第250話 社長と会長
車を降りると、そこは100台は車を停められそうな広さのある駐車場だった。半分くらい車で埋まっているが、ここはどこだろうか。オフィスへ移動とか言っていた気がするけど……。
ここは地下のロータリーらしく、目の前にはオフィス内部へと続く入り口がある。
先に車から降りて待っていると、柳原さんが最後に降りてくる。
「さぁみなさんこちらへ」
全員が下りると運転手さんが扉を閉め、そのまま車を移動させて去っていった。俺たちは柳原さんの後をついてオフィスへと入っていく。エレベーターがいくつかあるフロアを通り抜け、奥にある扉にカードをピッと翳して開けると入っていく。そこにもエレベーターが一台あり、柳原さんが上ボタンを押していた。
「なんか……、すごく大きな会社ですね」
「はは、そうだろう。それだけは自慢ができる会社だったよ」
力なく過去形で話す柳原さんに疑問が浮かぶが、今は置いておこう。
「さぁ行こうか」
到着したエレベーターに乗り込むと、俺たちも続いて入っていく。さすがにフォニアも起きたようで一緒に歩いて行く。
「え、ここ? ……狭すぎねぇ?」
後ろから聞こえてきたイヴァンの小さい声に吹き出しそうになったが堪える。ここは部屋じゃないぞ?
全員が乗り込むとエレベーターの扉が閉まる。最上階である72のボタンが点灯しているので、そこまで行くのだろう。
ゆっくりと上昇していくと階層表示の数字がどんどん加算されていく。
「うおっ!?」
「おおー!」
「……すごいわね」
「たかーい!」
5階を越えたところでエレベーターの側面がガラス張りとなり、外の景色が見えるようになる。東京都心もかくやといった都会の景色がそこにはあった。こっちの世界の日本の首都がどこにあるかわからないけど、ここが発展しているのは間違いない。
「はは、キミたちは高いところが平気みたいだな」
エレベーター入り口に側に立ったままの柳原さんが、表情を少しだけ引きつらせている。オフィスと言っていたからここで仕事してるんじゃないかと思ったけど、慣れないものは慣れないってことなんだろう。
俺たちは空飛んでるうちに慣れただけですけどね。
目的階に到着した俺たちはエレベーターを降りて、最上階にある部屋へと案内された。
会議室らしいその部屋には、中央に七人ずつくらい向かい合って座れるテーブルが置かれている。壁は一面ガラス張りの窓になっていて、都会のビル群を見下ろせるようになっている。
「よく来てくれた。待っていたよ!」
その真ん中の席に座っていた男が勢いよく立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。柳原さんを若くして、顔のつくりを柔和にした感じの明るめのスーツを着た男だ。たぶん柳原さんの息子さんで楓さんの父親だろうか。
「もう来ていたのか」
「ああ、楓の手掛かりだ。のんびり仕事なんてしていられんだろう」
男は柳原十四郎と言い、予想通り楓さんの父親だった。紛らわしいのでお爺ちゃんのことはこれから仁平さんと呼ぶか。
世界をまたにかける五大通信会社のひとつ「DORAGON」の社長と会長らしい。やっぱり聞いたことがなかったけど、なんかすげぇ人の孫のスマホを拾ったもんだな。
自己紹介と共に俺たちも椅子に座る。魔人族のところと違って、ちょうどいい高さの椅子だ。ニルが飛び乗ったところで十四郎さんがギョッとして目を見開いた。
「思わずここまで連れてきましたけど……、大丈夫ですか?」
「あー、えー、まぁ……、かまわんだろう……」
首輪もしていないニルを見て言葉を濁すが、ひとまず許可してくれたのでよしとしよう。
「オホン。ではさっそく話を聞かせてもらえるかな」
「わかりました」
十四郎さんがテーブルにノートパソコンを広げて待機する。こうして俺たちと柳原さんたちの話し合いが始まった。
「まずはこれが……、楓さんのスマホです」
ポケットに入れていたスマホを取り出すと、仁平さんの前のテーブルに置いた。
「おお……」
感慨深そうに手に取るとあちこち触って観察して、息子の十四郎さんへと渡す。受け取った十四郎さんもスマホを操作しているが、耐えきれなかったのか一筋の涙が頬を伝っている。
「確かに、このスマホは楓のもので間違いなさそうだ」
そうして見せられたスマホの画面には、俺たちがどうやってもロックを解除できなかったホーム画面が表示されていた。そこにはどこかの家で撮影したのか、真ん中に子猫が写った写真の壁紙にいくつかのアイコンが並んでいた。
「そうですか。じゃあそのスマホはお返ししますね」
「ありがとう。きちんとお礼はさせていただくが、まずはこれを手に入れた経緯を教えてもらえないだろうか」
「わかりました」
十四郎さんもいるので、「信じてもらえないかもしれませんが……」と断りを入れて、これまでの経緯を説明する。この世界ではない日本からきた俺たちが異世界に召喚され、その世界でスマホを手に入れた後また世界を飛んでこちらに来たという話だ。魔人族の世界の話はややこしいし関係ないので端折っている。
「え……? 異世界……?」
話を聞いてポカンとしていた十四郎さんが、表情をそのままに心ここにあらずといった感じで呟いている。ある程度車の中で話した仁平さんは、渋面を作ったままだった。




