が忙しいのだろうか?
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
宿泊費用はもちろんあちら持ちだ。殺伐とした異世界で過ごしてきたからか、日本人の優しさというか穏やかなところに触れるとなんだか恐縮してしまう。
「さっそくだがどのスマホがいいか選んでくれるかい」
そう言葉にする仁平さんの前のテーブルには、各種スマホがこれでもかと並べられている。DORAGON社のキャリアで使えるハイエンドスマホらしい。
「……全部一緒に見えるんだけど、何が違うんだ?」
腕を組みつつ顎に手を添えるイヴァンが、眉に皺を寄せている。確かに全部見た目は平べったい板みたいなやつだ。そこに違いなどない。
「はっはっは。いろいろと性能は異なるがね。これは――」
と説明をしてくれる仁平さんだったが、俺もスマホの性能には詳しくない。プロセッサがどうこう言われてもさっぱりだったので、とりあえずおススメを言われるがままに選んでおいた。
「イヴァンくんもどうだね?」
スマホを遠巻きにして眺めているイヴァンに仁平さんが声を掛ける。
「うーん……、あんま使いこなせる気がしないので、俺は遠慮しておきます」
「ボクもよくわかんない」
「はは、そうかい。必要になったらいつでも言ってくれ」
「はあ、ありがとうございます」
苦笑いを浮かべるイヴァンだったが、しばらくは俺たちのスマホを貸してもいいかもしれない。現代人でもこういった情報機器の使い方が苦手なヤツもいるし、欲しいと思ったときにまた頼んでみよう。
「では柊くんと莉緒くんのスマホを二台だな。主な手続きはこちらでするが、名前や年齢など書けるところは書いてもらえると助かる」
そう言葉にすると、スマホの契約書を二人分差し出してきた。




