第246話 これぞソウルフード
「ごめんな、ニル」
買い物ができると判明してからは、改めてコンビニで他にも買い込んで店の外へと出てきた。そこそこの広さのある駐車場には停まっている車も少ないため、隅を陣取って飯の時間にすることにした。
本来なら公園とか探したいところだけど、生憎と地理に疎いため……というか早くおにぎり食べたいだけだったりするけど。
「わふぅ!」
ニル用にお肉系の食べ物と、ペット用おやつジャーキーを試しに買ってみたらご機嫌になった。案外チョロいかもしれない。
小さいテーブルを異空間ボックスから取り出し、今すぐ食べないものは逆に仕舞っていく。道路に多少人通りはあるけどそこまで目立つもんでもないだろう。
「おいひぃ」
ケーキの蓋をさっそく開けたフォニアが、フォークを片手に口を動かしている。莉緒はカップみそ汁の蓋を開けて中に入っていた味噌と具を入れると、指先から魔法で熱湯を注ぎだした。俺とイヴァンの分を含めて三つ分だ。
スプーンでくるくるとかき混ぜると順番に配ってくれる。
「……どうも」
受け取ったイヴァンが早速匂いを嗅いでいるが、茶色いヘドロ状の物体をお湯で溶かしただけのスープに不安を感じるのはわかる気がする。
俺も莉緒から受け取ると匂いを嗅いでみる。うむ、味噌汁の匂いだ。すげー懐かしい……。冷ましながらちびりと口をつけると、味噌の香りがふんわりと広がっていく。
「はぁ……、うめぇ」
魔の森を彷徨った後に師匠に食わせてもらった料理をちょっと思い出してしんみりする。
「美味しいわね……」
「おぉ……?」
莉緒に続いて味噌汁を啜ったイヴァンが首を傾げつつもう一口啜る。が、なかなか止まらないようで何よりだ。
「なんかホッとする味だな」
「俺たちのソウルフードだからな」
「なるほど」
「次はおにぎりだな」
三角形のてっぺんからフィルム一周して裂くと、左右に引っ張って完成だ。戸惑うイヴァンにももう一つのおにぎりで実演をすると手渡してやった。
一口目はみそ汁と同じように首をひねっていたが、二口目で具に到達しただろうからか、残りは一気に食べていた。
「美味い」
「そりゃよかった」
「……ボクにもちょーだい」
満足そうにする俺たちにとうとうフォニアも根負けしたようだ。ケーキを食べ終わった後で、おにぎりと味噌汁を莉緒から一口ずつもらっていた。一口じゃすまなくなってたけど。
「おなかいっぱい。美味しかった!」
「まだまだ美味しいものはいっぱいあるからな」
「うん! 楽しみ!」
コンビニじゃなくてもっと大量に仕入れられるところに行きたいところだけど、果たしてこのままスマホ決済を使い続けてよいものか。
プリペイドなのかクレジットなのかもよくわかっていない。プリペイドなら残高があるだろうし、クレジットなら止められたら終わりだ。というか使っちゃダメだったんだろうけど、おにぎりと味噌汁に負けてつい買いこんでしまった……。
「どうした?」
眉間に皺を寄せているとイヴァンが声を上げた。
「ん? あぁ、今回はたまたまコレで買い物ができたからいいけど、今後どうすりゃいいのかと思って……」
「そうよね。適当に魔物を狩って売るなんて方法は使えないでしょうし」
「そうなのか?」
いまいちどういうことかわかっていないイヴァンが首をひねる。
いざお金を稼ごうと思ったけど方法がわからない。普通の高校生ならバイトという手があるんだろうけど、今の俺たちには無理じゃないかな。
「さて、腹ごしらえも終わったところで、どうしますかね。戻るにしてもまだ莉緒のMPは全快じゃないだろうし」
「三割ってところかしらね」
「探検したい!」
ゆっくりと頷きながら莉緒が答えると、フォニアがまっすぐ手を挙げて叫ぶ。
「フォニアじゃねぇけど、ここは珍しいものが多いからな。いろいろ見てみたいのはある」
イヴァンが頬を掻きながら正直に白状する。気持ちはよくわかる。俺たちが初めて魔法に触れたときみたいなものだろう。
「ふふ、だけど買い物はできないかもしれないわよ?」
「えっ? そのすまほで買えるんじゃ?」
「現金じゃないけど、落とし主の物だからな。この国じゃたぶん犯罪だ」
「なんでだよ。普通落とした奴が悪くね?」
納得できないイヴァンだが、これも文化というか育った環境の違いなのか。落とした財布が中身付きで帰ってくる日本は素晴らしい。
などと話し合っていると、テーブルの上に置いていたスマホが着信音を奏でだした。
「「「「!?」」」」
予想していなかった事態にフォニアやイヴァンどころか、俺たちも身構えてしまう。
「な、なんだコレ!」
ニルも一瞬警戒するが、すぐに危険はないと察知して落ち着いている。
「えーっと、これは……、電話に出た方がいいのか?」
「さぁ……」
思わず呟くが誰も応えられる者がいるはずもない。
「でも、こっちの世界を知る手掛かりにはなるかも?」
「そうかもしれないな」
ここは俺たちがもともと住んでいた地球の日本という国と非常に似ている場所である。だけどわかっているのはそれだけだ。それに何より、着信の相手が非常に気になった。ファンタジーな異世界で出会ったスマホではあるが、こうして元の世界に帰ることができたっぽいのだ。自分自身を重ねたのかどうかはわからないけど、俺は『じぃじ』と着信相手の名前が表示されたスマホを手に取った。




