第248話 この世界にできた接点
「……なんとなく知ってる日本と微妙に違うな」
コンビニ入り口近くの雑誌売り場でドライブマップを見つけた俺は、さっそく中身を開いて目に入った日本の地形を見て呟いた。南北に細長いのは間違いないが、なんかこう、違和感がある。
「なんだろうな……」
他に世界地図も見てみたいが、さすがにコンビニにあるドライブマップだけあってそこまで広範囲は載っていない。
北は北海道から本州があり、淡路島や四国九州の島もちゃんとある。名前は全然違うけど。うーん、形が微妙に違うのか……、それとも名前のせいなのか、わからん。
とりあえずここは大阪あたりの場所らしい。地図上では白河崎県って書いてあるけど。ややこしいなもう。
「他の本は……」
漫画に至っては知ってる作品がひとつもなかった。ゴムが人間になるやつとか鬼を片っ端からナンパするやつとか、ちょっと続きが気になってたんだけどなぁ。
こっちは芸能雑誌か。知ってる有名人が一人もいない……。国名は日本なんだけど、自分のまったく知らない日本が存在することにすごく気持ち悪さを感じる。
「はぁ……」
知っているけど知らない世界に大きくため息をつく。コピー元の自分がいない世界とわかって安心といえば安心だけど、調べれば調べるほどに増えてくる違和感にすごく複雑な気分だ。よく知る世界ではあるけど、すごく居心地が悪い。へぇ、と思えることもあるから全部が全部悪いってわけじゃないんだけどね。
そうしてしばらくコンビニの雑誌コーナーで時間を潰していると、ポケットに入れていたスマホに着信が入った。名前を見ると『じぃじ』だったので、みんなに戻ってくるように先に念話で連絡しておく。
「はい、もしもし」
『ああ、待たせたね。近くまで来たんだが、場所はコンビニでよかったかな?』
「あ、はい。コンビニで大丈夫です」
『承知した』
外に視線を向けると、この場所に似つかわしくない高級車が駐車場へと入ってくるところだった。今までテレビでしか見たことなかったけど、あの長い車体はリムジンとかいうやつだろうか。
何も買わずにコンビニを出ると、スマホ越しに今出てきたのが自分だと伝える。
普通車しか駐車スペースの取っていない場所にリムジンが入ってくる。ちょっとはみ出してるけど仕方がない。運転手がさっと降りて後ろのドアを開けると、スマホを耳に当てたままの男性が姿を現した。ビシッとした紺色のスーツを決め、頭に白髪の混じった渋い男性だ。
同じようにスマホを耳に当てた俺を視界に捉えると、驚いた表情でスマホをポケットに仕舞い片手を挙げる。
「キミが楓のスマホを見つけてくれた人物で合っているかい?」
「はい、水本柊です」
「おお、これは失礼。儂は柳原仁平という。本当に、手掛かりを見つけてくれてありがとう」
噛みしめるように言葉にするとお互いに握手を交わす。
「いえ、たまたまなので……」
「ああ、それでもだ」
がっちりと握り合った手を離すと、柳原さんがぐるっと周囲を見回してまた俺に視線を戻す。
「そういえば一人なのかい?」
電話越しに俺以外の声が聞こえていたからだろうか。もう戻ってきてるんだけどね。
「あ、すみません、お待たせしました」
後ろから聞こえた声に振り返り、ギョッとしたのか一歩後ずさっている。服装もそうだけど、全身ローブにフードを被った大男のイヴァンはそれなりに威圧感があるんだろう。
「ああ……、大丈夫だ……。改めて自己紹介しよう――」
そう言ってもう一度名乗ると、一人一人としっかりと握手を交わしていく柳原さん。
「莉緒です。よろしくお願いします」
「イヴァンです」
「ボクはフォニアだよ! この子はニルって言うの」
「わふぅ!」
フォニアと握手するときにはしゃがみこんで、しっかり目線を合わせていた。そして頬が緩んでいたのも見逃さない。うちのフォニアは可愛いのだ。
「さて、さっそく場所を変えたいんだがいいだろうか」
「かまいませんよ」
「そうか、では行こう」
というと停めてあったリムジンへと引き返すと、運転手にドアを開けさせて笑顔で振り返り。
「遠慮なく乗ってくれ」
とだけ言うと、車内へと乗り込んでいく。
「えっ、この車……」
莉緒がリムジンを見て足を止める。
「お邪魔します」
好奇心の勝った俺は、そのまま車の後部のドアの中へと乗り込んでいく。
広々とした空間はすごく開放感がある。扉のあった反対側の側面はすべて座席になっており、入ってすぐ左側にはテーブルと各種のカップやグラス、その向こうに冷蔵庫があった。運転席に近い側は大型のテレビが埋め込まれている。
後ろから遠慮がちに莉緒が乗ってくるとフォニアとニルが続き、最後にイヴァンが腰をかがめておっかなびっくりした様子で入ってきた。
扉が閉められると運転手が運転席へと乗り込んできたので、柳原さんが声を掛ける。
「オフィスまで頼む」
「かしこまりました」
そしてゆっくりと動き出すと、フォニアとイヴァンから驚愕の声が聞こえてきた。
「あ、そういえば今更ですけど、ニルも乗ってよかったんですか?」
「はっはっは。かまわんよ。それに置いていくわけにもいかんだろう」
足元で伏せるニルを撫でながら聞くと、笑いながら答えが返ってきた。
たとえ高速道路で飛ばしても走って追いかけてこれるだろうけど、そんなことしたら通報されてえらいことになりそうだし黙っておいた。




